弁護士 秋山亘のコラム

2016.05.09更新

息子に自宅を無断売却されてしまいました

 

<質問>

 私(X)が病気で入院している間に、自宅にあった私の実印などを使って、息子が無断で自宅を譲渡してしまいました。後に、息子に問いただしたところ、譲渡した相手は、息子の知り合いの不動産業者Aで、私に無断で勝手に印鑑や権利証を使っていることも知っているとのことでした。しかし、その不動産業者が善意の第三者と称する別の不動産業者Bに自宅を譲渡し、移転登記まで済ませてしまったとのことです。

 息子が自宅を無断で譲渡したことは、委任状の筆跡や不動産業者Aとの会話の録音テープなどから証明できそうですが、Bは、善意の第三者であることを理由に仮にX-A間の売買契約が無効でも、民法94条2項の類推適用によって保護されるから自宅の返還には応じられないと主張しております。

 このような場合、自宅の返還は認められないのでしょうか。

<回答>

 本件の場合、X→A間の売買契約は、Xの息子がXに無断で行ったものであるため、無権代理により無効です。Aについては、Xの息子が無断で売買したことを知っていたのですから法的に保護さる余地がないのは当然ですが、BについてはX→A間の売買が無効であることを知らずに不動産を購入した場合には、取引の安全上、保護される余地もあるように思えます。

 本件でBが主張している民法94条2項とは、たとえばX→A間の売買契約が通謀虚偽表示(契約の当事者双方が売買の意思がないにもかかわらず売買契約を仮装するなどして内容虚偽の法律行為をすること)により無効であっても、善意の第三者Bに対しては、そのことを主張できないという規定です。このような場合、Xとしても真実の権利関係と異なる外観を作出したこと(売買契約の仮装)について責められても仕方がない事情(帰責性)がありますし、Cとしても取り引きの安全の見地からX→A間を売買契約を信じたことを保護する必要があります。そこで、民法94条2項は、Xは、XA間の売買契約の無効をBに主張できないことを定めたものです。

 このような民法94条2項の趣旨から、判例は、Xが虚偽の不動産登記の作出に積極的に関与した場合だけでなく、虚偽の登記の外観が存在することを知りながら長期にわたってこれを放置していた場合(X→A)においても、民法94条2項を類推適用することによって、善意の第三者を保護してきました(最判昭和45年9月22日民集24-10-1424)。

 しかし、判例が民法94条2項の類推適用によって善意の第三者を保護を優先したのは、虚偽の権利の外観を作出したことに対して真の権利者であるXにも帰責性が認められる場合です。Xにおいて、帰責性が認められない場合には、民法94条2項の類推適用は認められません。

 本件については、Xとしては病気で入院している間に、息子に無断で実印や権利証を使われて売買されてしまったというものですので、基本的には、Xには帰責性がなく94条2項の類推適用は認められないでしょう。もっとも、Xが息子による無断売買の事実を知りながら直ちに法的対応をすることなく、Aに登記が移転された状態を長期に渡り放置していたというのであれば、Xにも虚偽の権利の外観を作出したことに関して帰責性が認められる場合もあるでしょう。

 したがって、Xとしては、弁護士に依頼の上、直ちにBに対して自宅に関する各所有権移転登記の抹消を求めるべきでしょう。

 また、Bから更に違う第三者に所有権移転登記が為されないよう、Bに対して処分禁止の仮処分の申立も検討すべきでしょう。

                    

投稿者: 弁護士 秋山亘

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