債権回収は時効になる前に
最近、法律相談で「家賃の滞納が続いているのだけど支払ってもらえないのでそのままにしている」、「不況なので取立てを待ってあげている」ということをしばしばお聞きします。しかし、どうしても弁済を猶予してあげたいという場合でも、時効には注意しなければなりません。時効が完成してしまうと、法律上は債権(お金を回収する権利)が消滅してしまうからです。そこで、今回はこの時効という制度についてご説明したいと思います。
1なぜ時効という制度があるのか
時効とは、①一定期間の時の経過と②時効の援用(時効の利益を利用するという債務者の意思表示)によって債権が消滅する制度です(民法166条以下)。
なぜこのような一見不合理な制度があるのかと言いますと、①法律上の権利関係が長年決着つかない状態であると社会生活が安定しないこと、②昔の出来事なので証拠がなくなってしまっているのが通常であること、③権利の行使を長年怠っていた債権者は保護されなくても仕方ないことが理由となっています。
2時効の要件;一定期間の時の経過
では、一定期間の時の経過とはどのくらいの期間のことを言うのでしょうか。これはその取引の種類によって異なります。
まず、民法上の一般原則は、10年です。個人間の金の貸し借り上の債権は、これに該当します。
次に、商取引上の債権の時効は、5年です。企業がする取引上の債権は一般にこれに該当します。また、一方が個人でも、会社を相手とするお金の貸し借りもこれに該当します。
以上2つが基本ですが、この他に短期消滅時効と言って特別に短い期間で時効が成立するものがあります。
①時効期間5年のもの…個人がする賃貸借契約上の賃料債権
②時効期間3年のもの…請負工事の代金、医療行為の治療代、不法行為による損害賠償請求権(加害者を具体的に知ったときから数えて3年)
③時効期間2年のもの…生産者・卸売商人・小売商人が売る物品の代金、学習塾の月謝、弁護士の弁護料、労働者の賃金(但し退職金は5年)等
④時効期間1年のもの…飲み屋のツケ、運送代金等
3時効完成を妨げるには
このように、①時の経過と②時効の利益の援用で時効は完成しまが、時効の完成は「中断」によって妨げることができます。「中断」に該当すると、時効期間の経過は振出に戻り、一から再び始まるのです。
中断事由としては、①請求、②債務の承認、③仮差押、仮処分、差押があります。
①請求とは、訴え提起するほか請求書や催告状を出すことも該当しますが、請求書等を出した場合はその後6ヶ月以内に訴え(裁判)を提起しないと、時効中断の効果はなくなってしまいますので注意が必要です。
②債務の承認とは、債務者が債務の存在を認めることですが、債務の一部を弁済をする、利息を支払う、債務者が支払の猶予を申し出るなども債務の承認に該当します。
以上が中断事由ですが、これらを行う場合は、後に証拠となるように文書で残る形にするよう注意しなくてはなりません。例えば、請求書なら配達証明付内容証明郵便で出す、一部弁済なら銀行振込み形式にしてもらう、支払の猶予ならその旨の文書を債務者に一筆書いて頂く等です。