弁護士 秋山亘のコラム

2017.10.25更新

不動産取引にまつわる詐欺事例

 

はじめに

 近時様々な手口の詐欺事件や詐欺的商法による被害が報告されています。このような事件では実際に被害にあってしまうと、加害者の所在不明や資力の欠如のため被害回復は困難な場合があります。

 そこで、今回は、詐欺的商法の被害に遭わないための予防策として、これら詐欺事件・詐欺的商法の事例をご紹介します。今回ご紹介するケースと少しでも似ているなと思われた場合には相当慎重な対応が必要がであると思われます。

1 極度額一杯まで保証責任が及ぶ根保証・根抵当~根保証・根抵当に対する無知を利用して、保証金額が知らないうちに拡大~

近時「根保証」(ねほしょう)制度の濫用による思いもかけない保証責任を強いられる事例が報告されています。

 例えば、A社が、金融機関から百万円を借り入れたとします。その時に保証人が必要になり、友人のB社長に連帯保証人を頼むとする。B社長は、A社長が「借りるのは100万円だけだから」と懇願するので、100万円ならばあげたものと思って保証人や物上保証人(不動産に抵当権を設定)になってもいいだろうと思い、判子を捺す。しかし、B社長の保証責任は100万円ではすまないこともあるのです。

 それが、根保証・根抵抵当契約の場合です。根保証・根抵当とは極度額(きょくどがく)に至るまでA社長が借り入れた債務や利息・遅延損害金の一切を保証するという契約です。契約書が根保証契約・根抵抵当契約となっていて、空白になっていたり、1000万円となっている極度額を確認しないで判子を捺すと、後で、B社長が知らないうちにA社長が900万円を借りて支払い不能になった場合でも、B社長は1000万円の保証義務を免れることは基本的にできないのです。

 また、本物の詐欺の事件としては、A社長と貸手の自称金融機関Xが集団詐欺師である事例もあります。これは、A社長が最初は300万円の保証人になってくれれば、お礼として20万円をお渡しする、直ぐに返済できる当てがあるので絶対に迷惑をかけないと言うのでB社長が保証人になる、300万円はA社長の言うとおり返済されるが、次は、500万円の保証人になって欲しい、お礼は30万円出しますと言われ、前回の300万円の返済で信用してしまったB社長は500万円の保証人となる、その後500万円の返済が為された後、A社長は、最後の詐欺に取りかかるのである。A社長は、実際に借りるのは500万円だけだが、書面上だけ2000万円の根保証人をお願いしたい、お礼は50万円をお支払いしますと言われ、2000万円の根保証人になる。その後、A社長は夜逃げし、A社長に2000万円を融資したという自称金融機関Xから2000万円の根保証責任を追及されるのである。金融機関Xが本物の金融機関でちゃんとお金を貸している場合もあるし、実際にはお金を貸しておらずA社長と共犯の場合もあるでしょう。いずれにしても、根保証契約書やA社長にお金を貸した形跡のある領収書・預金通帳などをそろえられれば、B社長が根保証人の責任を免れるのは難しいと思われます。B社長は100万円の小金を得たものの結局は2000万円の根保証責任を果たすため、持ち家を売却せざるを得なくなったのです。

 A社長に「100万円しか絶対に迷惑をかけないから」などと言われてそれを信じたとしてもそのような主張はお金を貸した第三者には通用しません。このような契約の場合は、特に契約上の文章をよく読み、少しでも疑問点があれば質問をする、専門家の意見を聞くことが大切でしょう。根保証をするのであれば、極度額一杯の保証をするつもりでないと(多くのケースでは根保証人に通知が行くときには既に極度額一杯まで融資されている)根保証はすべきではないでしょう。

 なお、平成17年4月1日から改正民法が施行され、極度額の定めのない包括的根保証が無効となるなどの改正がなされました(本稿第41回参照)。

2 地面師

 不動産取引にかかわる詐欺の典型ともいえるのが地面師です。

 地面師とは、不動産登記簿を偽造するなどして、他人名義の不動産をその人になりすました上で勝手に所有名義を書き換えては、その不動産を担保に多額の融資を受けたり、第三者に売却するなどしてお金を持ち逃げする輩のことです。

 地面師による手口としては、登記所に赴き登記簿原本を閲覧している時に偽造した偽の登記簿と該当ページごとすり替えてしまったり、本人の委任状を偽造するなどして住民票を無断で移転し、移転先の住所で登記所から本人確認のために送られてきた書類を受領し、不動産の名義変更を完了させてしてしまうなどの手口がよく使われます。

 地面師対策ですが、これは当たり前のことではありますが、必ず現地を見て、誰がどのようにして住んでいる土地なのか、どのように使われている土地なのかを確認することです。

 現に住んでいる人に話を聞くだけで、登記簿が偽造されていたことが発覚するケースは多いです。また、不動産登記簿謄本を見た場合、短期間のうちに何人もの人が間に入って売買を繰り返されていたり、前所有者の住所表示が売買の直前に移転している場合には要注意が必要です。

3 結びに

 甘い話には乗ってはいけないと十分認識していたはずでも、「この人ならば間違いないだろう」と思ってしまい、お金を渡してしまう詐欺の被害は後を絶たないのが現状です。

詐欺師は、人を騙すため、というより見せかけの信用を作るためには労力やお金を惜しみません。例えば、打ち合わせの最中に、あたかも財務省の高級官僚から携帯電話があったかのようにして電話に出てみたり、大企業の社長から偶々もらった名刺をさも懇意にしているかのように見せてみたり、一度しかあったことがない弁護士の名刺を見せては相談に乗ってもらうならこの人を紹介するなどと言ってみたり、さりげなく自分が信用のある人間だと言うことを見せかけます。

「詐欺師は紳士の顔でやってくる」と言われますが、まさにその通りで、物腰の柔らかな接し方、法律や金融に関する詳しい知識、そして、紳士的な雰囲気など、その人が装っている雰囲気や知性にまずダマされてしまうのです。

また、詐欺師は、より大きいお金を引き出すため人を信用させるためならば、少々の費用は惜しみません。前記の通り、一等地に事務所を設けたり、お金のかかったホームページを作成したり、会社のロゴマーク入りの名刺を作ったり、時には、高級ホテルのスウィートルームを面談場所に指定したりもします。このようなお金のかかった演出にはダマされるなと言う方が無理なのかもしれません。

 このように詐欺師による人を信用させる為の工作は極めて巧妙です。

したがって、詐欺の被害に遭わない方法としては、第一に、詐欺師の外見や雰囲気だけにとらわれて判断しないこと、第二に、実際の取引内容を冷静に分析し・見極め、あまりにうますぎる話であれば必ず裏があると思った方がよいこと、第三に、これは逆説的でありますが、その相手方自身からもたらされたものではない情報や第三者の評価を重視することです。例えば、自分の足でその会社の本社に赴いて調べてみたり、親会社だという有名企業の総務部に問い合わせて見たり、時には興信所を使って第三者の評判を聞いてみたりすることです。

商売を成功させる為には、ある程度のリスクは覚悟して、千載一遇のチャンス掴まなければならない場合もあるでしょう。しかし、そのチャンスとは決しておいしい話、うますぎる話ばかりではないのではないでしょうか。

本稿を読んでいただくことで、詐欺師とはどのような人達なのか、詐欺にはどのような手口があるのかを実際に認識していただき、少しでも、詐欺の被害に遭わない為の予備知識として頂ければ幸いです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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