更新料の有効・無効を巡る裁判例の動向
<質問>
大阪では、更新料を有効とする高裁判決と無効とする高裁判決とで裁判例が別れていると聞いています。
この二つの判決はどのような理由で判断が分かれたのでしょうか。
<回答>
(1) 平成21年8月27日大阪高裁判決は、更新料の定めは消費者契約法に違反し無効との判決を下しました。
これに対し、平成21年10月29日大阪高等裁判所判決は、更新料の定めは消費者契約法に違反せず有効との判決を下しました。
なお、この二つの判決は大阪高裁の異なる民事部で審理されましたが、重要な論点ですので、裁判所内部では事実上協議がなされているものと思われます。
この二つの判決の事案の概要は以下の通りです。
①平成21年8月27日大阪高裁判決
家賃:月額4万5000円
礼金:6万円
更新料:10万円
契約期間:1年間
過去5回支払った更新料の返還請求
②平成21年10月29日大阪高裁判決
家賃:月額5万2000円
礼金:20万円
更新料:家賃2ヶ月分
契約期間:2年
過去に支払った5ヶ月分の更新料の返還請求
更新料の定めを無効とした平成21年8月27日大阪高裁判決は、更新料の法的性格として①賃貸人による更新拒絶権放棄の対価、②賃借権強化の対価、③賃料の補充という複合的性質を持つという賃貸人側の主張を否定し、1年という契約期間満了の度に10万円という高額の更新料の支払い義務を定める契約条項に合理性はないとして、消費者契約法違反を認めました。
これに対し、更新料の定めを有効とした平成21年10月29日大阪高裁判決は、更新料の法的性格について、更新料は更新によって当初の契約期間よりも長期の賃借権となったことに基づく、賃借権設定の対価の追加分乃至補強分であると判示し、本件においては、契約期間を2年間、更新料を賃料の2ヶ月分(10万4000円)とされており、契約時の礼金(20万円)よりも金額的に抑えられているなど適正な額に止まっていることから、信義則に反する程度まで消費者に一方的な不利益を課すものではないと判示して、消費者契約法に違反せず有効と判断しました。
(4) 二つの大阪高裁の事案を比較すると分かると思うのですが、大阪高裁は、更新料を一律に有効・無効とするのではなく、事案に応じて判断を分けているのが分かると思います。
すなわち、無効とした平成21年8月27日の事案では契約期間が1年と短く更新料を支払う頻度が多いのに、更新料の金額は10万円と契約時に賃借権設定の対価として支払う礼金の6万円に比べて高い金額を要求しております。このような定めでは、更新契約を結ぶことによって追加の契約期間を確保するという更新料の法的性格(賃借権の設定の対価)を合理的に説明することは困難かもしれません。
これに対して、有効とした平成21年10月29日の事案では契約期間は2年であり、更新料の金額(10万4000円)も契約時の礼金(20万円)の範囲内に収まっておりますので、賃借権設定の対価(契約期間延長の対価)としての法的性格を合理的に説明できるように思えます。また、2年毎の更新料ですので、賃借人にとっても負担が少なく、信義則に反して消費者に一方的な不利益を課すものではないと言えます。
(5) いずれの事案も最高裁に対し上告されているようですので、最高裁の判断が待たれるところですが、少なくとも、大阪高裁の判決は更新料を一律に無効にしたものではなく、更新料の負担が合理的範囲内に抑えられている場合には有効との判断を示しているというのが現時点における大阪高裁判決に関する正しい理解であるように思えます。
そして、東京における賃貸の事案は、多くの賃貸借の事例で契約期間が2年間であり、更新料の金額も家賃の1ヶ月分程度であり、礼金と同等か若しくはこれよりも低い金額であることに鑑みれば、平成21年10月29日大阪高裁判決の事案と同様、消費者契約法に違反するものではなく有効と判断されるものと考えられます。
(6) なお、消費者契約法は、事業者と非事業者との契約に適用がある法律ですので、事業者が賃借人の事案では、そもそも消費者契約法が適用されるものではなく、更新料の定めは有効となります。