弁護士 秋山亘のコラム

2016.02.22更新

借家の立退料

 

<質問>

 私は、あるビルの一室を借りて美容室を経営しております。ある日、突然、ビルのオーナーさんから立ち退きを求められ、次の契約更新はしないと言われました。オーナーさんは、ビルが古くなったので取り壊して、新しくマンションを建てるそうです。
 私は、新しい物件が決まるまでのある程度の猶予期間と相当額の立ち退き料をもらえれば立ち退きに応じてもよいと思うのですが、すぐに立ち退きに応じなければいけないでしょうか。

また、通常の立ち退き料は、どのように算定したらよいのでしょうか。

<回答>

1 近時における不動産価格の上昇と建物の老朽化を背景に借家の立ち退きに関する紛争と相談例が多くなっております。

  そこで、今回は借家の立退料についてご説明したいと思います。

2 借地借家法上、貸主が契約の更新を拒絶するためには「正当事由」が必要です。

この「正当事由」は、借家を貸主側が自己使用しなければならない必要性と借主側の借家利用の必要性を比較衡量して判断されますが、裁判では、「改築のため」「売却のため」と言った貸主側の都合だけで「正当事由」が認められる場合は殆どなく、相当額の立退料の支払いと引き換えに正当事由が認められる、或いは、いくら立退料を積んでも正当事由が具備されないと判断される場合が多いです。

したがって、借家人としては、「契約更新をしない」と言われても動揺することなく、立ち退きに応じるべきか否か、応じるとしてどの程度の猶予期間と立ち退き料が必要かを冷静に検討すればよいと思われます。

3 次に、どの程度の立ち退き料が相当な金額か、立ち退きの裁判になった場合どの程度の立ち退き料が認められるのかについてですが、これは、正当事由の具備の程度、退去後におけるビルオーナー側の当該ビルの利用目的、土地の時価・立地条件、借主の利用態様(自宅用か営業用か)などによって数百万円から数千万円、億単位になる場合もあるなど、事案によってかなりの幅があります。

  また、交渉によって立ち退き料を決める場合にも、交渉のやり方や相手方次第でだいぶ金額に幅が生じて来ることも確かです。

したがって、立ち退きに関する話し合いに入る前に、正当事由がどの程度具備される事案かも含めて、お近くの弁護士に相談し、あるいは、交渉を含めて依頼をされることをお勧めします。

4 交渉をする際、借主側の初回提示案としては、考え得る最大限の請求をすることになりますので、以下では立ち退き料の算定の際に積算し得る項目を挙げておきます。もっとも、これらの項目のうちどれが認められるかについては、貸主側の正当事由の程度によってだいぶ異なりますので、あくまでも交渉の材料程度にお考えください。

(1) 借家権価格

これを定める明確な基準はありませんが、借家権価格に関する不動産鑑定をすると、借地権価格(路線価の7割前後)の30%(住宅地)から40~50%(商業地)と出る場合が多いようです。

(2) 移転費用

①新店舗の設備費用

②入居費用(相当期間の差額家賃の補償)

③新店舗移転の案内状作成等の広告費用

④その他移転雑費

(3)  営業補償

移転工事期間の収入の補償、移転によって減収が予想される場合には相当期間に対して減収分の営業補償をする。

(4)  慰謝料

  上記(1)から(3)の補償では賄えない移転に伴う生活上の不便、その他精神的損害を補償するものです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

COLUMN 弁護士 秋山亘のコラム
FAQ よくある質問
REVIEWS 依頼者様の声