弁護士 秋山亘のコラム

2019.01.28更新

袋地の通行権にはどのようなものがありますか

 

<質問>

私は、土地付の中古建物を購入しました。その物件は、建物からから公道に出ることができる唯一の通路部分は、隣接地の地主が所有している土地なのですが、自由に行き来できるので問題ないと売主Aから説明を受けていました。

しかし、購入後、しばらくすると、その地主が当該通路部分に植木や花壇を造り、公道に出れないようにされてしまいました。

通路部分の地主に植木等を撤去するように言っても、自分の土地だから何をしようと自由だと言って話に応じてくれません。

どうしたらよいのでしょうか。売主に責任追及すべきでしょうか。それとも、まずは、地主に植木の撤去を請求すべきでしょうか。

 

<回答>

1 この種の事案では、まず、当該通路部分にどのような通行権が設定されているのかを、売主から詳しく事情を聞くことが肝心です。といいますのも、これまで通路として利用できたという場合には、多くのケースで、地主の封鎖行為が違法な場合が多いからです。

 そこで、まずは、通行権の種類についてご説明します。

① 通行地役権(物権的通行権)

 これは売主と当該通路部分の地主との間において、売主の土地の便益のために、当該通路部分の土地を通行目的のために利用するという内容の地役権設定契約(民法280条)が締結されていた場合に生ずる権利です。

明確な地役権設定契約がなくても、10年以上にわたり、通路としての公然と使用し続けている場合には、通行地役権設定の時効取得が認められる場合もあります。

また、例えば、かつて袋地だった土地を地主が売主に分譲したという経緯がある場合には、公道まで通じる部分を通路として利用することを黙示に設定していたとして、通行地役権が認められる場合もあります。

通行地役権は、土地に登記することが認められる権利であって、登記がされていれば、たとえ通路部分の所有者が変わったとしても、その者に対し、通行地役権を主張できます。

② 通路利用契約(債権的通行権)

 当該通路所有者との間において、通行を目的とする当該通路の利用契約が結ばれている場合にも通行権が発生します。

 通行の対価を伴うものであれば、賃貸借契約ないしこれに類似した債権契約と考えられ、無償利用であれば、使用貸借契約ないしこれに類似した債権契約と考えられます。

債権的通行権の場合には、通行地役権と異なり、契約当事者間のみにおいて拘束力があるにすぎません。

したがって、債権的通行権の場合には、事前に、売主が買主に通行権を承継することを地主に申出て地主から承諾を取っておくことが必要になります。

したがって、債権的通行権の場合には、本問のように土地の売買が為されても、当然に、買主は売主が有していたこの種の通行権を主張することはできません。

④ 囲繞地(いぎょうち)通行権

 購入した土地が他人の土地(囲繞地)に囲まれて公路に通じていない袋地である場合は、民法211条の囲繞地(いぎょうち)通行権として、その他人の土地を通行することができます。ただし、通行の場所および方法は、通行権者のために必要にして囲繞地のために最も損害の少ない経路でなければなりません。

 したがって、本問においても、当該通路が当然囲繞地通行権の認められる通行部分であれば、すなわち、「通行権者のために必要にして囲繞地のために最も損害の少ない経路」であれば、囲繞地通行権が認められます。

他の囲繞地も含めて公道へ通じるより短い適当な通路があるようであれば、その通路の方に通行権が認めら、本件の当該通路には囲繞地通行権は認められません。

なお、建築基準法上、建物を立てるには敷地が原則として幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(42条、43条)が、囲繞地通行権による通路の幅員としては、必ずしも2メートル以上の幅員が確保されているわけではありませんので、注意が必要です。

また、購入した土地が従前袋地でなかった場合は、分割されて袋地になったときの分割者の土地のみを通行できるだけです(民法213条)。

また、購入した土地の隣地が元々買主の土地であり、その土地が公道に面している場合にも、買主は、自分の土地を通行すればよいわけですので、囲繞地通行権は認められません。

⑤ 建築基準法上の位置指定道路・みなし道路

また、建築基準法上の位置指定道路或いはみなし道路として認められているケースも多くあります。

建築基準法上、建物を立てるには敷地が原則として幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(42条、43条)。

建物建築のための接道要件といわれるものですが、それを満たすために、当該土地所有者等が特定行政庁に対し、この道路位置指定を申請し、これによって認められた道路が位置指定道路です。

 また、4メートル幅以上の道路でないにしても、昭和25年11月以前という古い時期から現に建築物が建ち並んでおり、通路として使用されていたところは、特定行政庁が建築基準法上の道路とみなしている場合が多く、それをみなし道路(2項道路ともいいます)と呼んでいます。

 このように当該通路部分が位置指定道路やみなし道路だとすると、そこに建築物を築造することはできず、本件の買主は当該通路を自由に通行できます。

2 本件では、まずは、上記のいずれの通行権が存在するのかについて、売主Aから詳しく事情を聞き、建物の建築確認申請時の資料を取り寄せたり、或いは、登記簿謄本、公図、地積図、旧土地台帳、航空写真などを取り寄せる、区役所の細街路課に問い合わせるなどによって、調査する必要があります。

 その上で、通行権が存在する場合には、当該通路部分の地主に対し、構築物撤去を求める裁判を提起することができます。

 仮に、調査の結果、通行権というものが認められなかった場合や訴訟をしても通行権の主張が認められなかった場合には、売主Aに対して、瑕疵担保責任に基づく契約解除、錯誤無効による契約の無効主張をすることになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.01.22更新

相続の発生と自己株式の取得

 

 <質問>

 私は,不動産業を営む株式会社を経営しており,自社の株式も多数保有しています。私にもしものことがあった場合には,息子に後を継いでもらうつもりですが,会社は多数の不動産を保有しているため株式の時価も相当高額になると思われますので、相続税が高額になってしまうことから,果たして息子が相続税を支払えるか心配です。ところで,最近,商法の改正で会社の自己株式の取得が可能になったということを聞きました。

そこで,息子が相続した株式の一部を会社が買い取り,その売却代金で相続税を支払うということができないかと考えているのですが,どうでしょうか。

 

<回答>

1 自己株式の取得

 会社が自社の発行した株式を取得することを,「自己株式の取得」といいます。自己株式の取得は,平成13年6月改正までは原則として禁止されていましたが,同改正により手続・方法・財源の規制のもとで認められ,会社法もこれを引き継ぎ,規制を合理化しています。

 会社が自己株式を取得できる場合としては,いくつかありますが,本件のような場合に考えられるのは,「株主総会の特別決議による取得」であると思われます。

2 株主総会決議に基づく取得

 この場合の取得手続規制としては,以下のものがあります。

(1)株主総会の特別決議

 会社が特定の株主から自己株式を買い取る場合,株主総会の特別決議(当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した株主の議決権の3分の2以上にわたる多数をもって行う決議)が必要になります(会社法156条1項,160条1項,309条2項)。

この株主総会では,原則として,会社から株式を買い取ってもらう株主は議決権を行使できません(同法160条4項)。

そこで,他の株主の賛成が得られないと,会社に買い取ってもらうことは困難です。

(2)売主追加請求権

売主以外の他の株主は,会社に対し,自分も売主に加えることを請求することができます(同法160条2項,3項)。会社は,株式を買い取ろうとした相手の株主以外の株主からも株式を買い取らなくてはならなくなるので,前記の規定は,会社が特定の株主からのみ株式を買い取ろうとする場合,大きな障害になる可能性があります。

しかし,株式会社が株主の相続人から相続により取得した当該株式を取得する場合には,前記の売主追加請求権の規定は適用されません(同法162条)。もっとも、①株式会社が公開会社である場合、②当該相続人が株主総会等で当該株式を株式会社が自己取得することに関して議決権を行使している場合には,原則どおり,前記の規定の適用があります。

なお,公開会社とは,その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない会社をいいます。すなわち,譲渡制限株式(譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する株式)を発行している会社は,公開会社ではありませんから,他の株主の売主追加請求は認められず,会社はその相続人からのみ株式を買い取ることができます。

なお,株式会社は,会社法160条2項,3項の適用(他の株主の売主追加請求権)を,定款をもって排除することも可能です(同法164条1項)。もっとも,会社成立後に当該定款変更を行う場合には,株主全員の同意を要することになり(同法164条2項),会社が成立した後でこのような定款に改めることは困難な場合もあります。

3 財源規制

 会社が自己株式を有償取得する場合には,会社から金銭が流出することになり,会社の債権者が害されるおそれがあります。そこで,取得の際に株主に交付する金銭等は,分配可能額を超えることはできません(同法461条,157条1項,176条1項)。すなわち,自己株式を取得するためには,会社が取得のため資金を有している必要があります。

 最近では,このように会社が後継者(相続人)の相続した株式を一部買い取り,相続人の相続税納税資金準備を行うための生命保険も現れています。すなわち,社長を被保険者とし,会社を契約者かつ死亡保険金受取人として,生命保険契約を締結しておき,社長が死亡した場合には,会社に生命保険金が下り,会社はその保険金で相続人から自己株式を取得することができ,相続人は,その売却代金で相続税を支払うというわけです。また,役員を被保険者とする積み立て式の厚生保険は保険料を一部損金として計上することができる場合もあるため,節税対策の一つとして,このような保険に加入するのも検討に値するのではないかと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.01.15更新

私道の通行妨害に関する法律問題

 

<質問>

 ある土地を購入して、駐車場経営をしようと考えております。しかし、その土地は、公道には面しておらず、第三者が所有する建築基準法42条2項のみなし道路に指定されている私道にしか通じていません。そこで、この私道の所有者に「上記の土地を購入して駐車場を作りたい」旨の挨拶に行ったところ、「私道なので車の通行は許さない」と言われてしまいました。

私としては、私道であっても道路である以上、車の通行を許さないなどという理屈は通用しないと思います。現にその私道には近隣住宅の所有者の自動車が通行しております。

 上記の土地を購入して駐車場を作っても問題はないでしょうか。

<回答>

 結論から申し上げますと本件のような場合には、私道の所有者から通行権(通行地役権等)を設定してもらい、当該私道部分における駐車場の車の通行を認めてもらった上でなければ、購入は中止した方がよいと考えられます。

 といいますのは、私道の所有者等による私道の通行妨害があった場合に、そのような通行妨害を禁止するよう請求するための要件として、最判平成5年11月26日(判時1502号89頁)、最判平成9年12月18日(民集51巻10号4241頁)、最判平成12年1月27日(判時1703号131頁)は、①当該私道が建築基準法上の私道であること、②通路が現実に開設されていること、③通行が日常生活上不可欠であること、④私道所有者が通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情がないこと、という4つの要件を全て満たす必要があるとしています。

 上記要件の中で特に注意が必要なのが、③の「通行が日常生活上不可欠であること」という要件です。

本件のような場合には、駐車場を建設して、駐車場収入を得るといういわば「営利的な目的」による私道の通行ですので、このような場合には私道の通行が「日常生活上不可欠」とは言えないと判断されます。

前掲最判平成12年1月27日も上記のような理由で、私道に対する通行妨害の排除の請求を棄却しております。最高裁判決のいう「日常生活上の不可欠の利益」とは、私道だけに通じる土地に自宅を所有する者が生活のためにやむを得ず通行する利益のことですので、商業上の利益は含まれないことになります。

なお、自宅の駐車場に止めてある車を通行させることに関してはどうかという点ですが、例えば、高齢や障害のため車での外出が不可欠などの事情があれば、「日常生活上の不可欠の利益」と言えると思います。しかし、単に自宅に車の駐車場があると便利であるという理由だけで「日常生活上の不可欠の利益」があると言えるかについてはかなり微妙な問題があります。

 最高裁が上記③の要件を設けたことに関しては、私道上には構築物を設置することを禁止する行政上の規制違反を結果的に容認することになるなどの学説上の批判があるところですが、平成12年の最高裁判決ですので、上記③の要件は今後も当分の間は維持されると考えられます。

 したがって、私道の所有者の意向を無視して駐車場を建設しても、私道の所有者が私道上にポールを設置するなどして通行を妨害した場合には、そのような通行妨害の禁止を求めることはできないと考えられますので、私道所有者との間で通行権の設定に関する合意が成立しない場合には、土地の購入は中止しておいた方がよいと考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.01.07更新

借地権の相続の法律問題

 

<質問>

 父は、10年前から土地を借りて、借地上に店舗を建設し、洋品店を経営しておりました。しかし、昨年急逝したため、父の店は、相続人である私が引き継いで、経営を引き継ぐことになりました。そこで、地主に挨拶に行ったところ、借地契約の名義書換をしてくれなければ困ると言われ、名義書換料として地代の1年分を請求されました。

地主が言うように名義書換料の支払いに応じなければならないのでしょうか?
(1)の事例で、借地契約には「当該借地契約は借地人一代一限りで失効する」という特約が付されていました。

この場合、借地契約は上記特約により終了するのでしょうか?

<回答>

(1) 賃借権の相続と名義書換料支払いの必要性

借地人が死亡した場合、相続が開始し、借地権はその時から当然に相続人に移転します(民法882条・896条)。

この場合、賃借権だけでなく、これに付随する一切の賃貸借上の権利義務関係ないし地位が相続人に移りますから、地主と借地人との契約関係も法律上当然に相続人に承継されます。

 そして、借地権の相続によって、その権利の持ち主の名義に変更が生じますが、この名義の変更は、賃借権の第三者への譲渡等とは異なり、地主の承諾を得る必要がなく、法律上当然に生ずるものです。

したがって、賃借権の名義変更による承諾料としての名義書換料を支払う必要はありません。

実際上、本問のように地主から賃貸借契約の名義書換や更新の申出を受けることもあります。

名義書換をしておいた方が権利関係を明確にするという意味では望ましいことですが、従前の借地契約が法律上当然に承継されますので、多額の名義書換料を支払ってまでして名義書換をする必要性は余りないのではないかと思われます。

(2) 契約期間を「一代限り」とする特約の効力

 「賃借人が死亡したときには契約が終了し土地を明け渡す」旨のいわゆる賃借人一代限りの特約を結ぶ例もまれに見受けられます。この特約の法的性質は、不確定期限を付した合意解除契約といえます。

しかし、借地借家法(旧借地法)では、法の定める借地権の存続期間(借地借家法では30年)に反する特約は、無効とされています(借地借家法3条、9条)。賃借人一代限りとする特約は、借地契約後30年未満に賃借人が亡くなった場合にはその時点で賃貸借契約の期間が満了するという特約ですので、借地権の存続期間を最低でも30年とする借地借家法の規定に反することになります。

この点、裁判例(東京高判昭48・11・28/判時726・44)においても、賃借人一代限りとする特約は、借地法の定める存続期間に反する結果となり、借地人に不利なものとして無効である判示しています。

したがって、本件でもこのような特約は原則として無効と理解してよいと考えられます。

そして、この場合の存続期間は、期限の定めのない借地契約ということになるため、借地借家法3条の定める存続期間である30年と見なされることになります(最判昭44年11月26日/民集23・11・2221)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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