契約社員の人員整理と解雇権濫用法理の類推適用
<質問>
当社には,正社員45人,契約社員5人がいます。契約社員Aの契約期間は半年間で,これまでに5回の更新を経て,もうすぐ丸3年が経とうとしています。
しかし,昨今の不況の影響もあり,わが社の経営状態は思わしくなく,このたび,経費削減の一環として人員整理を行うことにし,Aについては次回の更新をしないこととしました。これにつき何か問題はあるでしょうか。
<回答>
契約社員など,一定の期間の定めのある労働契約(有期労働契約)が締結されている場合,その契約は,期間の満了とともに終了するのが原則です。したがって,正社員を解雇する場合と異なって,解雇予告など,何らかの手続を採らなければならないというわけではありません。
しかし,有期労働契約の終了(いわゆる雇止め)については何の法的規制も及ばないというわけではありません。労働契約法16条は,正社員の解雇について規制していますが(いわゆる解雇権濫用法理),有期労働契約についても,一定の場合には同条が類推適用されると考えられています(最判昭49・7・22民集28・5・927,最判昭61・12・4労判486・6など)。
解雇権濫用法理が類推適用される有期労働契約であるか否かについては,①職務内容の恒常性・臨時性,②勤務実態の正社員との同一性・近似性,③有期雇用労働者の基幹性・臨時性,④更新手続の態様・厳格さ,⑤雇用継続を期待させる使用者の言動・認識の有無,⑥ほかの労働者の更新状況,等を総合考慮して,有期雇用労働者の雇用継続に対する期待が法的保護に値するレベルに達しているか,という観点から判断されます。具体的事情によって大きく左右されますが,次の3つの類型のうち,どれに当てはまるかを第1次的な判断材料にすると良いと思います。
第1は,「実質的に無期契約と同一」タイプです。これは,期間の定めが形骸化しており,実質的には期間の定めのない労働契約と異ならない状態であると認められる場合です。何度も更新をしている場合で,その更新手続が形骸化しているような場合が典型です。
第2は,「有期雇用であるが解雇規制を類推する」タイプです。第1の類型と異なり,期間の定めや更新手続が明確なため,無期契約と同視することはできないけれども,前記①~⑥を考慮した結果,雇用継続の期待が高いと判断される場合です。雇止め規制の本来的対象となるような類型といえるでしょう。
第3は,「当然終了」タイプです。期間雇用であって当然には契約が更新されるものではないことを労働者も十分認識しており,更新手続も厳格になされているという場合にはこの類型に該当するといえるでしょう。この類型に該当する場合には,解雇権濫用法理の類推適用はありません。
Aさんについても,前記①~⑥の考慮要素次第では,第1または第2の類型に当たる可能性があります(更新手続の厳格さ,Aさんの担っている職務の重要性,更新を期待させるような言動が有ったか等がポイントになるでしょう)。その場合には,解雇権濫用法理が類推適用されますので,人員整理目的での雇止めについては,整理解雇の4要件を満たす必要があります。