賃料減額請求権と契約解除
賃貸借契約の更新を重ねるうちに、当初の賃料が、ある時点の相場からすると必ずしも相当ではないという場合があります。(当初の賃料が安いという場合はあまりないかと思いますが)賃借人が賃貸人に対し、「当初定めた賃料は現在では高すぎる。値下げをして欲しい。」という要求をするものの、これに賃貸人が応じないということで、「賃料の額」自体が紛争となるケースが昨今増えているようです。
賃借人が賃料の減額を希望するが賃貸人はこれに応じないという場合、最終的には、裁判により「相当な金額」を確定しなければなりません。
1 借地借家法第32条(借賃増減請求権)
借地借家法第32条によると、
賃借人から賃料減額請求を受けた賃貸人は、賃貸人が相当と思う金額を請求できる。賃借人は裁判確定までその額を支払わなければならない。
ということになります。要するに、裁判が確定するまでは、賃貸人主導で賃料の相当性を判断できるということです。
2 賃料未払と契約解除
では賃借人が賃貸人の請求に関わらず、賃借人が相当と思う金額を支払ってきた場合(これは、賃借人が勝手に賃料の一部を支払わないというもので、債務不履行にあたります)、賃貸人は債務不履行を理由に賃貸借契約を解除することができるのでしょうか。
この点につき、判例は、解除を肯定するものと、否定するものがあり、裁判になった場合にどのように判断されるかは個々のケースによると言わざるを得ません。しかし、裁判所の考え方につき大まかに申しますと、直ちに契約解除を認めるのではなく、未払の額(差額)が著しく、賃借人に解除されても已むを得ないような事由がある場合に解除を認めているようです。
解除否定例
東京地方裁判所平成9年10月29日判決は、
①平成8年7月以降は賃借人が401,710円に減額して支払い続けた
②裁判所は平成8年7月以降の相当賃料として、412,000円と認定した
という事例で、賃貸人の解除を否定しました。当該裁判所が解除を否定した理由としては諸々の事情があると思われますが、賃借人が支払った賃料と相当賃料との差額がわずか2.5%程度であったこと、不足分の合計(判決言渡時までの合計)が相当賃料の3分の1にも満たないものであったということが一つのポイントであったと思います。
解除肯定例
東京地方裁判所平成6年10月20日判決は
①平成5年2月までは173万円(坪38,000円)
②平成5年3月以降
賃貸人の要求は坪35,000円 賃借人の支払は坪15,000円
③平成6年1月以降
賃貸人の要求は坪35,000円 賃借人の支払は坪10,000円
④(共益費は従前は4,000円であったところ)
平成5年3月以降
賃貸人の要求は4,200円 賃借人の支払は3,500円
⑤平成6年2月までに滞納賃料及び滞納共益費が1,169万円となった
という事例で、賃貸人の解除を肯定しました。賃借人が支払った賃料が賃貸人の請求額(裁判所は、賃貸人の請求した金額である坪35,000円が本件では「相当賃料」であると考えているようです)に比べて著しく低額で、かつ、滞納賃料及び滞納共益費の合計も10,000,000円を超えるものであったということが解除を認めた大きな理由と思われます。なお、本裁判所は、共益費については、新たな合意が成立するまでは、賃貸人及び賃借人双方が、従前の共益費に拘束されると判断したことを付け加えます。