老朽化した建物の建て替えを理由とした明け渡し請求
-その2 立退料の提供なく正当事由を認めた裁判例
<質問>
建物の老朽化による立退請求の事案では、どのような事案であっても立退料の提供は必要なのでしょうか。
<回答>
裁判例としては、建物の老朽化による立退請求の事案では、ある程度の額の立退料の提供を必要とする事案が多いといえます。
しかし、家主側の正当事由が強く、賃借人側の要保護性がかなり低いと認められる事案については、立退料の提供を不要とした裁判例もあります。
東京地判昭61・2・28(判時1215・69)は、賃貸人Xが建物をXの弟である賃借人Y及びその子に賃貸しており、Yらは同建物で不動産業を営んでいたという事例で、当該建物の老朽化が進んでいること、Xの老後の生活安定のため本件建物を取り壊して建て替える必要があることから、立退料の提供なしに申し入れた解約について、正当事由を認めています。
この事例では、賃貸人と賃借人が兄弟であり、賃借人が建替計画を知って入居していること、賃借人が不動産業を営んでおり、移転先を見つけるのが容易であることが特に考慮されて、立退料の提供を不要とされております。
また、東京地判平3・11・26(判時1443・128)は、当該建物は築後60年以上経過し老朽化が著しく地盤崩壊等の危険性があること、賃貸人は高齢であり当該建物を取り壊して今後の生活の基盤となるビルを建築する必要があること、当該建物の近隣には賃借人が現住し所有するビルが存在するなど賃借人の営業場所の移転が比較的容易であることなどから、賃借人が薬局として使用している建物の賃貸借の解約の申し入れに、立退料の提供なく、正当事由を認めております。
この事例では、老朽化が激しく、地盤崩壊等の危険性など建物の安全性に鑑みて、公共の安全の見地からも建て替えの必要性が極めて高いことを重視して、立退料の提供なくして正当事由を認めたものと考えられます。
以上二つの裁判例のように立退料の提供を不要とする裁判例は、まだまだ裁判例の傾向として主流であるとは言い難い状況であると思われます。
しかし、建物の地震に倒壊は、建物に面した道路を歩行する人の生命にも影響を及ぼします。その意味で建物は公共的な存在であると言えます。
このような観点からすると、老朽化が激しく地震等による倒壊の恐れが現実的な事案については、立退料の提供なくして、立ち退き請求が認められるとする事案も今後は、少しずつ増えてくるのではないかと思われます。
以上のように、建物の立退請求の事件は、事案によって高額の立退料の提供を要するものから、立退料の提供なくして立退が認められるもの或いはかなり低額の立退料で立退が認められるものまで様々ですので、立退請求の事案では一度専門家の弁護士に相談されることをお勧めします。