借地権の相続の法律問題
<質問>
父は、10年前から土地を借りて、借地上に店舗を建設し、洋品店を経営しておりました。しかし、昨年急逝したため、父の店は、相続人である私が引き継いで、経営を引き継ぐことになりました。そこで、地主に挨拶に行ったところ、借地契約の名義書換をしてくれなければ困ると言われ、名義書換料として地代の1年分を請求されました。
地主が言うように名義書換料の支払いに応じなければならないのでしょうか?
(1)の事例で、借地契約には「当該借地契約は借地人一代一限りで失効する」という特約が付されていました。
この場合、借地契約は上記特約により終了するのでしょうか?
<回答>
(1) 賃借権の相続と名義書換料支払いの必要性
借地人が死亡した場合、相続が開始し、借地権はその時から当然に相続人に移転します(民法882条・896条)。
この場合、賃借権だけでなく、これに付随する一切の賃貸借上の権利義務関係ないし地位が相続人に移りますから、地主と借地人との契約関係も法律上当然に相続人に承継されます。
そして、借地権の相続によって、その権利の持ち主の名義に変更が生じますが、この名義の変更は、賃借権の第三者への譲渡等とは異なり、地主の承諾を得る必要がなく、法律上当然に生ずるものです。
したがって、賃借権の名義変更による承諾料としての名義書換料を支払う必要はありません。
実際上、本問のように地主から賃貸借契約の名義書換や更新の申出を受けることもあります。
名義書換をしておいた方が権利関係を明確にするという意味では望ましいことですが、従前の借地契約が法律上当然に承継されますので、多額の名義書換料を支払ってまでして名義書換をする必要性は余りないのではないかと思われます。
(2) 契約期間を「一代限り」とする特約の効力
「賃借人が死亡したときには契約が終了し土地を明け渡す」旨のいわゆる賃借人一代限りの特約を結ぶ例もまれに見受けられます。この特約の法的性質は、不確定期限を付した合意解除契約といえます。
しかし、借地借家法(旧借地法)では、法の定める借地権の存続期間(借地借家法では30年)に反する特約は、無効とされています(借地借家法3条、9条)。賃借人一代限りとする特約は、借地契約後30年未満に賃借人が亡くなった場合にはその時点で賃貸借契約の期間が満了するという特約ですので、借地権の存続期間を最低でも30年とする借地借家法の規定に反することになります。
この点、裁判例(東京高判昭48・11・28/判時726・44)においても、賃借人一代限りとする特約は、借地法の定める存続期間に反する結果となり、借地人に不利なものとして無効である判示しています。
したがって、本件でもこのような特約は原則として無効と理解してよいと考えられます。
そして、この場合の存続期間は、期限の定めのない借地契約ということになるため、借地借家法3条の定める存続期間である30年と見なされることになります(最判昭44年11月26日/民集23・11・2221)。