弁護士 秋山亘のコラム

2017.08.21更新

表現の自由の憲法上の意義

 

<質問>
 新聞やテレビなどで「報道の自由」「表現の自由」「知る権利」の重要性についてしばしば論じられています。
なぜこれらの権利は重要とされているのでしょうか。


<回答>
今回は、憲法における「表現の自由」について少し考えてみたいと思います。
 憲法21条1項は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と規定し、同条2項は「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と規定しております。
 そして、憲法上、上記の表現の自由は、他の人権に比べて特に重要な「優越的価値」があるとされています。
 それはなぜかと言いますと、表現の自由は、国民主権、つまり、民主主義の政治を実現する上で不可欠な権利だからです。民主主義とは、国民の間での自由な闊達な議論や自由な情報の流通なくしては実現されません。
例えば、時の政府や権力が自分に都合の悪い情報の流通を阻止するために有形無形の形を取って表現の自由を脅かしたとします。その結果として政府に都合のよい情報しか流通せず、都合の悪い情報が隠された状態では、選挙の時にどの政治家が良い政治家なのかの正しい判断をすることはできません。選挙の時だけでなく、政府の政治的判断に影響を与える「世論」の形成にも、表現の自由の保障は不可欠です。
 そのため、表現の自由は、憲法のどの人権や統治機構上の要請よりも重要な「優越的な価値」が認められているのです。
 そして、この表現の自由から導かれるもう一つの重要な人権として「知る権利」があります。
憲法上は「知る権利」についての明文の規定はありません。しかし、いくら表現の自由、つまり、情報発信の自由が保障されていても、政府にとって都合の悪い情報が隠されていては、健全な選挙は実現できませんし、国民の間での自由闊達な議論も行われません。そのため、表現の自由の保障の前提となる権利として、「知る権利」も憲法21条1項によって保障されていると解釈されています。
このように「知る権利」も「表現の自由」と並んで健全な民主主義を実現するために不可欠な前提となる重要な権利とされております。
近時、原発再稼働問題や消費税増税問題等において国民を割った議論が行われようとしております。
日本の未来を左右するこれらの重要な問題において「国民の正しい判断」がなされるためには「表現の自由」と「知る権利」という二つの権利は、いま十分に保障される必要があると言えます。
一部の者だけに隠された情報がなく、また、市民の声の発信が妨げられることがないよう、上記二つの重要な人権の意義について、今一度考えていただければと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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