賃料自動改定特約(その1)
1 賃料自動改定特約
賃貸借契約の中で、賃料が自動的に改定されるという趣旨の特約が定められていることがあります。特にバブルの時期には、このような特約が定められたことがよくありました。特約のタイプとしては
①物価変動自動改定特約
②定額自動改定特約
③定率自動改定特約
④路線価変動自動改定特約
⑤固定資産税変動自動改定特約
などが挙げられます。
このような特約は借地借家法第11条・32条(旧借地法第12条・旧借家法第7条)との関係で無効ではないかという問題が生じます。と申しますのは、これらの規定は賃料増減額の要件を定めたもので強行規定(規定違反の行為の効力を失わせる規定)と解されているところ、特約は、賃料増額の要件を定めた法の趣旨を没するものとも考えられるからです。
2 裁判例
賃料自動改定特約についての裁判所の考え方はどの様なものでしょうか。
裁判所は、自動改定特約だからといって当然に無効とはせずに、当該特約を個々の事例にあてはめた結果、賃借人に著しく不利益であるなどという特段の事情がない限り特約は有効と考えている様です。
この様に特約の効力は「当該賃借人に著しく不利益かどうか」という個々の事情により判断されますので、特約を定めるにあたり、借地借家法11条32条の趣旨に反しないように工夫する必要があります。少なくとも、値上げ後の賃料が近隣相場に比べて相当に高くなってしまうという様な特約は避けるべきでしょう。
最高裁判所昭和44年9月25日は「固定資産税変動自動改定特約」について、特約条項としては有効であると認めつつ、「当事者の意思は、契約当時存在した事情と著しく異なる場合にも、その基準によるという意思ではない」として、特約の適用を制限しました。右の裁判例は、「賃料」の相当性を判断する際に、個々の事案において「具体的に考える」という裁判所の基本的姿勢を示したものと思われます。
裁判所は、バブルの時期に定めた基準を機械的に当てはめることはせず、契約で定めた基準を適用して妥当なものについて、自動改訂条項を認めているものと言えるでしょう。
したがって、このような賃料の自動改訂条項があっても、新賃料が著しく高額となり妥当とは思われないような場合は、貸主と交渉をしてみる必要があるでしょう。