店舗賃貸借契約の中途解約と権利金の返還
<質問>
契約期間4年の店舗賃貸借契約を結ぶ際、かなり高額の権利金を支払いました。しかし、事業が思うようにいかなくなったため、賃貸借契約書における中途解約の条項に従い2年間の使用後に契約を解約しました(契約書では解約予告期間が半年前となっておりましたので、半年前に解約予告の通知をしました)。
このような場合、借家人は賃貸人に対し権利金の一部を返還請求することはできるのでしょうか。
<回答>
1 権利金の法的性質
この問題を検討する前提として、権利金の法的性質について検討しておきたいと思います。
権利金の法的性質については、①営業上の利益の対価とする見解、②賃料の一部の一括前払いとする見解、③賃借権そのものの対価とする見解、④場所的利益に対する対価と見解、⑤上記①から④のいずれの性質も有するとする見解、などに分かれております。
いずれの見解も一長一短ですので、当該物件の場所的環境や契約締結の経緯など具体的事情に照らして、①から⑤のいずれの性質かを判断する必要があると思います。
2 賃貸借契約の途中解約と権利金の返還請求
(1) 契約期間満了による終了の場合
権利金は、通常は、契約期間の満了により賃貸借契約が終了した場合には返還されない(すなわち貸主が権利金の全額を取得する)ことを予想して交付される金銭です。
したがって、特別の合意が存在しない限り、賃貸借契約が「期間満了」により終了した場合には、借家人が権利金の返還を求めることはできません。
(2) 契約期間の定めがある場合に中途解約がなされた場合
契約期間の定めのある場合には、その契約期間内は賃借物件を使用・収益することを前提として権利金の額が定められているのが通常であり、契約当事者の合理的意思だと考えられます。このことは、前記の権利金の性質に関する①ないし⑤のどの考え方に従っても同様の事だと思われます。
したがって、そのような契約期間の途中に賃貸借契約が終了した場合には、借家人は、権利金を支払った分をいまだ十分に利用することができなかったものであり、他方、賃貸人側は権利金の全額を受領するに足る十分な期間借家人に対し賃借物件を利用させていないのですから、未経過の契約期間に相当する権利金については、返金を認められても、損失はなく、むしろ返金を認めるのが公平と言えます。また、中途解約による貸主の損失についても、相当な解約予告期間を設けるなどして損失を回避することも可能です。
したがって、下級審の裁判例(東京地判昭42・5・29判時497・49等)の多くは、権利金の性質が、営業ないし営業上の利益の対価であれ、場所的利益に対する対価であれ、賃料の一部の一括払いの性質であれ、その他であれ、賃借期間と残存期間とを按分比して、不当利得として残存期間分に相応する金銭の返還請求を認めております。これは、借家人の都合による合意解約の場合や中途解約条項に基づく中途解約の場合にも認められます。
また、借家人の債務不履行による契約解除の場合など賃借人が自ら招いた契約解除でも、権利金の返金が認められるかについて争われた事案でも、裁判例(東京高判昭29・12・6東高民時報5・13・298)は、契約解除の原因はともあれ、賃借期間を十分利用することができなかったことには代わりはないとして、やはり、残存期間に相応する分の権利金の返還を認めております。もっとも、借家人の債務不履行による契約解除によって賃貸人が受けた損害とは差引きされますので、この点には留意が必要です。
以上のように、契約期間が満了する前に契約が中途解約された場合には、未経過の契約期間に按分して権利金の一部の返金が認められるというのが裁判例ですので、本件でも権利金のうち2分の1相当額の返金を求めることが出来ると考えられます。