弁護士 秋山亘のコラム

2019.07.23更新

中古マンションを購入する際の注意点~その2

 

(質問)

 当社は、中古マンションを購入することになりました。前の所有者は、自己破産をして免責を得た後、抵当権者主導で任意売却をした物件です。そして、前の所有者は、管理費と修繕積立金を過去7年間支払っていなかったようです。

 このようなケースでは、管理費・修繕積立金は時効にかかっているのでしょうか。

 また、前の所有者が自己破産をして免責を得た以上、当社は前の所有者の管理費を支払わなくてよいのでしょうか。

(回答)

1 管理費・修繕積立金の時効

これまで、管理費・修繕積立金の時効期間は、民法167条1項の一般債権であるという10年説と、民法169条の定期給付債権(典型例としては家賃がこれに当たります)に当たるという5年説に分かれておりましたが、近時の下級審裁判例(東京高裁平成13年10月31日、東京地裁平成9年8月29日)では10年説を採用するものが出ておりました。

しかし、最高裁判所は、管理費等の時効期間について、平成16年4月23日最高裁判所第二小法廷判決において、5年説を採用することを明らかにしました。

したがって、今後は、5年説に基づいて実務運用がされることになります。

本件では、2年分の管理費・修繕積立金については時効消滅を主張できることになります。

もっとも、時効消滅を主張できるのは、前の所有者とマンションの管理組合との間で時効の中断事由がない場合です。

前の所有者が管理費等の滞納期間を明示して滞納を認める念書を管理組合に差し入れている場合や管理組合が滞納者に対し訴訟を提起し勝訴判決を得ている場合には、時効は中断されています。

したがって、念書を差し入れている場合には念書の作成日から5年間、勝訴判決の場合には判決確定時から10年間は時効消滅の主張はできません。

なお、時効中断の方法としては、以上の他に、催告書・請求書等で請求する方法も挙げられます。しかし、この裁判外での請求では、請求をした日から6ヶ月以内に正式な裁判を提起しないと時効中断としての効力は認められません。したがって、たとえば、4年11ヶ月目に管理組合が内容証明郵便等で裁判外の請求をしていれば、請求後6ヶ月間は時効の完成を暫定的に止めることができますが、6ヶ月を過ぎるまでに訴訟を提起していないと、時効中断との関係では内容証明郵便による請求は何の意味もなくなります。

以上のように、発生日から5年を経過した管理費等は必ずしも時効消滅しているとは限りませんので、そのような物件を購入する際には、事前に管理会社や管理組合に問い合わせる等して時効中断事由の有無を調査しておくべきでしょう。

2 前の所有者が自己破産した場合の管理費の支払義務

前の所有者が自己破産をし免責決定を得た場合、破産決定日を堺に破産決定日までの管理費・修繕積立金については、管理組合は当該破産者に対して請求できません。破産決定日以降の管理費・修繕積立金については、管理組合は当該破産者に対しても請求できます。

では、中古マンションの新しい所有者は、前の所有者との関係では既に免責されている破産決定日までの管理費・修繕積立金についても、管理組合に支払う義務があるのでしょうか。

この点に関しては法も明確な規定をおいておらず、また、裁判例もいまだ出ていないようです。

この点、免責決定を得たことで、債務者に対しては強制的に請求できない債務を前の所有者から区分所有法8条により承継したに過ぎないと考えれば、新しい所有者は管理組合に対し支払う法的な義務はない(破産免責の効力を承継する)という考え方もあるでしょう。

しかし、以下のような理由から、前の所有者の下で破産免責された管理費等でも、新しい所有者との関係では管理組合に対し支払義務を負う可能性が高いと思われます。

 ① 管理費・修繕積立金の支払義務についての前所有者と新所有者との関係ですが、連帯債務又は連帯保証債務の関係にあるという説が有力です。これによると、連帯債務者又は主債務者の1人が免責を得たとしても、他の連帯債務者又は連帯保障人には免責の効力は及ばないことになりますので、前所有者が破産しても、前の所有者とは連帯債務の関係にある新所有者についても、免責の効力は及ばないとするのが理論的な帰結となります。

 ② 管理費・修繕積立金は、当該マンションの価値を維持する為に不可欠なものですが、新しい所有者が、従前適正に管理されることで維持され、又は、修繕積立金によって修繕されたマンションの価値を享受できるのも、これまでに他の区分所有者によって管理費や修繕積立金が毎月きちんと支払われてきた蓄積があるからです。しかし、新しい所有者のみがこのようなマンション維持・管理の利益を享受しながら、偶々前の所有者が破産免責されたという理由で新所有者はマンションの管理費・修繕積立金の支払義務を免れ、他方で、マンションの維持・管理の利益、そして、マンション修繕の利益を享受出来るというのは、極めて不公平な結果となります。その為、管理費・修繕積立金は、単に前の所有者の債務を引き継ぐというものではなく、区分所有権と一体となって承継される債務と解されます。そうすると、前の所有者が偶々破産をして破産免責を受けたかどうかに関わりなく、新しい所有者は、前の所有者から区分所有権を承継した以上、管理費等の支払い義務を負うべきことになります。

 ③ 一般に、破産免責された債務は、免責により消滅するのではなく、自然債務として存続はすると解されています。自然債務とは、債務者の方から任意に支払えば債務の弁済として有効となるが、債権者は債務者に対し強制的には支払を求めることはできない債務のことです。このように破産免責された債務は消滅するわけではないので、破産免責の効力が及ばない者に対しては、通常の債務として債権者からの請求に強制力が認められることになります。そして、破産法は、破産者の資力や破産者の社会経済的更生を企図して特別に破産者の為に認めた制度が破産免責の制度ですから、破産法の趣旨から考えても、この免責の効力を破産者ではなくマンションの新しい所有者にまで拡張して認める合理性はないことになります。

  以上のような理由から、いまだ裁判例が出ている事案ではありませんが、前の所有者との関係で免責を受けた管理費・修繕積立金でも、新所有者が支払義務を負う可能性は高いと思われます。

  従って、破産者が所有していた中古マンションを購入される場合にも、管理費等の滞納の事実があるかどうか十分調査した上で、購入する必要があると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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