弁護士 秋山亘のコラム

2017.02.20更新

蒸発した夫名義の不動産を処分する方法

 

(ご質問)

 私の夫は蒸発して3年になります。その間、八方手を尽くして探したのですが、夫とは何も連絡がつきませんでした。

 夫が蒸発してからは夫は生活費の送金もしてくれないので、現在ある預貯金も底をついてきました。

 そこで、夫が親から相続した夫名義の土地を処分して、その売買代金を生活費に充てたいと思うのですが、夫不在のままでは売却することもできません。

 法的には何とかならないのでしょうか。

(ご回答)

 他人所有の不動産を当該他人に無断で処分することができないことは言うまでもありません。

 これは、夫名義の不動産を妻が処分する場合であっても同様です。特に、本件の不動産は、夫が相続によって親から相続した土地ですので、夫の特有財産として、離婚をしても、夫に対する財産分与として妻の持ち分を請求できない性質のものです。

 このような夫所有の財産を妻が勝手に売却処分しても、夫が帰来後当該処分行為を追認しない限り、当該売買契約は無効になりますし、場合によっては、夫に無断で処分をした妻は、詐欺罪・私文書偽造罪などの罪に問われる可能性があります。

 そこで、本件のようなケースでは、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申立てることを勧めます。

 不在者の財産管理人制度とは、本件のように蒸発して容易に帰来する見込みのない者の財産を適正に管理・保存することで、不在者の財産状況の維持を図ると共に、残留財産に利害関係を有する者を保護する制度です。

 不在者の財産管理人に選任された管理人は、不在者の財産の保存行為(例えば、不在者の債権を取り立てること、弁済期の到来し遅延損害金が発生する債務の支払いをすることなど)をすることの他、裁判所の許可の審判を得た上で、不在者の財産を売却処分することもできます。

 不在者の財産管理人の申立は不在者に対して債権を有する者など利害関係人が行うことができます。

 なお、本件のように申立人と不在者との間で利害関係が対立する可能性のある事案では家庭裁判所の方で弁護士などの適任者を適宜不在者の財産管理人に選任してもらう方がよいでしょう。

 本件のような場合では、夫は妻子に対し扶養義務があり毎月一定額の生活費を支払う具体的な義務があります。

 従って、妻は、「利害関係人」として、夫の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に不在者の財産管理人の選任を申し立てることができます。

 なお、家庭裁判所が、不動産の売却処分を許可するのは、当該財産について所有権を有する不在者の権利保護の要請もありますので、当該不動産を処分しなければならない特段の必要性と不動産の売却処分をしても不在者に不利とならない事情を主張する必要があると思われます。 

本件のように、妻や子が経済的に困窮していて夫から生活費が支払われなければならない必要性が高く、他方、夫の生活費支払い義務を根拠に審判を経て夫の不動産の競売を申し立てるよりも任意売却をした方が不動産を高く処分できるため不在者である夫にとっても有利であると認められる場合には、家庭裁判所も、不動産の売却処分を許可するものと思われます。なお、この場合、当該不動産の時価を明らかにするため、不動産鑑定士の鑑定書や複数の仲介業者の見積書の提出を求められます。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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