身元保証人の相続人の責任
(問い)父は証券会社で働く友人のAさんの身元保証人でしたが、最近父Bは死亡し、唯一の相続人である私が単独相続しました。その後、Aさんが会社のお金を横領して行方不明になってしまったのですが、証券会社から私に対して、Aさんが会社に与えた損害を償うよう請求がきました。私は責任を負わなければならないのでしょうか。
(答え)この問題を考える前提として、保証債務と相続の関係についてご説明致します。「保証債務」とは、本来の債務者がその債務を弁済しない場合に、債務者に代わって弁済する義務ですので、本来の債務者が弁済しない場合には保証人が代わりに弁済をしなければなりません。
また、「相続」は、「被相続人に属した一切の権利義務を承継する」ものです(ただし、相続放棄や限定承認の手続きをした場合は別です)。保証債務も財産上の義務ですから、相続人は被相続人の負担していた保証債務も相続することになり、相続人が「保証人」となります。したがいまして、被相続人が、金銭消費貸借の保証人であった場合は相続人が保証債務を負わなければなりません。つまり、債務者本人が、倒産したり行方不明になるなどして、弁済しない場合には、もともとの保証人だけでなく、もともとの保証人の相続人である妻や子が保証債務を相続することにより「保証人」となります。
ただ、ご質問のケースにつきましては、裁判所は、借金の保証人の様な普通のケースとは異なる判断をしています。身元保証人のケースでも、もともとの身元保証人であったBさんは自身は、Aさんが会社に与えた損害をAさんに代わって弁償しなければならない義務は負担していました。しかし、身元保証人の債務は、普通の保証債務とは異なり、一定額の債務の保証ではなく、本人(A)に将来発生するかも知れない広範な債務を保証するもので、この点が、債務の額が一定している借金の保証人等普通の保証とは異なります。
そこで、裁判所では、特別の事情がない限り、身元保証債務は、もともとの身元保証人だけにとどまる債務であって相続人には承継されないと考えられています。したがいまして、
ご質問のケースは、特別の事情がない限り、Bさんの相続人である子は、Bさんの身元保証債務を相続することはなく、会社に対し責任を負うことはないのです。
しかし、Aさんが会社に損害を与えた後に、Bさんが死亡した場合には、すでにBさんの保証債務の金額が決まっていますので、借金の場合と同じように、Bさんの相続人はBさんの保証債務を相続しますので注意してください。