民法が定める短期消滅時効
<質問>
民法には、1年~3年というごく短い期間で時効になってしまう債権があると聞きますが、どのような債権がこれにあたるのでしょうか。
<回答>
1 民法上の債権の時効期間は原則10年です。商人(会社)との取引上の債権については5年が原則となっています。
しかし、民法170条~174条では、これよりも特に1年から3年という短い期間で時効になる債権を挙げています。うっかりこの期間を経過するまで、取り立てもせず、訴訟も起こさないと時効によって債権が消滅してしまいますので、注意が必要です。
以下、日常生活でよく問題になりそうなものについて、具体例をあげていきたいと思います(ただし、下記の例に限定されるものではありませんので、詳しく知りたい方は専門家にご相談ください)。
2 1年の短期消滅時効とされている債権(民法174条)
飲食店やホテルの宿泊代金、運送料、レンタルビデオ・レンタルCD・貸本・貸ふとんなどの貸出料(レンタル料)、個人が短期間に借りるレンタカー料金などです。
なお、同条1号では、労働者の賃金が挙げられているが、これについては労働基準法において時効期間が2年とされているため、1年の短期消滅時効の適用はありません。
また、同条5号では「動産の損料」、すなわち動産の賃料(レンタル料)が挙げられていますが、最高裁昭和46年11月19日判決(最高裁判判例解説民事編昭和46年度530頁)は、「民法一七四条五号にいう「動産ノ損料」とは、貸寝具、貸衣裳、貸本、貸葬具、あるいは貸ボート等のような極めて短期の動産賃貸借に基づく賃料をいうものと解するのが相当である。けだし、このような賃料は、極めて短期に決済され、その弁済につき領収書を授受しないのを通常とするため、特に短期の時効に服せしめてその権利関係を短期に決着させることにより、将来の紛争を防止する要があるのであつて、同条同号の法意はこのように解すべきものと考えられるからである。」と判示して、営業のために、数カ月にわたり借り入れられたショベルドーザーの賃料債権には民法174条5号は適用されず、通常の商事事項(5年)が適用されるとしております。したがって、業務用機器に関するある程度長期にわたるレンタル取引のレンタル料金などには、1年の短期消滅時効は適用ありません。
3 2年の短期消滅時効とされている債権(民法172条、同法173条)
生産者、卸売商人及び小売商人から購入した物品の売買代金、理髪代、クリーニング代、学習塾などの月謝、弁護士報酬などです。
とくに、物品の売買代金については、2年の短期時効なのに5年の商事時効が適用されるとの誤解により、時効が完成してしまっているケースが比較的多いため要注意です。
4 3年の短期消滅時効とされる債権(民法170条)
医療費や工事に関する債権などです。
5 5年の消滅時効とされている債権(民法169条)
以上のほかにも、賃貸借契約上の賃料、マンションの管理費・修繕積立金等については「定期給付債権」(一か月間につき○○円などの方法で支払う旨が定められている債権)といって、民法169条に基づき5年の時効期間とされています。