弁護士 秋山亘のコラム

2019.02.04更新

下水道の設置について

 

隣地所有者の排水設備の利用

 私の家は袋地ですが、この度、公共下水道の処理区域内となりました。下水を公共下水道に流入させるため、囲繞地に排水管を設置することは可能ですか。また、隣人の設置した排水管を一部利用させていただくと、とても費用が安くすみますがそのようなことは可能なのでしょうか。

1下水道法の規程
 下水道法10条1項は、「公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道区内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という)を設置しなければならい。」と定めています。
 わが国の下水道の普及率は非常い低く、浄化槽等を利用して排水を処理しているところが非常に多いというのが現状です。多額の費用をかけて新たに公共下水道の供用を開始した場合には、皆に利用してもらわなければ意味がありません。
 しかし、今まで特段の問題もなく浄化槽等により排水を処理していた者が、公共下水道を利用するために、自己の土地から本官までに新に排水設備の工事をしなければならず、新に出費が必要とされるので、この規程により、下水道の利用を法律上義務化したのです。
 また、下水道法11条1項では「(第10条)第1項の規程により排水設備を設置しなければならい者は、他人の土地又は排水施設を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水施設を設置し、又は他人の設置した排水施設を使用することができ。この場合においては、他人の土地又は排水設備にとって最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない。」と定められています。
 また、他人の土地に排水設備を設置した者は、その排水設備の改善、修理、維持のために、その他人の土地を使用することができます(下水道法11条3項)。
 しかし、これらの規定により、他人の土地を使用することで、損害を与えた場合、損失を補償しなければなりません(下水道法11条4項)。また、他人の排水設備を使用する者は、その利益を受ける場合に応じて、設置、改善、修理、維持に要する費用を負担しなければなりません(下水道法11条2項)。この費用負担の割合は、両地の排水量を基準とするとされています。
 また、民法上の相隣関係の規定中、下水に関しては、民法220条の余水排池権と民法221条の流水用工作物の使用権があります。

2 近時の裁判例
 東京地判平成9・7・10【判タ966号223頁】は、水洗式の便所へ切り替えるため、下水の排水のために隣人の設置した既存の排水管の利用の承認を求めた訴えにつき、既設の排水管がたまたま建物の下を通っているという特殊事情を考慮し、新たに水洗式便所汚水が合流することにより、万一、管が詰まるなどして改修工事の必要が生じた場合には、建物を一部にせよ取り壊すなどして下水工事を施工しな
ければならなくなるおそれがあり、迂回路になるとはいえ、前記私道に排水管を新設するという方法も十分考え得ること等を理由に、請求を棄却しました。
 また、東京高判平成9・9・30【判タ981号134頁】は、付近の土地の排水設備の設置状況および本件土地の所在する場所の環境にかんがみると、本件土地につき排水設備等を設置することは、本件土地の利用に特別の便益を与えるというものではなく、むしろ、建物の所有を目的とする本件借地契約に基づく土地の通常の利用上相当なものというべきであるから、賃貸人である控訴入らにおいて、本件土地につき排水設備等を設置することにより回復し難い著しい損害を被るなど特段の事情がないかぎり、その設置に協力すべきものであると解するのが相当である。 そうであれば、控訴人らは、被控訴人が本件土地につき排水工事および水洗化設備の新設工事をするにあたり、これを承諾し、かつ、右工事の施工を妨害してはならないものといわなければならい旨判示しています。

3 設問の場合
本件では、まずこちらの土地が「公共下水道の排水区域内である」こと、そして「他人の土地を使用しないと下水の公共下水道への流入が困難である」ことがポイントとなります。
本件は、袋地であって、囲緯地通行権を有しているような案件であれば、下水道法=条1項の規定により、隣地に排水設備を設置し、または隣人の設置した排水設備を使用することができることになります。その際の設置場所については、「他人の土地又は排水設備にとって最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない」と規定されているので、原則として、囲続地通行権による通路の下ということになるでしょう。
ただ、それがあまりに下水道に排水するにあたって迂遠であり、多額の費用を要するような場合には、別の部分を利用することも可能でしょう。
また、隣人の設置した排水管を一部利用させていただくことも、先出の東京地裁判例のように特殊な事情のないかぎり可能です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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