弁護士 秋山亘のコラム

2017.06.26更新

建築協定の拘束力

 

<質問>

  私は、ある不動産業者から宅地を購入し、木造3階建ての建物を建設中です。ところが、近隣の方からこの地区は、建築協定によって建物は2階建てまでの建物に限定されており、3階建て以上の建物を建設できないと言われました。しかし、私は、宅地を購入する際にこのような建築協定のことについては一切説明も受けておりませんし、建築協定に署名捺印などもしていません。建築協定に拘束力などあるのでしょうか?

<回答>

  建築基準法69条以下では、建築協定に関する制度を規定しております。

建築基準法は、建物の安全性や良好な住環境を確保するため、最低限の建築基準を設けて建物の建築について規制している法律ですが、良好な住環境の確保の観点からは、それぞれの地域の特性を生かした決め細やかな規制を行いたいという場合もあるでしょう。

そこで、建築基準法69条以下では、市区町村が条例で定めた一定の地区に関しては、当該地域の所有者および借地権者(以下「地権者等」という)の全員の合意のもと、建築協定書を作成し、市区町村の長に提出して、市区町村長の認可、公告の手続きを経ることで、地権者に対し効力を発生する建築協定の制度を設けております。

建築協定は、上記の市区町村長による認可と公告の手続きを経ていれば、その後に当該地区の所有権や借地権を取得した者がいたとしても、その者に対しても当然に効力を生じます。土地の取得者が建築協定の存在について知っていたかどうかは問われません。

したがって、本件については、当該建築協定が上記の認可、公告の手続きを経ているかどうかを確認し、もし上記の手続きを経ている場合には、3階建ての建築計画を2階建てに変更する必要があります。建築協定を無視して、3階建ての建物を建築した場合には後に3階部分に関しては、建築協定違反として撤去を求められることになるでしょう。

そして、このような建築協定の存在は、重要事項説明事項として当然に調べておくべき事項ですので、建築協定の存在を説明しなかった不動産業者に対して、あなたは説明義務違反による損害賠償の請求ができます。

もっとも、建築協定は、地権者等の過半数の合意によって、市区町村の長に廃止の申請をすることができ、市区町村の認可を受ければ廃止することもできます(建築協定の変更の場合には全員の同意が必要です)。そこで、建築協定が古く、その地区の実情にふさわしくなくなってきた場合には、3階建て以上の建物の建設を禁止する本件の建築協定について当該地区の地権者の過半数の同意を経た上で廃止の申請をすることも検討されてよいかもしれません。

上記の廃止の見込みもなく、また、3階以上の建物を建設できないのでは、土地を購入した意味もないというのであれば、不動産業者に対して、土地の売買契約の取り消しを請求できる場合もあります。

消費者契約法では、消費者は、事業者に対して、①事業者の不実告知または②不利益事実の不告知を理由に、契約の取り消しを請求できます。

①の不実告知とは、本件では2階建ての建物しか建設できないのにもかかわらず、3階立の建物が建設可能だと称して、3階建ての建物の建設請負プランを設定して、土地の売却の広告をしている場合などです。

②の不利益事実の告知は、事業者が重大な不利益事実を知っていながら、告知しなかった場合に取り消しができるものです。本件の建築協定は、土地の利用に関する重大な制限ですので、重大な不利益事実に該当することは明らかです。しかし、仮に事業者も建築協定の存在を知らなかった場合には、不利益事実の不告知による取り消しはできませんので、建築協定の存在を売買契約時までに不動産業者が知っていたか否かが争点になることが予想されます。

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.06.19更新

競売による借地権付建物購入の注意点

 

<質問>

 私は、借地権付建物を競売により取得しました。

 落札後、地主のところに行き、改めて借地契約の締結をしたい旨を話しましたところ、地主は、承諾料として借地権価格の1割を支払わなければ借地権譲渡は認めないと言ってきました。

 しかし、この競売物件の物件明細書には、借地人が借地上に建物を建てた際に地主が金融機関に提出したものと思われる借地上の建物に対する抵当権設定の承諾書が添付されており、その承諾書には「将来第三者が所有権を取得したときは、借主に対するものと同一の条件で、その者に引続き貸与します」と記載されており、地主の署名捺印が押されていました。

 この同意書によると、地主は、借地権の譲渡について、事前に承諾しておりますので、改めて借地権の承諾料を支払わなくてもいいのではないかと思います。

 このまま地主の同意を得ないでいても、地主に対し、借地権を主張することは出来るのでしょうか。

<回答>

1 まず、上記のような承諾書がない一般的な場合についてご説明致します。

競売により借地上の建物を取得した者は、建物の所有権と共に借地権も取得しますが、この借地権は地主の承諾を得て取得したものではないため、落札後に地主の承諾を得ないと、借地権の無断譲渡によって借地契約を解除されてしまいます。

  そこで、借地借家法第20条は、競売によって借地権付建物を取得した借地人を保護するため、地主の承諾に代わる裁判所の許可の審判を申立てることができるとされております。

  この許可の審判の申立てがあると、裁判所は、地主から介入権の行使があった場合や借地人が借地を暴力団事務所に使うなどの特段の事情がない限り、許可の審判を下します。ただし、自己の意思に関わりなく、借地権譲渡を認めなければならない地主の利益に配慮して、借地権価格の1割に相当する金員を借地権者が地主に支払うことが条件とされます。

 2 ところで、上記の借地借家法20条の審判申立は、借地人が競売代金を納付した日から2ヶ月以内に申立てなければならないとされており、これは、当事者間の合意によって伸長することができない不変期間だとされております(東京地方裁判所平成10年10月19日判決・判例タイムズ1010号267頁)。

この2ヶ月の不変期間を設けた趣旨は、自らの意思に関わりなく借地権譲渡への承諾か介入権行使かを迫られる地主側の不安定な状態を速やかに確定するためとされております。

  したがって、この期間を経過してしまうと、結局、競売によって借地権を取得した借地人は、地主に対し、借地権を対抗できなくなってしまい、地主の土地明け渡し請求に応じなければならなくなってしまいます(前記東京地方裁判所平成10年10月19日、東京高等裁判所平成17年4月27日判決)。

  このような結論は、借地人に対しあまりにも酷なように思え、上記裁判例に対して批判の声もありましょうが、借地借家法20条の申立期間を経過した借地権者に対する裁判例の態度は厳しい傾向にあるようです。

  なお、地主の土地明け渡し請求に対して、借地権を対抗できなかった借地人は、借地権を喪失することになりますが、裁判所は、そのような不利益も、借地借家法第14条に基づく建物買取請求権によって調整が図れるとしております。建物買取請求権を行使した場合に、地主が支払うべき建物代金には借地の場所的利益を金銭に換価したものも含まれますが、借地権価格と比べれば格段にその金額は低くなります。前記の東京地方裁判所平成10年10月19日判決は、場所的利益の金額を更地価格の1割として認定しておりますが、借地権価格が更地価格の7割前後であることに照らせば、借地借家法20条の申立期間を経過してしまったために、借地権付建物を競落した借地人が被った損失は極めて大きな額になります。

 3 さて、以上を踏まえて今回のご質問ですが、確かに地主の承諾書を読めば、地主は借地権譲渡を事前に承諾しているように思えます。

  しかし、東京高等裁判所平成17年6月29日判決(判例タイムズ1203号182頁)は、当該承諾書が提出されたのは競売物件の買受申出時から10年前であり、抵当権者に対して提出された書類に過ぎないことから、競売手続当時に承諾書の拘束力を有することを認めることが困難であるという理由で、借地権譲渡に対する地主の承諾を否定しました。

  そして、当該事案では、既に借地借家法20条の申立期間を経過してしまった事案であり、また、地主側も競売の物件明細書や競売後の事前の交渉段階から借地権譲渡に対し承諾せず、介入権を行使する予定である旨を明言していたこと、借地権者側も不動産業者であり前記申立期間を徒過した場合に自らが被るリスクを認識し得たことなどの事情も考慮して、借地権を地主に対抗できないとの判断を示しました。その結果、結局、借地権者は、借地権が消滅したことを前提に建物買取請求権を行使しておりますが、借地権価格が億単位であったため、この事案の借地権者側の損失はまさに億単位のものになりました。

  この裁判例の結論に対しても、学者の判例評者でも疑問が呈されておりますが、借地借家法20条の申立期間を経過した借地権者に厳しい態度を取っている点では、従前の裁判例の流れをつぐものと言えます。

 4 本件でも、地主と交渉してみるにしても、代金納付日から2ヶ月以内に借地借家法20条の審判申立をしなければ借地権そのものが消滅してしまう可能性が高いことに留意する必要があります。うっかり地主と交渉している間に上記の期間を経過してしまうと取り返しがつきませんので、地主の承諾が得られなそうな時や承諾料の金額で争いがある場合には、速やかに、借地借家法20条の審判申立をすべきでしょう。

本件では、まずは上記の申立をした後に、借地非訟手続きの中で、前記の金融機関への承諾書をもって、承諾料の支払いなく許可をすべきである、或いは、承諾料の減額をすべきであると主張をすればよいと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.06.12更新

賃貸人の破産と賃借人の相殺権

 

(質問)

  Xはその所有ビルを家賃1ヶ月10万円、敷金50万円でAに賃貸していたが、賃貸人Xは破産をし、破産管財人が選任された。

このような事例で、Aは、預け入れ敷金と今後の賃料の支払い義務とを相殺することができるか。

(回答)

 この度、破産法と民事再生法が大きく改正され、その結果、賃貸人や賃借人が破産・民事再生した場合における、賃貸借契約法上の法律関係も大きく変わりました。そこで、今回は、賃貸人が破産した場合における賃借人の相殺権、そして、敷金返還請求権の保護の制度について、ご説明します。なお、賃貸人が民事再生した場合の相殺権、敷金返還請求権の保護制度については、破産をした場合とは異なる手続きが設けられておりますので、別の機会にご説明致します。

破産法上、債権者は、破産開始の時において、破産者に対して債務を負担している場合には、破産者に対し有している債権との相殺をすることができます(新破産法67条1項)。破産者に対し有する相殺可能な債権は、弁済期が未到来の期限付きの債権などの場合でもよいとされておりますが、停止条件付きの債権(未確定の一定の条件の成就をもって初めて発生する債権)の場合には、破産開始時までに条件の成就がなされていない限り相殺することができないとされています(新法67条2項)。

そこで、賃借人が賃貸人に対して有する将来の敷金返還請求権がここに言う相殺をなし得る債権に当たるかが問題になります。

しかし、最高裁判例(昭和48年2月2日)は、敷金債権の法的性格は、停止条件付き債権であると判示しており、賃借人の破産者(賃貸人)に対する相殺権を否定しております。この点は、改正破産法においても変更はないところです。

したがって、賃借人は、破産管財人の賃料の支払い請求に対して、破産開始後も、将来の敷金返還請求権と今後の賃料の支払い義務とを相殺することはできません。

もっとも、このような取扱に対しては、賃借人は一方的に賃料の支払いを請求され支払わなければならないのに敷金返還の保証がないのは不合理だとする批判がありました。

そこで、改正産法は、将来賃借人が明け渡しを完了したときに発生する敷金返還請求権を確保するために、破産管財人に対する賃借人の賃料の寄託請求の制度を設けました。

これは、賃借人が賃料を支払うときに、破産管財人に対し、預け入れ敷金額の限度内で弁済した賃料を破産管財人が預かるよう寄託を請求した場合には、破産手続きが終了して最後配当が為されるまでの期間までに、賃借人が賃貸借契約を解約するなどして建物明け渡しを完了させた場合には、破産管財人は、寄託を受けた金額の範囲内で返還義務のある敷金を賃借人に返還しなければならないと言う制度です。これにより、賃借人の敷金返還請求権が保護されるよう配慮されました。なお、破産手続開始後から最後配当が為されるまでの期間については、破産事件の規模や複雑生にもよりますので一概にはいえませんが、早ければ半年程度、長い場合には2年以上かかる複雑な事件もあります。

なお、賃貸人が破産をしても、当該不動産が抵当権者の競売手続きによらずに破産管財人によって任意売却されたときには(破産事件のうち大多数は抵当権者による競売手続きよりも任意売却により不動産の処分がなされます)、新賃貸人に敷金返還請求義務が承継されます。もっとも、敷金や保証金名目で賃料の何十ヶ月分も預けている場合には、預け入れている金銭の全額が承継されるのではなく、実質的な敷金相当部分に限定されて承継されます(実務的には事業用の賃貸借のケースでは家賃の2年分相当額が敷金相当部分として承継が認められる部分の上限かと思われます)。

また、抵当権者の競売手続きによった場合でも、抵当権設定前に契約した賃借人など賃借権を抵当権者に対抗できる場合には、競落人に対し、敷金返還請求権を主張できます。

したがって、破産管財人への寄託請求の制度の実益があるのは、賃貸人破産のケースでは、ある程度限られた場面になるでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.06.05更新

交通事故と慰謝料に関する法律相談

 

<質問>

 私は、ある追突事故にあい、鞭打ち症になりました。通院を6カ月続けた結果症状が治まり、治癒となりました。

 保険会社からは損害賠償金の案内が来ています。保険会社は、実通院日数の3倍を通院期間として慰謝料を算定しているようです。保険会社の算定した慰謝料は相当な金額なのでしょうか。なお、私は、一週間に1日の割合で通院しておりました。

 また、休業損害について、保険会社からは「会社を休んだことによる減給がなければ出ない」と言われています。私の場合、事故直後1週間は自宅で安静にしており会社を休んだのと通院のための何日か早退をしていますが、全て有給休暇を使っているため、給与額は以前と変わりません。このような場合には休業損害として認められないのでしょうか。

<回答>

1 通院慰謝料について

保険会社の申し出る慰謝料の基準とは、保険会社の自社基準に過ぎず、裁判所が裁判実務で用いる損害賠償基準とは異なります。

裁判所が裁判で用いる損害賠償基準は、「民事交通事故訴訟 損害賠償基準」(通称「赤い本」)に記載されており、通院何カ月で幾らというように通院期間を基準に慰謝料が算定されます。

 例えば、鞭打ちうち症のように他覚的症状がない(本人の主訴以外の客観的所見に乏しい)傷害の場合には、赤い本の「別表2」という基準が適用され、通院3カ月で53万円、通院6カ月で89万円の慰謝料が標準的な金額とされております。

 この基準においても「通院期間が長期にわたり、かつ、不規則な通院」である場合には、実治療日数の3.5倍の日数を通院期間とした上で慰謝料が算定されますので、実際の通院期間よりも短く評価されます。

しかし、実治療日数の3.5とされるのは、①通院期間が長期であること(受傷内容にもよりますが通院期間1年前後が目安になると思われます)、②不規則であることの双方の要件が満たされる場合ですので、いずれか一方しか該当しない場合には、上記基準は適用されず、実際の通院期間がそのまま適用されます。

 このように裁判所の基準と保険会社の自社基準は異なりますので、保険会社の自社基準で算定すると裁判所の基準で算定した慰謝料額の2分の1以下の金額になってしまうことはしばしばあります。

 そして、保険会社は、被害者本人が示談交渉をしても自社基準での慰謝料の算定しかしてくれず、弁護士を立てて示談交渉をしないと裁判所基準での慰謝料の算定に応じないことが多くあります。

2 有給休暇と休業損害について

 次に、有給休暇を使用した欠勤ないし早退についてですが、これも休業損害として請求すれば認められます。

有給休暇を使用した欠勤については通常の欠勤の場合と同様に計算して一日分の休業損害が、早退については仮に有給休暇を使用せず早退した場合の減給額について会社に算定してもらい、それをもとに休業損害を算定します。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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