定額郵便貯金・現金と相続
(質問)
1 遺産の中に定額郵便貯金があるのですが、遺産分割協議が成立するのに相当時間がかかりそうです。
そのため、私の法定相続分についてだけ、ゆうちょ銀行に対し定額郵便貯金の払い戻しを請求しようと思っているのですが、このような請求は認められるのでしょうか。
なお、この定額郵便貯金は平成15年に預け入れたもので、預け入れ日からまだ10年を経過していません。
2 相続財産の中に現金があり、それを一人の相続人が持っております。
この相続人に対し、遺産分割協議を経ることなく、直接、私の法定相続分に従った現金の支払いを請求できるでしょうか。
(回答)
1 質問1について
前回の寄稿でのご相談事例では、最高裁昭和29年4月8日を引用して、「金銭債権は分割債権であり、相続開始と共に法律上当然に分割される」という理由から、預金債権については、各相続人は、遺産分割協議をせずに、つまり他の相続人の同意がなくても、銀行に対し、自己の法定相続分に関する預金の払い戻し請求が可能であることをお話ししました。
しかし、ゆうちょ銀行の定額郵便貯金の場合には、上記のような判例はあてはまりません。すなわち、定額郵便貯金については、郵便貯金法7条1項3号において、「一定の据置期間を定め、分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するもの」と規定されております。
つまり、もともと一定期間は分割払戻が出来ない、という約束をした上で預け入れている以上、この据置期間内に相続が生じたからと言って、当然に分割払戻しが出来ることにはならないということになります。最高裁平成22年10月8日も上記と同様の立場をとっております。
したがって、定額郵便貯金については、普通預金債権と異なり、預け入れの日から起算して10年が経過するまでは、相続人は自己の法定相続分だけを払い戻しするよう、ゆうちょ銀行に対し請求することはできないということになります。
ただし、平成19年の郵政民営化により、現在は郵便貯金法は廃止になっております。したがって、上記最高裁判例の射程は、郵政民営化以前に預け入れられた定額郵便貯金に限られるという点に留意する必要があります。
2 質問2
預金債権が相続開始と同時に当然に分割されることから、現金も同様だと誤解されがちです。
しかし、最高裁平成4年4月10日(月報44-8-16)は、現金については動産と同様に扱うとしているため、相続人全員との遺産分割協議を経る必要があります。
したがって、遺産分割協議が成立しない間は、現金を持っている相続人に対し、現金の支払いの請求はできません。