大規模震災による建物倒壊と借地人保護-その2
<質問>
平成元年3月に地主から期間30年で借りた土地上の木造建物が地震により倒壊してしまいました。借地上に建物を再築する場合、私の借地権はどうなるのでしょうか。
<回答>
1 本問のように、建物の再築という場面では法律的にいかなる問題が生じるのでしょうか。
(1) 本件では、借地権設定から約22年が経過しているので、借地権の残存期間は約8年となっています。
しかし、前号でご説明しました臨時処理法が適用される場合には、残存期間が10年未満の借地権については、残存期間を10年とするものと定められており、借地人の救済規定が設けられていますので(同法11条)、同法を適用される場合には、残存期間は10年となります。
この点、借地法では、借地契約の期間満了時に建物が存在しない場合には、地主は、借地人の土地使用継続に対し、法定更新を妨げるための「異議申立」に際して「正当事由」を不要としております(借地法6条2項)。
そのため、残存期間があと僅かで建築資金を確保して建物を再築するまで時間的な余裕がないという場合に、残存期間が10年延長されることは借地人のための大切な救済規定と言えます。
(2) 次に、残存期間がどれだけ短かろうと、借地権は建物が滅失しても消滅しません。
そして、建物所有を目的とする借地権が借地人にある以上、借地人には、建物所有のために土地を使用する権利があるので、災害によって滅失した建物を再築すること自体には問題はありません。
しかし、本件のような場合、残存期間が8年(又は10年)にもかかわらず、何十年も利用できるような建物を再築すると、借地権の存続期間が満了した時点における借地権の更新拒絶や建物買取請求権(借地契約が期間満了により終了した場合に借地人が地主に借地上の建物を時価で買い取るよう請求できる権利)を行使した場合の時価算定など、複雑な問題が生じることになります。
そこで、借地法7条(本問は平成4年4月1日より前に設定された借地権なので借地法が適用されます)は、借地人が、このような借地権の残存期間を超えて存続するような建物を再築しようとしている場合につき、地主が遅滞なく異議を述べない限りは、借地権は建物滅失の日から起算して、堅固の建物(石造、土造、レンガ造又はこれに類するもの)の場合には30年間、非堅固の建物の場合には20年間、借地権が存続するものと規定しています。
他方、地主から遅滞なく異議が述べられた場合にも、再築そのものを止める必要はありません。この場合には、当初の契約における残存期間を超えて借地権を存続させることにはならないだけで、再築自体は可能です(この場合、異議を述べたことは、借地権の期間満了時に借地権の更新を地主が拒否した場合に、当該更新拒否の正当事由において地主側に有利に働くことがあります)。
したがって、②の回答としては、再築をすること自体には問題はなく、再築につき地主が遅滞なく異議を述べてこなかった場合には、当該建物が堅固・非堅固どちらに当たるかにより、それぞれ建物滅失の日から30年間・20年間借地権が存続することになり、異議を述べてきた場合には、借地権の存続期間は8年(又は10年)のままになる、ということになります。
なお、同様に平成4年8月1日以降に設定された借地権については、借地借家法が適用され、同法7条は、地主の承諾がある場合(1項)又は借地人からの再築する旨の通知に対し2カ月以内に異議を述べなかった場合(2項)に存続期間が20年延長する旨規定しています。