弁護士 秋山亘のコラム

2019.03.04更新

マンション管理費等の回収方法

 

1 はじめに

 文京区支部の組合員には、マンション管理に携われている方が多いかと思います。管理費や修繕積立金は月額2万円~3万円程度のものも多く、1年も滞納されても裁判をするには、特に弁護士に頼んで裁判をするには、費用倒れとなってしまう事例が多々あり、困っている管理組合も多くあります。

 私も管理会社の顧問をしておりますが、弁護士として行う労力に見合った報酬をいただきにくく、悩みながら事件に当たっているのが現状です。

 そこで、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「建物区分所有法」と言います)の特例もご紹介し、実践的な回収方法を考えてみたいと思います。

2 管理組合の努力の必要性

 管理会社が行うべきことは管理委託契約で定められています。管理会社は、滞納がある場合には通常、催告書を出し、それでも回収できなければ管理組合に報告します。それ以上は(現実に回収することまでは)、本来管理会社の責任ではありません。管理組合は、必要とあらば、裁判などを提起することになります。

 管理会社は裁判の代理人とはなれませんので、裁判をすることまでは管理会社の義務にはなりません。裁判の代理人になれるのは弁護士に限られています(正確に言えば、簡易裁判所の事件(金額が90万円以下の事件)について会社の従業員が会社の代理をする場合や、本人が裁判をするのに病気などにより支障があるとき家族が代理をする場合などは、簡易裁判所の許可があれば出来ます)。

 管理組合の理事が滞納している組合員(区分所有建物の所有者)に管理費の重要性を説明するなどして回収に努力し、成果を挙げているところもあります。裁判等をする前にまず管理組合に(実際は管理組合の理事に)努力してもらう必要があります。このような活動を通じマンション管理の大切さをわかってもらえることもあります。

 一度に支払えない場合には、分割払いをするという「念書」を書いてもらうとよいでしょう。

 管理費等の消滅時効は5年です。「念書」を書いてもらうことは、時効の中断をするためにも役に立ちます。

 また、区分所有建物が賃貸されているときは、区分所有者の同意を得て、賃借人から賃料の一部を管理組合に管理費として支払ってもらえるよう交渉するとよいでしょう。

3 先取特権の活用(建物区分所有法7条)

  通常債権を回収するには、裁判や支払督促の申立てをし、判決や支払督促に基づき債務者の財産(不動産・動産・債権等)を差押え、これから得られる売却代金などから弁済を受けるということになります。判決書に代わるものとして執行認諾約款付公正証書もあります。

  建物区分所有法第7条では、管理費等について、当該区分所有建物及びその区分所有建物に備え付けられた動産(畳・建具・家具調度・什器備品等)に先取特権があると規定しています。即ち、この先取特権により、特に判決や支払督促がなくても、直ちにその区分所有建物や区分所有建物に備え付けられた動産について、競売をすることができることになっています。

 ただ、先取特権があることを証明する文書として、管理規約や集会・理事会の議事録(管理等の金額・理事長の選任)などの書類が必要となります。管理費等の改訂は集会の決議で行えますが、集会の議事録により証明することが必要です。多くの管理組合では、可能でしょう。

(1)不動産の先取特権による競売申立て

  法律では先取特権に基づく区分所有建物の競売が認められていますが、実際には利用されていないようです。その理由は、東京地方裁判所の場合競売の予納金として80万円ほど裁判所に預ける必要があるからです。

 滞納管理費は50万円を超えるというような例は余り多くなく、回収すべき金額より多くの予納金を納めなければならないのでは、利用しにくいのではないかと思われます。

 また、区分所有建物に抵当権が設定されていて、抵当債権の額が最低競売価格より大きいと予想される場合は、管理組合が競売の申立てをしても却下されてしまいます。抵当権が設定されていて、その抵当権者の債権も全額回収できないような場合は、管理費等の先取特権は抵当権などより効力が弱いので、管理組合が競売の申立をしたとしても、競売代金の配当金が回ってきません。そのような無駄な手続をする必要がないと考えられています。また、抵当権者にとって不利な時期に競売をされてしまうという可能性もありますので、それを避けるということもその理由の一つになっています。このようなことで、抵当権が設定されていますと、競売開始決定が後で却下されてしまう場合があります。この場合は、それまでかかった費用は返って来ません。

(2)動産の先取特権による競売申立て

 先取特権による動産の差押えは、債権者である管理組合がその動産を占有しているか、債務者が差し押さえることを「承諾した文書」が必要となります。このようなことは実際上まずありえないと思います。この権利は「絵に描いた餅」と言え、利用することは事実上不可能です。

  また、仮に、債務者が「承諾した文書」を入手できたとしても、費用倒れになる可能性が極めて高いのです。動産執行は、家財道具等が対象になりますが、このような動産を競売しても実際には費用にも満たないことが多いからです。そこで、特別な場合を除きお勧めできないのが現状です。 このことは判決に基づいて行う動産の強制執行(差押え)についても同じことが言えます。

 なお、「建物に備え付けられた動産」と規定されていますので、現金・有価証券・衣服・宝石などが区分所有建物内にあっても、競売をすることはできないと解されています。

(3)家賃の先取特権による差押え

  管理費等は、区分所有建物の上に先取特権があると規定されいますが、その優先権の順位や効力については、共益費用の先取特権と同じとされています(建物区分所有法8条2項、民法306条以下)

 そして、民法304条では「先取特権は其目的物の売却、賃貸、滅失又は毀損に因りて債務者か受くへき金銭其他の物に対しても之を行ふことを得但先取特権者は其払渡又は引渡前に差押を為すことを要す」と規定されていますので、区分所有者がその区分所有建物を他の第三者に賃貸している場合は、管理費等の先取特権によりその家賃を差し押さえることができます。

  家賃を差し押さえることができれば、賃借人は家賃を賃貸人である区分所有者でなく、管理組合に支払わなければなりません。万一その賃借人が管理組合に家賃を支払わない場合は、その賃借人を相手に家賃を支払うよう裁判をすることになります。

  この家賃の先取特権による差押えは、当該区分所有建物やそれに付属した動産の差押えと異なり、実効性があり、活用すべきものと考えます。

4 特定承継人に対する請求(建物区分所有法8条)

  区分所有建物の所有者が管理費や修繕積立金を滞納していた場合は、管理組合はその区分所有建物を購入した新所有者(競落人も含みます)に対しても滞納管理費等を支払うよう請求が出来ます。このことは、管理費などの債務はその区分所有建物と一体不可分のものと考えたら理解しやすいでしょう。管理規約では、区分所有建物を売却しても、修繕積立金を清算して返還するよう請求できないと書かれていますが、このことも同じように理解できます。

 また、滞納者が他の第三者に売却しようとしている場合や住宅金融公庫や銀行などの抵当権者が競売の申立をしているような場合には、管理組合は自ら裁判などをしたりせず、競落人(=特定承継人)が現れるのを待ち、競落がなされたら競落人に請求するというのも一方法です。

5 裁判や支払督促をすべき場合

 上記のように管理費等を滞納している区分所有者に対しては、先取特権を活用することが出来ますが、裁判や支払督促をしなければならない場合もあります。

 先ほど、先取特権があることを証明する文書として、管理規約や集会・理事会の議事録(管理等の金額・理事長の選任)などの書類が必要となると言いましたが、これらの書類が不備な場合は、裁判などをする必要があります。

 また、当該区分所有建物やそれに備え付けられた動産以外のものを差し押さえる必要がある場合も同様に裁判などをする必要があります。

 その区分所有建物以外の不動産を差し押さえる場合もそうです。

 当該区分所有建物の家賃以外の債権を差し押さえる場合もそうです。例えば、区分所有者の預金・給料・売掛金を差し押さえる場合です。

6 区分所有権の競売手続きの活用(建物区分所有法59条)

 長期間滞納が続き、時価以上の抵当権が当該区分所有建物に設定されており、競売の申立てをすることができない場合には、建物区分所有法の59条を活用して、その区分所有建物を競売をすることができます。

 長期間管理費等の納付義務を怠り支払う可能性がないような場合は「区分所有者の共同利益に反する行為」に該当するので、その区分所有者を排除するということです。競売がなされても、競売代金から回収することは出来ません。というより、そのような可能性がないからこの手続を利用することになります。

 滞納者が売却もせず、また抵当権者がいつまでも競売をしない場合には、この手続きを利用するしか良い方法はありません。

 このような手段をとるには、総会で4分の3以上の賛成を得る必要があり、裁判費用もかなりかかります。

 このような手段は伝家の宝刀ともいうべきもので、これを利用する目的は、早く新しい方に所有者になってもらい、その後は管理費等をきちんと支払ってもらうということです。

7 終わりに(管理規約上の工夫)

  建物区分所有法では、先取特権の定めがありますが、当該区分所有建物や建物に備え付けた動産を差し押さえるという方法は、バブルが崩壊しマンションが値下がりをしている現状では、実際には活用できないと言えます。

 賃借人がいる場合は、家賃の一部を管理費等に回してもらうよいでしょう。これはかなり有効です。

  また、そのようなことができるように、管理規約で、区分所有者が区分所有建物を他の第三者に賃貸・使用貸借をしようとするときは、契約条項の中に、「万一区分所有者が管理費等を支払わない場合は、借主が区分所有者に代わって支払う」という旨の規定を入れることを義務づけ、更に、誰が住んでいるのかを確認するため届け出を出してもらっているのが通常だと思いますが、その届け出書の下部に「区分所有者が管理費等を滞納した場合、占有者が区分所有者に代わって支払います」という趣旨の記載をしておくとよいと思います。

 滞納者がマンションを売却したり、競売がなされた場合は、新所有者に滞納管理費等の債務について特定承継人になりますので、その人に請求できます。

 滞納者がきちんとしたところに勤めている場合は、給料の差押えをすることも有効です。 

 ところで、弁護士に依頼して裁判をしても、弁護士の費用は「裁判費用」に入っていませんので、通常回収が出来ません。そこで、管理規約において「管理費等の未払に関し訴訟を提起した場合の弁護士費用は敗訴者が負担する」という条項を入れておくことをお勧めします。これにより少しでも管理組合の負担を軽くすることとのほか、請求をする場合このことを滞納者に知らせれば、弁護士費用は負担したくないと思い、支払ってくる場合もあるからです。このようなアドバイスを管理組合にしていただければ喜ばれるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

COLUMN 弁護士 秋山亘のコラム
FAQ よくある質問
REVIEWS 依頼者様の声