弁護士 秋山亘のコラム

2016.06.27更新

少年事件と付添人

 

<質問>
 私の息子が高校の不良グループと一緒に同級生を恐喝したとして逮捕されました。今後の息子の処遇はどのようになってしまうのでしょうか。
また、私の息子の弁護はどのようにして行われるのでしょうか。


<回答>
1 警察に逮捕され場合、少年は、48時間以内に検察官に身柄送致され、検察官は24時間以内に10日間の勾留請求を裁判所に請求するかどうかを決めます。
検察官から勾留請求を受けた裁判所は、少年と面接した上で、速やかに勾留決定を出します。勾留請求が却下されることは稀で多くの場合10日間の勾留が決まります。
この勾留期間中に検察官は、捜査をして少年の犯罪行為に関する証拠を収集します。この勾留期間はもう10日間延長されることがあります。
ここまでの手続きは、少年と成年とは異なることはありません。
この段階(被疑者段階)で弁護士を付けたい場合には、私選弁護人を立てることになりますが、現在は、一定の資力要件を満たせば国費でもって弁護人を付けることができる被疑者国選弁護人制度が設けられております。
恐喝罪などの被害者がいる事件の場合には、次で述べる鑑別所送致決定や最終的な少年の処遇が決められる際に、被害者への被害賠償を済ませ、示談を成立させているかどうかが重要なポイントとなりますので、出来るだけ早期に弁護士をつけて示談交渉を始めるのがよいと思われます。
また、もともと少年と保護者のコミュニケーション不足が背景として少年事件を引き起こしていることが多いため、少年の保護者が面会に来るだけでは不十分な場合が多いといえます。そのため、少年のよき相談相手となり、少年の反省を促す者として、弁護士の少年との面会活動が重要になります。
2 次に、勾留期間が終ると、検察官は、家庭裁判所に少年の身柄を送致します。少年の身柄を送致された家庭裁判所では、今後の少年の処遇(少年院送致、保護観察、不処分など)を決めるにあたり、少年の生活状況を観察する必要があると認めた場合には、少年を少年鑑別所に送致する決定を出します。
比較的軽微な事件で少年の反省も十分な事件は鑑別所に送致されることなく、不処分決定が出されそこで手続が一応終わりますが、多くは少年鑑別所送致の決定が出されます。
鑑別所に送致されると、少年は、約3週間から4週間にわたり鑑別所で生活します。家庭裁判所は、少年鑑別所での少年の生活状況に関する記録、家庭裁判所調査官が行う少年・保護者との面会記録、事件に関する捜査記録などを基に、最終的な少年の処遇を審判で決めます。
この審判手続きが刑事事件でいう裁判手続きになりますが、成人に対して適用される刑事訴訟法の下では、起訴されて裁判になった場合には原則として国選弁護人が必ずつくのに対し(必要的弁護事件)、20歳未満の犯罪行為について適用される少年法の下では、審判手続きに検察官が関与する重大事件(殺人事件・強盗致死傷事件など)を除いて、必ず弁護士が付くものではありません。
国費をもって弁護士を「付添人」(つきそいにん)として付けることが出来る事件も、①故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪、②死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪と一定の重大事件に限定されています。
そのため、付添人として弁護士を付けたい場合には、保護者が自費で弁護士に私選付添人の依頼をしなければなりません。
前記のように、被害者がいる事件では被害者との示談成立の有無が少年の処遇を決める上で重要なポイントになりますし、また、少年の反省を促し、家庭環境を整える上でも付添人が重要な役割を果たします。
付添人は、少年と保護者だけでは不十分であった家庭環境を調整する役割も期待されていますので、付添人がいるということは、裁判所が少年の処遇を決める上でプラスの事情として考慮されることになりますので、可能であれば付添人として弁護士に依頼するのがよいでしょう。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.06.20更新

大家が確認すべき賃借人の信用情報

 

<質問>

 私は、ワンルームマンションを購入し、しばらくの間、賃貸に出そうと考えてます。

入居の際に確認しておくべき賃借人の信用情報を教えて下さい。

 

<回答>

1 将来、家賃の滞納があった場合、訴訟をすれば民事の勝訴判決は比較的容易に得られます。

しかし、判決を得ただけでは、なかなか回収に結びつかないことが多いのが滞納家賃等の事件の特徴です。

 というのも、民事の場合、判決を得て債務者の財産を差し押さえようと思っても、債務者に実際に財産がない場合、或いは、財産の所在が分からない場合には、財産の差し押さえが出来ないからです。民事の勝訴判決を得ても、債務者に強制労働をさせて債権を回収することや債務者の資産を裁判所が職権で調査して差し押さえてくれるというのではないのが、債権回収の難しいところです。

 中には、滞納家賃が回収出来ないだけならまだよいほうで、家賃を長期間にわたり不払にされたまま、契約を解除してもアパートに居座わられたために、裁判をして強制執行により立ち退かせたため、多額の強制執行費用(ワンルームマンションで40~50万円かかる場合もあります)がかかったという事例もしばしばあります。

そのため、大家としては、万一の家賃滞納に備えて、入居予定者やその連帯保証人の資産状況をしっかり把握しておくことが大切です。

2 入居者の資産情報として、とくに重要なのは、入居者本人と連帯保証人の勤務先の把握です。

勤務先がしっかりしていれば(とくに長年勤めている会社員などあれば)、勤務先の給与を差し押さえることにより、判決後の家賃回収はスムーズにいきます。

 逆に、勤務先がはっきりしない場合、勤務先と言っても転々としたアルバイト勤務である場合には、勤務先のしっかりした方の連帯保証人を立てることが大切です。

 また、勤務先が変更になった場合には、随時、変更後の勤務先を賃貸人に連絡することを賃貸借契約書で明記しておくことも重要です。

なお、勤務先と言っても「自営業」の場合には、給与の差し押さえのようにスムーズに家賃の回収出来ないことが多いため(会社の役員報酬を差し押さえても、滞納者が支配している自分の会社の場合には任意に支払って来ない可能性があります)、入居者本人と自営業が会社であればその会社の取引先金融機関の銀行名・支店名などを把握することによって、万一に備えることになります。

ただし、銀行口座の差し押さえの場合には、銀行名と支店名を特定すれば、口座番号まで分からなくても差し押さえが可能ですが、差押えをした時点において預金が残っていなければ回収できないため、差し押さえに際してはなかなか難しい問題が生じることもあります。

3 この他に把握しておいた方がよい信用情報としては、入居者の負債情報があります。これは本人の申告内容を信用するしかありませんが、負債が多いと、当然のことですが、将来的に家賃の支払いが遅れがちになったり、破産申立をされて回収不能になったりするリスクが高まりますので、当然のことながらチェックすべき項目になります。

4 また、入居者の構成などもチェックすべき項目となります。子供と一緒に家族で入居する場合には、単身で入居する人よりも、家賃を踏み倒して出ていく事例は、比較的少ないように思います。

逆に、広いマンションを単身で入居する方の場合には、実際には複数で入居している場合があり、その場合に入居者間同士で家賃負担をめぐりトラブルになるケースなどもあります。

また、外国人の場合には、しっかりとした在留資格があるか否かを確認することも大切です。

5 このようにして、入居者や連帯保証人の情報をしっかりと確認してから、賃貸借契約の締結の有無を決めることが将来的に滞納家賃や契約解除による建物明渡などの事件に巻き込まれないための対策になります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.06.13更新

交通事故の示談交渉~その2

 

(質問)

 交通事故の示談金はどのように算定されるのでしょうか。

(回答)

 交通事故に遭ったとき、加害者側の保険会社との間で、交通事故による損害に関する示談金について交渉をすることがあると思います。

 その際には、以下の項目毎に損害額を算定し、示談金総額を決めることになります。

 下記項目の具体的な算定基準は、「赤い本」と呼ばれている「民事交通事故訴訟・損害賠償算定基準」(東京三弁護士会交通事故処理委員会・(財)日弁連交通事故相談センター編)に記載されています。

上記基準は、保険会社の基準よりも各種の損害額が概ね高く設定されており、裁判所も上記基準を採用しております。

 なお、損害金として認められるのは以下の項目に限定されるわけではありません。

原則として、事故に起因する損害はとりあえず全て請求してもよろしいと思いますが、それが裁判上認められるかどうか、上記基準によると具体的にいくらになるのか、或いは、示談の場合には譲歩した方が得策かどうかは、お近くの弁護士にご相談された方がよろしいでしょう。

治療費

自分で支払った治療費は原則として全て請求できます。

但し、温泉療法や特殊の治療法を行う場合には当該治療が必要であるという医師の診断書が必要です。
入院雑費

入院期間中に支払ったテレビ代・書籍代・洗濯代などの諸雑費です。

裁判所基準では1日に付き一律1500円として算定されます。
通院交通費

通院に要した交通費です。足の怪我などでタクシーを利用した場合には領収書を保管してください。
付添看護費

医師の指示書がある場合、その他受傷の程度、被害者の年齢等により付添看護が必要と認められれば支給されます。

職業付添人の場合には実費全額、近親者の付添人の場合には1日につき6500円程度として算定されます。
休業損失

(交通事故前3ヶ月間又は1年間の1日あたり平均収入)×(事故日から職場復帰するまでの期間の休業日数)で算定されます。

主婦など現実に収入がない場合にも、家事労働に従事できなかった期間は一定の割合で支給されまます。
入通院慰謝料

入院期間と通院期間により算定されます。

例えば、裁判所基準では、20日入院、通院期間2ヶ月(実通院日数16日)の場合、入院1ヶ月・通院2ヶ月として算定して

122万円となります。
後遺症による慰謝料

後遺症として等級認定されれば、認定等級に応じて、上記⑥の通院慰謝料とは別に後遺症そのものに対する慰謝料が支給されます。
後遺症による逸失利益

後遺症として等級認定されれば、当該等級、労働能力喪失率、事故時の平均収入、今後の就労可能年数に応じて、算定されます。
物損

修理可能な場合には修理費用、全損で修理不能な場合又は修理費用の方が再購入費用よりも高くつく場合には、同等の中古車の再取得費用を請求できます。

その他レッカー代、代車費用、高級車の修理評価損なども請求できます。
遅延損害金・弁護士費用

裁判所基準によると、遅延損害金は、損害額に対し事故日から損害金の支払日まで年5%の割合による遅延損害金が、弁護士費用は、損害額合計に対し1割程度が認定されます。

但し、裁判外の示談や和解の場合には、支給されない場合の方が多いです。
過失相殺

当該事故発生について、被害者側にも落ち度がある場合には、当該落ち度に応じて、損害賠償金額が何割という一定割合で減殺されます。

事故態様・事故パターンに応じた裁判所の基準があります。

損害賠償金に大きく影響するので過失相殺の割合は重要です。
損益相殺・既払金控除

労災支給の休業損害金や自賠責保険からの保険金など既に支払い済みの損害賠償金は控除されます。

被害者が自ら傷害保険に加入していた場合の保険金は控除されません。

 

損害の項目として挙げられるものは概ね以上の通りです。

なお、上記のうち、通院慰謝料、後遺症慰謝料、後遺症による逸失利益など損害額は、数百万円から数千万円と高額になる場合があります。   

人身事故の場合には、示談をする前に少なくとも一度は、示談金額が相当なものかをお近くの弁護士に相談されることをおすすめします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.06.06更新

中途解約の場合の賃料支払義務

 

<質問>

私は、会社を経営するため、ビルの一室を会社の事務所として月額20万円で賃借しました。契約書では、契約期間が3年間とされており、中途解約に関する条項はなく、「期間満了前に解約する場合は、違約金として、解約日から期間満了日までの賃料を支払う」旨の条項がありました。

その後、会社経営がうまくいかないため、契約日から半年後に賃貸人に賃貸借契約の解約を申し込んだところ、賃貸人から残りの契約期間である2年6か月分の賃料を違約金として請求されました。

このような多額の違約金の請求は認められるのでしょうか。

 

<回答>

1 賃貸借契約においては、多くの場合、契約書に中途解約に関する条項が設けられていますが、中途解約は、当然に認められるものではなく、原則としてその旨の合意を契約書等でしておかなければなりません。また、中途解約の合意がある場合でも、中途解約の予告期間が定められることが多く、その期間に満たない解約をするときは、予告期間に相当する期間の賃料を支払う義務があります。

契約書の中には、中途解約に関する条項が設けられておらず、そのような場合には、中途解約が認められず、契約期間満了までの賃料の支払い義務を免れないのが原則です。

2 しかし、中途解約に関する契約書の条項がなく、中途解約ができない場合でも、残りの契約期間があまにも長く、違約金として支払う賃料があまりにも多額になる場合には、そのような違約金条項が暴利行為として公序良俗違反(民法90条)により一部無効になる場合があります。

東京地判平成8年8月22日(判例タイムズ933号155頁)は、①契約期間満了までの賃料を違約金として支払う旨の違約金条項をそのまま適用すると、賃借人が賃料の約3年2カ月分を損害金として支払う事になりあまりにも高額すぎること、②当該建物において、賃借人の明渡後賃貸人は通常数ヶ月程度で新たな賃借人を確保してきており、1年以上を要した例がないことを理由にして、1年間の賃料相当額に限り有効とし、それを超える部分は暴利行為にあたり公序良俗違反として無効としました。

 賃借人が中途解約した場合の違約金条項は、賃貸人が新たな賃借人を確保するまでの間、建物を有効利用できないことによる損害を補填するための条項ですので、次の賃借人が決まるまでに通常かかるであろう期間を補填するための条項であり、そのような入居待ち期間を最大限見てもそれを超えるような期間の違約金は、暴利行為として無効とみなされるという判決です。

3 なお、本件においては、会社経営のためのビルの一室の賃借ですので、賃借人は消費者契約法上の「消費者」には該当しませんが、仮に、賃借人が通常の住居のために賃借したというのであれば、賃借人は消費者契約法上の「消費者」であり、貸主が賃貸業者の場合には消費者契約法上の「事業者」になりますので、消費者契約法の適用があります。

この場合、本件のような違約金条項は、消費者契約法第9条により、「平均的損害の額」を超える部分について無効とされます。

賃貸借契約の中途解約の場合の損害についは、次の入居者が決まるまでに要する期間の賃料が損害ですので、入居待ちの平均的な期間に相当する賃料額を超える違約金については無効になります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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