弁護士 秋山亘のコラム

2017.08.07更新

増改築許可の裁判

 

(質問)

 現在借地上に木造住宅を建てて住んでおりますが、近時の耐震問題等で不安なので既存建物と同じ木造住宅として全面改築をしたいと思います。

 賃貸借契約書では、増改築は地主の承諾を要すると記載されておりますが、地主は、建物の改築に承諾してくれません。

 この場合、どのような手続きを取ったらよいのでしょうか。

(回答)

1 借地借家法の増改築許可の裁判

  建物の増改築については、契約書上、建物の増改築禁止特約を結んでいる場合が通常です。

 従って、まずは地主の承諾を取り付ける努力をしてみるべきでしょう。それでも、承諾に応じない場合には、裁判所へ増改築の許可の裁判を求めることになります(借地借家法17条2項)。

  増改築許可の裁判の要件ですが、「土の通常の利用上相当であること」が要件となっています。

例えば、増改築によって建築基準法違反になる場合、近隣の日照権侵害が生ずる場合、土地を地中深く掘り下げる工事をする等土地の造成そのものに大規模な変化を加えてしまう場合には、「土の通常の利用上相当である」とは言えませんので、許可の裁判はおりません。また、近々借地権の存続期間が満了し(2年が一つの目安です)かつ更新拒絶の正当事由が認められる蓋然性が高い場合も許可の裁判は原則でません。

  しかし、以上のような事情がなければ増改築の許可は下ります。

  もっとも、建物増改築が為されると地主としても、将来の期間満了の際に更新拒絶の正当事由を具備することが難しくなる、期間満了の際に借地人から建物買取請求権(借地借家法上借地人は期間満了の際に地主に建物を時価で買い取るよう請求する権利があります)を行使されるという不利益を被ります。

そこで、増改築許可の裁判の際には、裁判所は、借地人に対し一定額の承諾料を地主に支払うよう命じ、その支払いを条件に増改築を許可するとの裁判を出す場合が殆どです。

この承諾料の相場ですが、全面改築の場合でも、更地価格の3パーセントが原則となっております。 事案によっては5パーセントまで増額することになっています。増額される場合としては、これまで住居用の建物であったのがアパート仕様の建物に変更する場合、建坪が大幅に増加する場合などです。

本件のように個人の自宅用の建物をこれまで通り自宅用の建物に改築する場合には更地価格の3%と考えてよいでしょう。

したがって、地主と増改築許可について裁判外で交渉する場合にも更地価格の3%というのが承諾料の目安になります。

なお、裁判所は、この他に、これまでの地代が近隣の地代相場に比べて特に低い場合には、承諾料の支払いのほかに、地代の改定も付随処分として行うこともあります。

本件でもこれまでの地代が相場より特に低い場合には地代が相場レベルまで上げられる可能性はあるでしょう。

2 借地条件変更の裁判との違い

  上記の増改築許可の裁判ですが、これと似て異なる裁判に借地借家法17条1項の「借地条件変更の裁判」というものがあります。

  これは、賃貸借契約書において借地上の建物は「非堅固建物に限る」「木造家屋に限る」という建物の構造・規模等に関する制限(これを「借地条件」といいます)がある場合に、これを変更して「堅固建物」(例えば、鉄筋コンクリート造りの建物)に全面改築する場合に行う手続きです。

  本件でも借地条件について契約書で「木造住宅に限る」とある場合に、鉄筋コンクリート造りの建物に全面改築したいという場合には、増改築許可の裁判ではなく、借地条件変更の裁判の手続きを取ることになります。

  ただし、この借地条件変更の裁判は、増改築許可の裁判と異なり要件がだいぶ厳しくなり、また、承諾料も更地価格の10%と高くなります。

  借地条件変更の裁判については、次回以降にご説明致したいと思います。

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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