商人間の売買には買主の検査義務があります
<質問>
(1) 当社は、X社から当社製品の原材料なる輸入小麦粉5000袋を仕入れましたが、年末の拡大生産のために、仕入れた原材料の数量検査をすることなく、3か月間放置してしまいました。年が明けて生産も落ち着いてきたところで、仕入れた原材料の数量を検査したところ、4500袋しかなく、500袋足りない状態でした。
そこで、X社に500袋足りない旨を通知しましたが、X社は納品時には間違いなく5000袋納品したはずだ、納品時に数量を確認しなかった当社に非があるとして取り合ってもらえません。
500袋の不足があることを証明できれば不足分の引き渡し請求はできるのでしょうか。
(2) (1)の事例で、納品時にきちんと棚卸検査をし、仕入品の数量は正しかったのですが、納品時から約10か月後に食料品の安全性の検査を受けたところ、仕入れた小麦粉には基準値を超える残留農薬が含まれており、商品として使い物にならないことが分かりました。
このような場合、瑕疵担保責任を理由にした売買契約の解除はできるでしょうか。
<回答>
(1) 質問(1)の回答
商法第526条1項では、商人間の売買契約に関して、買主が目的物を受取った時は、遅滞なくこれを検査し、目的物に瑕疵又は数量不足があることを発見した時は直ちに売主に対してその通知をしなければならず、買主がこの検査・通知義務を怠ったときは、目的物の瑕疵あるいは数量不足による損害賠償請求、代金減額請求あるいは契約解除ができなくなると定められています。
本問の場合、会社間、すなわち商人間の売買契約ですので、商法第526条1項の適用があります。
したがって、買主には納品後遅滞なく商品の数量を検査する義務がありますので、本問のように納品時から3か月も商品の数量の検査を怠っていた場合には、たとえ500袋の不足を証明できたとしても、商法第526条1項により、不足分の請求はできなくなります。
もっとも、商法第526条2項は、目的物に瑕疵又は数量不足があることについて売主に悪意があった場合(知っていた場合)には、1項の適用はないと規定されております。
したがって、500袋の不足があることを売主が知って納品したことを証明できる場合には、売主に不足分の引き渡し請求をすることができます。
(2) 質問(2)の回答
商法第526条1項では、目的物に直ちに発見できない瑕疵(隠れた瑕疵)がある時でも、買主は目的物の引き渡し時から6ヶ月以内に瑕疵を発見して売主に瑕疵担保責任の請求をしないと瑕疵担保責任の請求はできなくなる旨を定めています。
したがって、本問の場合には納品時から10ヶ月が経過しておりますので、買主は瑕疵担保責任による契約解除はできません。ただし、売主において目的物に瑕疵があることを知って納品したことを証明できれば、商法第526条2項により、瑕疵担保責任による契約解除はできます。
このように商人間の売買契約においては、取引の迅速性が特に重視されており、買主側の検査義務、瑕疵担保責任の行使期間の制限などが商法で定められています。
買主側としては、このような商法526条1項の規定を念頭に売買契約を締結しなければなりません。商法526条1項の規定は任意規定です。売買契約書において事前に「本件契約においては商法526条1項を適用しない」との条項を設ければ適用を排除できますので、検討されることをお勧めします。