弁護士 秋山亘のコラム

2016.08.29更新

大規模震災による建物倒壊と借家人保護

 

<質問>

 私は借家に住んでいたのですが、大地震により借家が倒壊してしまいました。借家契約上の賃貸人である土地建物の所有者に聞いてみたところ、現在のところ再築の目途はたっていないとのことでした。このまま住処のない状態が続いてしまうのでしょうか。

<回答>

1 借家の法律関係は、家を目的物とする賃貸借契約が締結されているということなります。本件では、借家が倒壊してしまったということですから、建物が「滅失」した場合に当たると考えられます。すると、契約の目的物が滅失してしまったことになるわけですから、契約は終了することになります。しかし、それでは借家人は生活の本拠を失ってしまうことになります。大規模な地震が起きた場合、そのような人が続出することを考えると、借家人保護の要請が極めて高い場面であるといえます。

 そこで、「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下、「臨時処理法」)25条の2では、「政令」により同法を適用する旨と適用地域を定めた場合には、当該地域に同法が適用されることとしています。阪神・淡路大震災でも、平成7年2月6日に公布・施行された政令によって、同法が適用されることとなりました。

2 同法においては、生活の本拠を失うこととなった借家人に次の3つの権利を認め、借家人を保護しています。

(1) 第1は、敷地の優先借地権です(同法2条)。震災により滅失した建物の借家人は、借地人がいない場合、土地所有者に対して、2年以内に建物所有での土地賃借を申し出ることによって、他者に優先して土地を賃借することができます。この優先借地権の存続期間は10年ですが(同法5条1項)、期間満了後も借地人が土地を使用している場合には、契約は更新されたものとみなされます(最判昭和47年2月22日)。なお、更新後の存続期間は20年となります(借地借家法5条、4条)。

(2) 第2は、借地権の優先譲受権です(臨時処理法3条)。震災により滅失した建物の借家人は、借地人がいる場合、借地人に対して、2年以内に借地権の譲受を申し出ることによって、他者に優先して借地権を譲り受けることができます。

 第1・第2の申し出があった場合、土地所有者・借地人は、土地を建物所有目的で自己使用するなどの正当事由がない限り、申出を拒絶することはできないとされています(同法2条3項、3条)。また、申出を受けてから3週間以内に拒絶の意思表示をしない場合には、3週間の期間満了後に申出を承諾したものとみなされます(同法2条2項、3条)。

(3) 第3は、再築後の建物の優先借家権です(同法14条)。震災により滅失した建物の借家人は、その建物の敷地に借家人以外の者(土地所有者・借地人など)が建物を建築した場合、完成前に申し出ることによって、他者に優先して当該建物を借り受けることができます。

第1、第2の申し出は、①土地所有者・借地人が建物を再築し始めているなど、当該土地を権原により現に建物所有目的で使用する者があるとき(同法2条1項但書、3条)、②法令で建物を建築するのに許可が必要な旨定められているのに、許可がないとき(同条項但書、3条)にはできないとされているので、これらの場合には第3の方法により保護される余地があることになります。

3 本件では、賃貸人である土地所有者に再築の目途が立っていないということですので、臨時処理法を適用する旨の政令が制定された場合には、前記の第1の保護を受けられる可能性があります。このように、臨時処理法の適用がある場合には、建物建築の資金さえ用意できれば、借地権という非常に財産的価値の高い権利を優先的に取得できるとされており、借家人を強力に保護しているといえます。

 

                            

                       

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.08.23更新

身元保証人の相続人の責任

 


(問い)父は証券会社で働く友人のAさんの身元保証人でしたが、最近父Bは死亡し、唯一の相続人である私が単独相続しました。その後、Aさんが会社のお金を横領して行方不明になってしまったのですが、証券会社から私に対して、Aさんが会社に与えた損害を償うよう請求がきました。私は責任を負わなければならないのでしょうか。
(答え)この問題を考える前提として、保証債務と相続の関係についてご説明致します。「保証債務」とは、本来の債務者がその債務を弁済しない場合に、債務者に代わって弁済する義務ですので、本来の債務者が弁済しない場合には保証人が代わりに弁済をしなければなりません。
 また、「相続」は、「被相続人に属した一切の権利義務を承継する」ものです(ただし、相続放棄や限定承認の手続きをした場合は別です)。保証債務も財産上の義務ですから、相続人は被相続人の負担していた保証債務も相続することになり、相続人が「保証人」となります。したがいまして、被相続人が、金銭消費貸借の保証人であった場合は相続人が保証債務を負わなければなりません。つまり、債務者本人が、倒産したり行方不明になるなどして、弁済しない場合には、もともとの保証人だけでなく、もともとの保証人の相続人である妻や子が保証債務を相続することにより「保証人」となります。
 ただ、ご質問のケースにつきましては、裁判所は、借金の保証人の様な普通のケースとは異なる判断をしています。身元保証人のケースでも、もともとの身元保証人であったBさんは自身は、Aさんが会社に与えた損害をAさんに代わって弁償しなければならない義務は負担していました。しかし、身元保証人の債務は、普通の保証債務とは異なり、一定額の債務の保証ではなく、本人(A)に将来発生するかも知れない広範な債務を保証するもので、この点が、債務の額が一定している借金の保証人等普通の保証とは異なります。
 そこで、裁判所では、特別の事情がない限り、身元保証債務は、もともとの身元保証人だけにとどまる債務であって相続人には承継されないと考えられています。したがいまして、
ご質問のケースは、特別の事情がない限り、Bさんの相続人である子は、Bさんの身元保証債務を相続することはなく、会社に対し責任を負うことはないのです。
 しかし、Aさんが会社に損害を与えた後に、Bさんが死亡した場合には、すでにBさんの保証債務の金額が決まっていますので、借金の場合と同じように、Bさんの相続人はBさんの保証債務を相続しますので注意してください。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.08.15更新

有責配偶者による婚姻費用請求


<質問> 
 妻が浮気をした挙句、浮気相手の男性と一緒に住むと言って別居してしまいました。
その後、妻は、私との離婚を求めて調停を申し立ててきましたが、それと同時に離婚が成立するまでの婚姻費用として生活費の支払いを求める調停も起こしました。
 私としては、浮気をした上に一方的に別居した妻に対する婚姻費用を支払うことにどうしても納得がいきません。法的にはどうなのでしょうか。
<回答>
1 夫婦関係において、夫は、妻に対して自分と同程度の生活を保持する義務がありますので(民法760条)、夫は妻との別居後においても夫の収入に応じた一定額の生活費を支払わなければならないのが原則です。この生活費は、夫と同程度の生活レベルを保持するためのものですので、夫の収入によって変わってきます。
 これは、離婚原因について仮に一方当事者である妻側に何らかの責任がある場合においても同様です。
2 しかし、札幌高判昭和50年6月30日(判タ328号282頁)は、「婚姻関係の破綻につき専ら、若しくは主として責任を負う者が、その義務をつくさずして、相手方に対し、相手方と同一程度の生活を保持できることを内容とする婚姻費用の分担の履行を求めることは権利の濫用として許されない。」と判示しております。上記裁判例は下級審判例ではありますが、その後の多くの裁判例でも同種の判断がなされております。
したがって、本件のように妻側に一方的に破綻の原因があることが明らかなような場合には、前記1の原則の例外として、「夫の生活レベルと同程度の生活を保持するための生活費」の支払については拒否することができます。
3 もっとも、上記裁判例も「夫と同程度の生活レベルを保持するための生活費の支払義務」はないものの、夫婦である以上、夫には妻に対し「最低限の生活を維持させるという限度での婚姻費用の支払い義務」はあるとも判示しております。
 これはどういうことかと言うと、破たん原因について妻側に一方的な落ち度があるような場合には、夫と同程度の暮らしをさせる金額での婚姻費用の支払い義務はないものの、妻が生活するための最低限度の生活費については夫にはその支払い義務があるとしたものです。
 本件のようなケースでは、まず、妻側が自らのパート収入や同居している相手の収入などで生活していけるかどうかを検討し、生活していけるのであればそれ以上の生活費の支払い義務はないということになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.08.08更新

お金の貸し借りと利息の法律相談

(質問)
1 私はある友人に1年間30万円お金を貸すことになりました。この場合、借用書では、どのような点に気をつければいいでしょうか。
2 私は会社を経営している者ですが、私の会社が友人の会社から1000万円をお借りすることになりました。この場合、借用書では、どのような点に気をつければいいでしょうか。
(回答)
1 質問1の回答
 民法では利息の合意がない場合には無利息となるのが原則です。
 個人間のお金の貸し借りの場合にはこの民法の原則が適用されますので、借用書に利息を支払う旨の合意がない場合には無利息の消費貸借契約とみなされます。
 したがって、利息についてもきちんと支払って欲しい場合には、借用書において「本件の利息は年利○%とする」という条項を設けておく必要があります。利息を支払う旨の合意はできていたが、利率の合意まではしていなかったという場合には民事法定利率である年5%とみなされます(民法404条)。
 また、借用書では、返済期限と返済期限を経過しても返済がされない場合の遅延損害金についてもきちんと明記しておいた方がよいでしょう。というのも、遅延損害金の定めがない場合には民法では遅延損害金は年5%とみなされますが、相手方の返済を促す意味でも遅延損害金は10%とか14%など高めに合意するのが通常だからです。
 最後に、借用書において返済期限が書かれていない場合どのように考えるのかですが、民法では返済期限の定めのない消費貸借契約の場合には、貸主は、何時でも借主に返済するよう催告することができ、貸主の催告時から「相当の期間」が経過した時に借主の支払義務が到来するとされております(民法591条1項)。
この「相当の期間」ですが、通常は1週間から1カ月程度と解されております。したがって、借りる側においては返済期限をきちんと明記しておかないと思ったよりも早く返済を迫られることになりますので、注意が必要です。
2 質問2の回答
 商法においては利息の合意がなくとも年6%の利息でお金を貸したものとみなされます(商法513条、514条)。
 本件のように会社間でのお金の貸し借りについてはこの商法の原則が適用されますので、借用書に別段の定めがない場合には、年6%の商事法定利息による消費貸借契約とみなされます。
なお、遅延損害金の利率の定めがない場合には、年6%の商事法定利率が遅延損害金の利率とみなされます。
また、返済期限の定めがない時には貸主は何時でも返済を催告することできることについては民法の場合と同じです。
 近時の金融市場の利率は、比較的低い利率で推移しておりますので、友人の会社間でのお金の貸し借りだからと言って、利息の合意をきちんとしていないと、年6%という予想外の利息を請求されることにもなりかねませんので、借りる方としても利息の利率の合意はきちんとしておいて方がよいでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.08.01更新

マンション管理費の長期間滞納者への対処法

 

(質問)

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしております。私のマンションには3年以上もの長期間に渡りマンションの管理費・修繕積立金を滞納し続けている区分所有者がいます。

管理組合では、既に内容証明郵便で支払いを催告してきましたが一向に支払いがなく、その為、弁護士に依頼して管理費の支払いを求め提訴をし、勝訴判決まで得たのですが、その滞納者はそれでも全く支払いに応じません。

裁判を依頼した弁護士の話によると、その滞納者の所有するマンションには既にマンションの時価を大きく上回る抵当権が設定されているため当該マンションの競売をすることもできず、また、滞納者の勤務先も不明であるため、給与の差押えもできないとのことでした。

管理組合としては、このまま滞納が続くことを容認するわけにはいきません。何とかならないでしょうか。

(回答)

 確かに、管理費の支払いを求め判決を得たとしても、滞納者に資産がなければ、差押えをすることができません。

 前記のように、滞納者のマンションに時価相当額以上の抵当権が設定されている場合、管理組合が、管理費の支払いを命ずる通常の判決に基づいてマンションの強制競売の申立をしても、「競売代金は全て抵当権者に配当され管理組合には配当されないのだから、管理組合には、抵当権者が競売する意思がないのに、これを請求する権限がない」という理由で、管理組合の競売申立は裁判所によって却下されてしまいます(これを民事執行法63条の「無剰余却下」といいます)。また、滞納者が年金暮らしをしている、勤務先が全く不明である、行方不明で連絡がつかないなど場合には勤務先の給与を差し押さえることもできません。滞納者の預金の差押えについても、どこの銀行のどこの支店に預金があるかを管理組合の方で特定しなければ差押えができませんし、仮に、預金口座が分かったとしても、このような滞納者にはお金がなく殆ど預金が残っていないのが通常です。

 では、このような場合、管理組合としては、管理費の滞納が日々膨らんでいくのを黙って待つしかないのでしょうか。

このような場合、区分所有法59条に基づく競売請求の裁判を提起することをお勧めします。

この59条の競売請求の裁判とは、ある区分所有者が当該マンションの共同の利益に著しく害する行為をした場合、管理組合は、その区分所有者に対してその者が所有する区分所有建物の競売を請求することができるという規定です。

本件のように長期間に亘り、管理費の滞納をしており、判決を得ても、支払いに応じないと言うケースでは、管理費等の長期滞納が共同の利益に著しく害する行為をした場合に当たりますので、59条に基づく競売請求が可能です。

そして、この59条に基づく競売請求裁判のメリットは、たとえ当該マンションの時価を超える抵当権が設定されている場合にも、前記の無剰余却下の適用がなく、競売を実施できると言う点です。

以前の東京地裁民事執行部の扱いは59条に基づく競売請求の場合にも民事執行法63条を適用して無剰余却下をしていたようですが、当法律事務所では、上記東京地裁の取り扱いを不当であるとし、東京高裁に控訴をしました。その結果、東京高決平成16年5月20日は、59条に基づく競売請求の場合には無剰余却下の適用がないことを明らかにする新しい判例を形成しました。現在の東京地裁では、上記判例に基づく運用に変更されているようです。

ただし、この59条の裁判をするには、管理組合は総会を開き、全区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成を得なければなりません。

59条により競売が実施された場合、その競売代金は、第1に、手続き費用としての管理組合が収めた予納金の返還に、第2に、抵当権者に配当され、当該競売代金からは管理費等の支払いは受けられません。

しかし、新所有者に代われば、その新所有者が旧所有者の管理費等の支払い義務を承継します。新所有者は、通常は、新たにマンションを購入するなど資力に問題がない正常な入居者がなりますので、請求をすればこれを支払ってくるのが通常です。

このようにして、59条の競売請求を利用すれば、不良入居者を追い出すことができ、新所有者のもと以後の管理費滞納で頭を悩ますことがなくなり、これと共に、以前の旧所有者の滞納管理費についても回収できることになります。

もっとも、前記のように管理組合から競売を請求するというのではなく、抵当権者が滞納者のマンションを競売に出すのを待つという方法もあります。確かに、これにより新所有者に代われば、費用をかけることなく、新所有者から区分所有法8条により滞納管理費の回収を図ることができるでしょう。しかし、抵当権者は、いつ競売を申立てくれるか分かりません。また、抵当権者は、通常、滞納者に対し競売を盾にしてローンの支払いを求めていますので、滞納者が抵当権者に対しローンの支払いを続けている限りにおいては、抵当権者は競売申立をしないでしょう。この間、抵当権者が競売を申し立てるか否か、申し立てるとして何年かかるか分からないのに、そのような不真面目な滞納者を居住させ続けていたのでは、真面目に毎月管理費を納めている他の区分所有者は納得しないでしょうから、その意味でも、前記59条の競売請求の裁判は意義があると思われます。

  

 

       

           

 

          

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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