弁護士 秋山亘のコラム

2016.05.30更新

ツイッター上の発言と法律問題

 

<質問>

 近時、著名人のAさんがTwitter上で「あ~B殺してえ。」などと、ある著名人Bさんを名指しで攻撃するツイートを繰り返したことで問題になりました。

このようなツイッター上の発言を理由に、Bさんの立場として、Aさんに対し、民事上の損害賠償請求や刑事上の脅迫罪、名誉毀損罪の刑事罰を求めることは可能でしょうか。

 

<回答>

1 本件のような事案では、仮にBさんがAさんを訴えようとした場合には、民事上の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求をすることが可能と考えられます。

たとえツイッターというインターネット上の発言であっても、ある人物を特定した上で「殺してえ」という発言をすることは、社会的に許容される発言の範囲を大きく逸脱しておりますし、名指しで発言された本人においても、このような不当な発言をされたことを受忍しなければならないような理由はありません。

インターネットというのは不特定多数の人が見る「公的な広場」という側面がありますので、そのような場で上記のような発言を一方的にされた場合には、その人の名誉感情を著しく害することは明らかであると言えます。

ツイッターという場は、ついつい日常の会話と同じように発言しがちですが、その発言内容は全て記録に残っているものであり、一般の人にも公開されている発言ですので、そのことを十分に肝に銘じておく必要があると思います。

以上ご説明しましたとおり、本件については名誉感情の侵害による民事上の損害賠償請求は可能と考えられます。

 

2 もっとも、「殺してえ」という発言について、刑事上の脅迫罪や名誉毀損罪に問えるかというと、そこまでは言えないように考えられます。

(1) まず、脅迫罪における「脅迫」とは、人の生命、身体、名誉等に対する害悪を告知することでるが、本件の発言については、あくまでもツイッターという公開されたインターネット上の発言であり、また、Aさんという著名人が身分を明かした上での発言ですので、このような発言をする方も又受け止める方も実際に「殺される危険がある」とは感じないのが通常でしょう。本件のような場合における「殺してえ」の発言の真意は、「実際に殺したい」という意味ではなく、「そのように思うくらいBさんのことが気に入らない」という意味と捉えられるからです。

ただし、ツイッター上の発言であっても、受け止める方において「実際に殺される危険がある」と受け取られるような態様で発言をすれば、発言者において実際には殺すつもりなど全くなくても脅迫罪に問われる可能性は十分にありますので、注意が必要です。本件はAさんとBさんという著名人の間の発言ですので、むしろ例外的な場合と考えた方がよいでしょう。

(2) 次に、名誉毀損罪における「名誉毀損」とは、①不特定多数の人に対し、②事実を摘示することによって、③人の社会的評価を低下させる行為を言います。

本件については、「殺してえ」というAさんの心情を述べたに過ぎませんので、Bさんの「社会的評価を低下させるような事実」を示したものではありません。

(3) したがって、本件のような事件であっても、刑事上の脅迫罪や名誉毀損罪には問うことはできないと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.05.27更新

性格の不一致でも離婚は認められますか

 

<質問>

 妻との離婚を考えています。理由は「性格の不一致」です。妻にも離婚の事は話しましたが、妻は子供がいるからと言って離婚については消極的です。

子供と言っても高校三年生の一人息子がいるだけで来年には大学に進学しますので、大学への進学を期に、妻との離婚調停を申し立ててみようと思っています。

ただ、性格の不一致と言った理由だけで離婚ができるのかが心配です。私のような理由で離婚調停を申し立てる人はいるのでしょうか?

 

<回答>

1 離婚調停の申し立て理由として一番多いのは、以下の司法統計のとおり、男女ともに性格の不一致です。

      夫               妻

1位  性格の不一致 61.3%     1位  性格の不一致 43.1% 

2位  異性関係 19.3%     2位  暴力 29.6% 

3位  家族・親族との不和 17.6%  3位  異性関係 27.3% 

<平成15年 全国家庭裁判所離婚調停申立事由>

2 性格の不一致による離婚で、その原因がどちらにあるともいえないケースでも、離婚をすること自体についてお互いが同意しているケースでは、あとは財産分与、慰謝料、親権に関する争いになりますので、離婚自体は認められることになります。 

 しかし、他方の配偶者が離婚にどうしても同意しない場合には、直ちに離婚は認められません。

離婚についての同意が得られない場合には、裁判所が離婚を認めるかを裁判で判断することになりますが、この場合には、

①性格の不一致の原因としてどちらに有責性があるのか、その有責性の程度、

②夫婦の婚姻関係は修復が可能か否か、婚姻関係の修復のための努力をしてきたか、別居期間はどの程度か、

③未成年の子の有無やその年齢

などの事情を総合考慮した上で、判決で離婚の是非が判断されます。

3 もっとも、このような裁判離婚による解決をする前に、調停委員という専門家が間に立って、まずは当事者間の話し合いによる解決を促してくれるのが調停制度です。

そのため、直ちには裁判離婚が認められるのが難しい事案でも調停離婚が成立するケースは決してめずらしくありません。

 ただし、決定的な離婚理由がなく、相手方も離婚に応じていないケースでは、通常の慰謝料、財産分与に加えて、離婚自体に同意する代わりに、一定額の解決金の上乗せがなされるケースもまた多いと言えます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.05.16更新

借地権譲渡と承諾料


(質問)
 この度、借地権を第三者に譲渡することになりました。
 この場合、どのような手続きを取ったらよいのでしょうか。
(回答)
1 地主の事前承諾が必要
 借地権を譲渡したり、転貸するには、事前に地主の承諾を得なければなりません。
なぜなら、民法612条で貸主に無断で賃借権を譲渡・転貸した場合は賃貸借契約を解除できると規定されているからです。
但し、判例では、借地権を無断で譲渡・転貸することによって地主との信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情のある場合は、賃貸借契約を解除はできないとしています。
なお、借地上の建物を譲渡すると借地権も譲渡したものとみなされますので、この場合も地主の承諾が必要です。
2 地主が承諾しない場合
-借地非訟手続きによる許可の審判
 このように、借地権の譲渡を考えている場合には事前に地主の承諾を得なくてはならないのですが、①借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合で、②第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず、地主が承諾しないときは、借地権者は裁判所に承諾に代わる許可の裁判を求めることができます(借地借家法19条)。
 借地権の譲受人が資力に問題があって地代を支払えない人の場合や暴力団員などであれば、借地権譲渡によって地主に不利となるおそれがある場合と言えるでしょうが、そのような事情のない場合、裁判所の借地非訟事件手続によって承諾に代わる許可の裁判を得ることが可能です。
借地非訟事件の手続は、借地の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(合意のある場合)に書面をもって申し立てます。
裁判所は、鑑定委員に鑑定意見を提出させるなどの審理をし、許可を与えるかどうかを判断します。その際、譲渡する借地人に財産上の給付(いわゆる名義書換料の支払)を命じることがあります。
3 名義書換料(承諾料)
 この名義書換料の相場ですが、借地権価格の10%程度となっています。借地権価格は、借地の場所によって異なりますが、7割前後が一般的です。借地権価格は路線価を参考にしてください。
 このように、新しい借地人に特段の不信事由がない場合には、借地非訟事件の手続上、借地権価格の10%の承諾料をもって許可の審判が出ることから、借地権を譲渡する場合には、地主との間で借地権価格の10%の承諾料を支払って借地権の譲渡の承諾を得るのが一般的でしょう。
4 底地(そこち)の買い取り 
なお、この他に、地主から当該借地権付きの所有権(底地といいます)を買い取ってしまうという手段も考えられます。
 これには、地主と土地の売買契約を結ばなければならないので、地主の合意を得なければできません。この場合の買い取り価格は、当該土地の時価から上記の借地権価格を差し引いた金額が目安になります。
しかし、前記の借地非訟手続きでは少なからず地主と対立関係が生じてしまいますので、今後の地主との煩わしい関係(地代の値上げ要求や更新時の更新拒絶の問題)を清算したいという場合には、借地非訟手続きよりもむしろこの方法がお勧めです。
また、借地非訟手続きでは、地主から建物を相当の対価(建物価格+借地権価格-譲渡承諾料相当額)をもって買い取ることを請求されるリスクもあります。 これは「介入権」といい、この介入権を行使されると、借地人はこれを拒むことができないのです。
 以上が借地の場合ですが、借家の場合には、承諾に代わる許可の裁判という制度はありません。従って、飲食店を居抜きで売ろうという場合は原則として貸主の承諾を得なければなりません。
 但し、借家権を無断で譲渡しても、大家との信頼関係を破壊していないと判断される場合には大家の契約解除は無効となります。しかし、借家の場合、借主の建物の使い方が人によって異なるなど借主の個性が大切ですから、無断で譲渡した以上は信頼関係を破壊していると判断されてしまうおそれが高いでしょう。

 

 

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.05.09更新

息子に自宅を無断売却されてしまいました

 

<質問>

 私(X)が病気で入院している間に、自宅にあった私の実印などを使って、息子が無断で自宅を譲渡してしまいました。後に、息子に問いただしたところ、譲渡した相手は、息子の知り合いの不動産業者Aで、私に無断で勝手に印鑑や権利証を使っていることも知っているとのことでした。しかし、その不動産業者が善意の第三者と称する別の不動産業者Bに自宅を譲渡し、移転登記まで済ませてしまったとのことです。

 息子が自宅を無断で譲渡したことは、委任状の筆跡や不動産業者Aとの会話の録音テープなどから証明できそうですが、Bは、善意の第三者であることを理由に仮にX-A間の売買契約が無効でも、民法94条2項の類推適用によって保護されるから自宅の返還には応じられないと主張しております。

 このような場合、自宅の返還は認められないのでしょうか。

<回答>

 本件の場合、X→A間の売買契約は、Xの息子がXに無断で行ったものであるため、無権代理により無効です。Aについては、Xの息子が無断で売買したことを知っていたのですから法的に保護さる余地がないのは当然ですが、BについてはX→A間の売買が無効であることを知らずに不動産を購入した場合には、取引の安全上、保護される余地もあるように思えます。

 本件でBが主張している民法94条2項とは、たとえばX→A間の売買契約が通謀虚偽表示(契約の当事者双方が売買の意思がないにもかかわらず売買契約を仮装するなどして内容虚偽の法律行為をすること)により無効であっても、善意の第三者Bに対しては、そのことを主張できないという規定です。このような場合、Xとしても真実の権利関係と異なる外観を作出したこと(売買契約の仮装)について責められても仕方がない事情(帰責性)がありますし、Cとしても取り引きの安全の見地からX→A間を売買契約を信じたことを保護する必要があります。そこで、民法94条2項は、Xは、XA間の売買契約の無効をBに主張できないことを定めたものです。

 このような民法94条2項の趣旨から、判例は、Xが虚偽の不動産登記の作出に積極的に関与した場合だけでなく、虚偽の登記の外観が存在することを知りながら長期にわたってこれを放置していた場合(X→A)においても、民法94条2項を類推適用することによって、善意の第三者を保護してきました(最判昭和45年9月22日民集24-10-1424)。

 しかし、判例が民法94条2項の類推適用によって善意の第三者を保護を優先したのは、虚偽の権利の外観を作出したことに対して真の権利者であるXにも帰責性が認められる場合です。Xにおいて、帰責性が認められない場合には、民法94条2項の類推適用は認められません。

 本件については、Xとしては病気で入院している間に、息子に無断で実印や権利証を使われて売買されてしまったというものですので、基本的には、Xには帰責性がなく94条2項の類推適用は認められないでしょう。もっとも、Xが息子による無断売買の事実を知りながら直ちに法的対応をすることなく、Aに登記が移転された状態を長期に渡り放置していたというのであれば、Xにも虚偽の権利の外観を作出したことに関して帰責性が認められる場合もあるでしょう。

 したがって、Xとしては、弁護士に依頼の上、直ちにBに対して自宅に関する各所有権移転登記の抹消を求めるべきでしょう。

 また、Bから更に違う第三者に所有権移転登記が為されないよう、Bに対して処分禁止の仮処分の申立も検討すべきでしょう。

                    

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.05.02更新

中途解約の場合の賃料支払義務

 

<質問>

私は、会社を経営するため、ビルの一室を会社の事務所として月額20万円で賃借しました。契約書では、契約期間が3年間とされており、中途解約に関する条項はなく、「期間満了前に解約する場合は、違約金として、解約日から期間満了日までの賃料を支払う」旨の条項がありました。

その後、会社経営がうまくいかないため、契約日から半年後に賃貸人に賃貸借契約の解約を申し込んだところ、賃貸人から残りの契約期間である2年6か月分の賃料を違約金として請求されました。

このような多額の違約金の請求は認められるのでしょうか。

 

<回答>

1 賃貸借契約においては、多くの場合、契約書に中途解約に関する条項が設けられていますが、中途解約は、当然に認められるものではなく、原則としてその旨の合意を契約書等でしておかなければなりません。また、中途解約の合意がある場合でも、中途解約の予告期間が定められることが多く、その期間に満たない解約をするときは、予告期間に相当する期間の賃料を支払う義務があります。

契約書の中には、中途解約に関する条項が設けられておらず、そのような場合には、中途解約が認められず、契約期間満了までの賃料の支払い義務を免れないのが原則です。

2 しかし、中途解約に関する契約書の条項がなく、中途解約ができない場合でも、残りの契約期間があまにも長く、違約金として支払う賃料があまりにも多額になる場合には、そのような違約金条項が暴利行為として公序良俗違反(民法90条)により一部無効になる場合があります。

 東京地判平成8年8月22日(判例タイムズ933号155頁)は、①契約期間満了までの賃料を違約金として支払い旨の違約金条項をそのまま適用すると、賃借人が賃料の約3年2カ月分を損害金として支払う事になりあまりにも高額すぎること、②当該建物において、賃借人の明渡後賃貸人は通常数ヶ月程度で新たな賃借人を確保してきており、1年以上を要した例がないことを理由にして、1年間の賃料相当額に限り有効とし、それを超える部分は暴利行為にあたり公序良俗違反として無効としました。

 賃借人が中途解約した場合の違約金条項は、賃貸人が新たな賃借人を確保するまでの間、建物を有効利用できないことによる損害を補填するための条項ですので、次の賃借人が決まるまでに通常かかるであろう期間を補填するための条項であり、そのような入居待ち期間を最大限見てもそれを超えるような期間の違約金は、暴利行為として無効とみなされるという判決です。

3 なお、本件においては、会社経営のためのビルの一室の賃借ですので、賃借人は消費者契約法上の「消費者」には該当しませんが、仮に、賃借人が通常の住居のために賃借したというのであれば、賃借人は消費者契約法上の「消費者」であり、貸主が賃貸業者の場合には消費者契約法上の「事業者」になりますので、消費者契約法の適用があります。

この場合、本件のような違約金条項は、消費者契約法第9条により、「平均的損害の額」を超える部分について無効とされます。

賃貸借契約の中途解約の場合の損害についは、次の入居者が決まるまでに要する期間の賃料が損害ですので、入居待ちの平均的な期間に相当する賃料額を超える違約金については無効になります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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