借家契約において無効となる条項
<質問>
借家契約では契約書で家主に有利な規定を設けても無効になる場合があると聞きます。どのような条項が無効になるのでしょうか。
<回答>
1 借地借家法では、一定の事項については仮に契約書等で賃貸人に有利な条項を定めても無効になる旨を定めております。これを強行規定といいます。
借地契約については借地借家法9条が、借家契約については借地借家法30条がこれに当たります。
具体的には借家契約の場合で、借地借家法28条(賃貸人は正当な事由がなければ更新を拒絶しまたは解約の申し入れをすることができない)、同法26条1項(期間満了前1年~6カ月の間に更新拒絶の通知をしないと契約は自動的に更新されたものと見なされる)、同法26条2項(期間満了前の26条1項の通知をした場合であっても、賃借人が期間満了後も建物の使用を継続している場合には賃貸人が遅滞なく異議を述べないと自動的に更新されたものと見なされる)、同法29条(1年未満の契約をした場合には期間の定めがない契約と見なされる)などの規定が強行規定にあたります。
したがって、これらの規定に反する条項で賃貸人に有利な条項は無効とされています(借地借家法30条)。
2 具体的に問題となった例としては以下のような条項があります。
・家主の要求があれば直ちに明け渡す旨の特約
このような条項は、借地借家法28条の正当事由(地主の自己使用の必要性に関わる正当事由)がなければ解約できないとの条項に違反します。
また、建物の立ち退きに当たっては一切立ち退き料を請求しない旨の条項 も、立ち退き料の提供は正当事由を補完するための重要な要素ですので、このような条項も実質的には借地借家法28条に反するものとして無効になります。
また、家主の療養中に限り賃貸する旨の条項なども実質的に借地借家法28条に反するとして無効とされております(ただし、ここで述べているのは、療養が終わっても当然に借家契約が終了しないという意味ですので、療養が終わり家主が当該借家を自己使用する必要性が高いという事情は、借家契約の更新拒否の正当事由の一つとして考慮されます)。
なお、一定の期間に限り賃貸に出したいという場合には、借地借家法38条の各要件を備えることにより成立する定期借家契約という方法がありますので、この方法を検討するべきでしょう。
・賃借人が差し押さえを受け又は破産宣告の申し立てを受けた時には、家主は直ちに契約を解除することができる旨の条項
差し押さえを受けたり、破産宣告の申し立てを受けただけで、家賃はきちんと支払い続けているという場合には、賃借人は何ら債務不履行(家賃の滞納)をしたことになりませんので、このような事項は借地借家法28条の正当事由にはなりません。
したがって、このような条項も無効になります(最高裁昭和43年11月21日民集22・12・2726)。
なお、賃借人の破産は、かつては民法上の賃貸借契約の解除事由とされていましたが、前記のような理由から合理性がない規定だとして民法の規定からも削除されています。
3 このように、賃貸借契約の終了事由に関わる条項の多くは、借地借家法28条の定めと実質的に反するという理由で無効とされておりますので、契約書の検討の際には特に注意が必要です。