マンションにおける店舗としての利用
<質問>
(1)私のマンションでは、管理規約において「専有部分を営業のために使用できない」との規定があります。
しかし、ある区分所有者がマンションの一室を利用して宅配料理の営業を始めました。
宅配業であっても、マンションの一室で料理店を開くとなると、衛生上問題でありますし、夏場などはゴキブリなどの害虫も増えるとして、住民間では問題になっております。
このような場合、管理組合としてはどのような対処ができるのでしょうか。
(2) 私のマンションでは、管理規約において、「専有部分を事務所として使用することを禁止する」との規約が存在します。
しかし、この管理規約は、現在では有名無実化しており、半数近くの区分所有者が専有部分を事務所として使用しており、私もここ5年以上の間、会社の事務所として使用しています。
ところが、ある理事会の席で、私とある区分所有者が不仲になり、それを切欠に、その区分所有者から、私が専有部分を事務所として使用している点を捉えて「管理規約に違反することから、専有部分を事務所として利用するな」と執拗に迫られるようになりました。また、近く管理組合の総会で、専有部分を事務所として使用するのを差し止める裁判を提起することが決議される状況です。
このような場合でも、事務所としての使用差し止めは認められるのでしょうか。
<回答>
1 質問(1)について
(1)マンションの管理規約に、「専有部分を営業のために使用できない」「専有部分は住居としての利用に限定する」「専有部分を事務所に使用することはできない」と定めがある場合には、そのような管理規約も有効です。
そして、上記のような規約違反の行為によって、他の区分所有者に悪影響を及ぼし、区分所有者の共同の利益にも反すると言える場合には、管理組合(原告となるのは区分所有法上の「管理者」である管理組合の理事長個人)は、総会の決議を経た上で、区分所有法57条1項に基づき、共同の利益に反する行為の差止めを請求することができます。
(2)本件でも、マンションの一室で宅配料理業を開業する行為は、「専有部分を営業のために使用できない」という管理規約に違反する行為であり、また、マンションの一室で料理店を開くとなると、衛生上問題が生じるほか、夏場などはゴキブリなどの害虫も増える恐れがあることから、共同の利益に反する行為と言えます。
したがって、裁判を提起すれば、専有部分を宅配業として使用するのを差し止める請求は認められるでしょう。
なお、勝訴判決を経たにもかかわらず、相手方が判決に従わず営業を継続した場合には、「相手方が営業を辞めるまで一日当たり○○円の損害金を管理組合に支払う」ことを命ずる間接強制の申立が可能です。
(3)このように裁判によって最終的に解決することも可能ですが、できれば、訴訟に至る前に相手方において自ら営業を辞めるようにして欲しいものです。
このように、紛争解決のために裁判の提起まで要するのを事前に予防するためには、管理規約において「管理組合の警告にもかかわらず、違反行為を辞めない場合には一日当たり○○円の違約金を支払う」という条項を入れておくことをお勧めします。
金銭という明確な形で違約金が発生することを明記しておけば、相手方も営業を辞めるのに時間をかければかけただけ違約金の金額が増える訳ですから、任意に営業を辞める可能性が高くなります。
2 質問(2)について
管理規約における事務所禁止条項が事実上有名無実化しながら、管理組合がこれに対し、警告等の措置を講じず、長年放置していたという場合で、事務所としての利用によって著しい支障が生じていない場合には、管理組合の使用差し止めの訴えは、権利の濫用にあたるとして棄却される場合もあります。
裁判例としても、東京地判平成17年6月27日判例タイムズ1205-207)は、管理規約に違反してエステティックサロンとして専有部分を使用していた事例において、「原告が、住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し、かつ、現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら、他方で、事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ、特に合理的な理由もなく、しかも、多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により、被告に対して、治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は、クリーン・ハンズの原則に反し,権利の濫用といわざるを得ない。」と判示しております。