私道の通行妨害に関する法律問題
<質問>
ある土地を購入して、駐車場経営をしようと考えております。しかし、その土地は、公道には面しておらず、第三者が所有する建築基準法42条2項のみなし道路に指定されている私道にしか通じていません。そこで、この私道の所有者に「上記の土地を購入して駐車場を作りたい」旨の挨拶に行ったところ、「私道なので車の通行は許さない」と言われてしまいました。
私としては、私道であっても道路である以上、車の通行を許さないなどという理屈は通用しないと思います。現にその私道には近隣住宅の所有者の自動車が通行しております。
上記の土地を購入して駐車場を作っても問題はないでしょうか。
<回答>
結論から申し上げますと本件のような場合には、私道の所有者から通行権(通行地役権等)を設定してもらい、当該私道部分における駐車場の車の通行を認めてもらった上でなければ、購入は中止した方がよいと考えられます。
といいますのは、私道の所有者等による私道の通行妨害があった場合に、そのような通行妨害を禁止するよう請求するための要件として、最判平成5年11月26日(判時1502号89頁)、最判平成9年12月18日(民集51巻10号4241頁)、最判平成12年1月27日(判時1703号131頁)は、①当該私道が建築基準法上の私道であること、②通路が現実に開設されていること、③通行が日常生活上不可欠であること、④私道所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情がないこと、という4つの要件を全て満たす必要があるとしています。
上記要件の中で特に注意が必要なのが、③の「通行が日常生活上不可欠であること」という要件です。
本件のような場合には、駐車場を建設して、駐車場収入を得るといういわば「営利的な目的」による私道の通行ですので、このような場合には私道の通行が「日常生活上不可欠」とは言えないと判断されます。
前掲最判平成12年1月27日も上記のような理由で、私道に対する通行妨害の排除の請求を棄却しております。最高裁判決のいう「日常生活上の不可欠の利益」とは、私道だけに通じる土地に自宅を所有する者が生活のためにやむを得ず通行する利益のことですので、商業上の利益は含まれないことになります。
なお、自宅の駐車場に止めてある車を通行させることに関してはどうかという点ですが、例えば、高齢や障害のため車での外出が不可欠などの事情があれば、「日常生活上の不可欠の利益」と言えると思います。しかし、単に自宅に車の駐車場があると便利であるという理由だけで「日常生活上の不可欠の利益」があると言えるかについてはかなり微妙な問題があります。
最高裁が上記③の要件を設けたことに関しては、私道上には構築物を設置することを禁止する行政上の規制違反を結果的に容認することになるなどの学説上の批判があるところですが、平成12年の最高裁判決ですので、上記③の要件は今後も当分の間は維持されると考えられます。
したがって、私道の所有者の意向を無視して駐車場を建設しても、私道の所有者が私道上にポールを設置するなどして通行を妨害した場合には、そのような通行妨害の禁止を求めることはできないと考えられますので、私道所有者との間で通行権の設定に関する合意が成立しない場合には、土地の購入は中止しておいた方がよいと考えられます。