競売と借地権・借家権
1 競売と借地権・借家権との優先関係
競売の対象となる物件に借地権等が設定されている場合がありますが、競売と借地権等のいずれが優先するのでしょうか。言い換えると、どのような場合であれば、競落人は借地権等の制限のない物件を手に入れることができるのでしょうか。
(1)借地権・借家権が抵当権設定前になされているとき
借地権・借家権が優先(競落人に対し対抗できる)します(借地借家法10条・31条)。
しかし、注意を要するのは、「第1抵当権ー賃借権ー第2抵当権」というように賃借権が設定される以前に抵当権が設定されている場合です。この場合は、賃借権設定後の第2抵当権者などが競売の申立をした場合でも、賃借権は消滅するということです(最高裁判所昭和46年3月30日判例時報628号)。第1抵当権が弁済等により抹消された場合は、賃借権が優先するようになります。
このようなことになるのは、賃借権より先に設定された抵当権は、賃借権がないことを前提にして設定されていますので、その抵当権を保護するため必要だからです。
(2)借地権・借家権が抵当権設定後になされているとき
いわゆる「短期賃貸借」のみが保護されます(民法395条)。法律上「短期賃貸借」とは、土地(樹木の栽植等を目的とする山林を除く)の場合は5年、建物の場合は3年となります(民法602条)。賃借人は、この期間は、土地や建物を利用できることになります。
なお、借地契約で契約期間を5年未満とした場合、
①貸主及び借主の間では借地借家法により約定期間は無効となり、契約期間は30年となりますが、
②借主及び抵当権者・競落人との間では約定期間が有効とされ、借主は短期賃貸借の保護を受ける
ということになります。
(3)期間の定めのない借地権・借家権
借地権については、借地借家法で30年となりますので、借主は短期賃貸借の保護は受けられません。
借家権については(借地権と異なり)期間の定めのない契約のままであり、解約に際しいわゆる「正当事由」が必要となります。しかし、「正当事由」は比較的認められやすいと思われます。
(4)短期賃貸借について
①短期賃貸借の起算点は契約時となります。
②差押え後に設定された短期賃貸借は保護されません。
③差押え後に賃貸借契約が更新された場合は、短期賃貸借の保護は受けられません。
(5)競落人の敷金返還義務等の承継について
賃貸物件の競落人は、賃借人が賃貸人(債務者・物件の所有者)に差し入れた敷金等の全てについて、賃貸人の返還義務を引き継ぐのでしょうか。
裁判所では、「敷金相当額」については返還義務を引き継ぐが、それ以上の「保証金・建設協力金」については引き継がないとされています(最高裁判所昭和51年3月4日判例時報812号、東京地方裁判所平成7年8月24日判例タイムス904号など)。裁判所は、敷金名目でも、実質が敷金を超える部分については、これを貸付金と同じだと見ているものと思われます。
(6)引渡命令
競落人は代金全額を納付しますと競売物件の所有権を取得しますが、その後も引き続き賃借人が当該物件を占有している場合があります。代金を納付した競落人は、競売手続の中で、裁判所に対し「引渡命令」を申立てることにより(民事執行法83条以下)、迅速に物件の占有を確保することができます。
この「引渡命令」により競落人が占有を確保し得るのは、
①抵当権設定後の、民法602条の期間(土地5年、建物3年)を超える賃貸期間を定めた長期賃貸借契約の賃借人
②差押え後に短期賃貸借の期間が満了した賃借人(期間満了後更新した場合も含む)
③差押え後に対抗要件(登記、引渡等)を備えた賃借人
など、賃借人が競落人に対抗できない場合です。
に限られることは言うまでもありません。
2 仲介する際の注意事項
既に抵当権が設定されている物件につきましては、借主との紛争を避けるために、「貸主が競売の申立を受けるような事態になった時には、借主が競落人には対抗できないこと、借主が多額の「保証金」を差し入れても競落人には引き継がれないこと(実際には回収不能ということになります)」を予め借主に知らせておいた方が宜しいかと思います。