弁護士 秋山亘のコラム

2018.03.26更新

契約社員の人員整理と解雇権濫用法理の類推適用 


<質問>
 当社には,正社員45人,契約社員5人がいます。契約社員Aの契約期間は半年間で,これまでに5回の更新を経て,もうすぐ丸3年が経とうとしています。
 しかし,昨今の不況の影響もあり,わが社の経営状態は思わしくなく,このたび,経費削減の一環として人員整理を行うことにし,Aについては次回の更新をしないこととしました。これにつき何か問題はあるでしょうか。

<回答>
 契約社員など,一定の期間の定めのある労働契約(有期労働契約)が締結されている場合,その契約は,期間の満了とともに終了するのが原則です。したがって,正社員を解雇する場合と異なって,解雇予告など,何らかの手続を採らなければならないというわけではありません。
 しかし,有期労働契約の終了(いわゆる雇止め)については何の法的規制も及ばないというわけではありません。労働契約法16条は,正社員の解雇について規制していますが(いわゆる解雇権濫用法理),有期労働契約についても,一定の場合には同条が類推適用されると考えられています(最判昭49・7・22民集28・5・927,最判昭61・12・4労判486・6など)。
 解雇権濫用法理が類推適用される有期労働契約であるか否かについては,①職務内容の恒常性・臨時性,②勤務実態の正社員との同一性・近似性,③有期雇用労働者の基幹性・臨時性,④更新手続の態様・厳格さ,⑤雇用継続を期待させる使用者の言動・認識の有無,⑥ほかの労働者の更新状況,等を総合考慮して,有期雇用労働者の雇用継続に対する期待が法的保護に値するレベルに達しているか,という観点から判断されます。具体的事情によって大きく左右されますが,次の3つの類型のうち,どれに当てはまるかを第1次的な判断材料にすると良いと思います。
 第1は,「実質的に無期契約と同一」タイプです。これは,期間の定めが形骸化しており,実質的には期間の定めのない労働契約と異ならない状態であると認められる場合です。何度も更新をしている場合で,その更新手続が形骸化しているような場合が典型です。
 第2は,「有期雇用であるが解雇規制を類推する」タイプです。第1の類型と異なり,期間の定めや更新手続が明確なため,無期契約と同視することはできないけれども,前記①~⑥を考慮した結果,雇用継続の期待が高いと判断される場合です。雇止め規制の本来的対象となるような類型といえるでしょう。
 第3は,「当然終了」タイプです。期間雇用であって当然には契約が更新されるものではないことを労働者も十分認識しており,更新手続も厳格になされているという場合にはこの類型に該当するといえるでしょう。この類型に該当する場合には,解雇権濫用法理の類推適用はありません。
 Aさんについても,前記①~⑥の考慮要素次第では,第1または第2の類型に当たる可能性があります(更新手続の厳格さ,Aさんの担っている職務の重要性,更新を期待させるような言動が有ったか等がポイントになるでしょう)。その場合には,解雇権濫用法理が類推適用されますので,人員整理目的での雇止めについては,整理解雇の4要件を満たす必要があります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.19更新

マンション管理費の回収方法

 

(質問)私は現在マンションの管理組合の理事長をしております。現在管理費を長期間滞納者がいて困っています。何か有効な方法はありませんか。また、管理組合は管理会社に管理を委託していますが、管理会社は回収する責任がないのでしょうか。
(回答)多くのマンションで長期滞納者を抱えており、困っています。通常は、裁判をして、判決に基づき差押えをして回収します。
 長期滞納者がマンション以外に財産を有していることが分かっている場合は、裁判をし、判決に基づいてその財産を差押えをすることになります。その区分所有者が他の第三者にマンションを貸している場合は、その家賃を差し押さえることができあます。取引銀行が分かっていれば預金を押さえたり、また、給与所得者の場合は一定額の給料を差し押さえることもできます。
 ところで、「建物の区分所有等に関する法律」では、管理費や修繕積立金債権については当該区分所有建物やそこに備え付けた動産については、先取(さきどり)特権(とっけん)という担保権があると規定しています。裁判をやらなくても、直接管理費や修繕積立金があることを示す文書(管理規約等)を提出すれば競売ができます。しかし、区分所有建物の競売の申立てをするには、予納金等が80万円以上かかり(後日返ってきます)、余り利用されていないようです。
 また、「建物の区分所有等に関する法律」では管理費等を支払わずにそのマンションを売却した場合には、買い主に滞納管理費を払うよう請求ができると定められています。競売で競落した人に対しても請求できます。管理費を長に滞納している人は視力がないことが多く、住宅ローンを抱えていれば、そのうちマンションが競売になることがあります。これを待って、新所有者に支払ってもらうのも一つの方法です。
 ところで、管理費の消滅時効は5年です。時効にかかってしまった分は、新所有者が時効の援用をすれば請求ができなくなります。時効が近い場合は、本人から管理費等を滞納していることを認める念書を取るか、裁判をしておくことが必要になります。
 管理会社が回収という結果まで責任を負うかということですが、そこまでは責任がありません。通常の取立業務については責任がありますが、任意に支払わない場合は、管理会社としてもやりようがありません。管理会社は、滞納があることを管理組合に通知すれば、その任務を終えます。後は管理組合が裁判などをして回収することになります。管理会社は裁判の原告となることもできませんし、管理組合の代理人となることもできません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.12更新

不動産広告に関する法的規制

 

<質問>

 当社は、自社ホームページ上で不動産の広告も行っておりますが、不動産広告に関しては、景品表示法に基づき、「公正競争規約」によって様々な規制がなされていると聞いております。

公正競争規約ではどのような規制があるのでしょうか?

<回答>

1 景品表示法の規制

 不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)第4条第1項は、次の三つの表示を不当表示として禁止しております。

(1) 商品の内容に関する不当表示

「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

(2) 取引条件に関する不当表示

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」

(3) 「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務に関する事項について、一般消費者に誤認されるおそれのある表示であって、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの」

(第3号)

2 公正競争規約による規制

前記の景品表示法による不当表示の規制に関しては、景品表示法に基づき、公正取引委員会の認定を受けて、不当な顧客の誘引を防止し、公正な競争を確保するために、事業者団体間において自主的に締結される「公正競争規約」(表示規約)が設けられております。

この表示規約において不動産広告に関する詳細な規制内容が定められております。

この表示規約に関しては、「不動産公正取引協議連合会」(03-3261-3811)が規約の制定・改定や規約の全国統一的な解釈を示す役割を担っており、表示規約・景品規約違反に対する調査・是正措置・違約金の賦課徴収に関しては、各地域の不動産公正取引協議会(首都圏については「社団法人首都圏不動産公正取引協議会」(03-3261-3811、http://www.sfkoutori.or.jp/)がその役割を担っています。

不動産公正取引協議会の加盟事業者が表示規約・景品規約に違反する場合、原則として景品表示法にも違反することとなりますが、業界の自主的努力を尊重ないし活用するという表示規約の制度趣旨が考慮され、特に悪質な違反行為を除き、原則として、直ちに景品表示法上の排除命令等の措置が講じられることはなく、一義的には公正競争規約・景品規約による改善・是正措置・違約金の賦課徴収に委ねられることになっています。

表示規約は、規約の加盟事業者に対してのみ規約の効力が及ぶことになっておりますが、宅建業者の場合、それぞれが所属する宅建業協会が規約に参加している場合、当該宅建業協会に加盟している宅建業者であれば規約の効力が及ぶ加盟事業者となるため、事実上、ほとんどの宅建業者に規約の効力が及ぶことになります。なお、宅建業協会などの業界団体に加盟していない不動産業者については、景品表示法が直接適用されますが、この解釈・運用に際しては表示規約が斟酌されますので、これらの業者に対しても、事実上、表示規約の適用があると言うことができます。

3 表示規約違反の具体例

  以下では、よくある表示規約違反のケースを3つほど紹介します。ただし、表示規約での規制内容はこれに限られませんので、詳しくは、上記の不動産公正取引協議連合会が発行している「不動産広告ハンドブック」などを参考にして頂きたいと思います。

<ケース1>

Q 当社は、宅地建物取引業と建設業を営んでいます。この度、土地(更地:価格4,000万円)の売却の媒介の依頼を受けました。できれば、購入者から住宅の建築の注文も受けたいと考えていますので、当社の標準仕様で建築した場合を前提として、次のような新築住宅の広告をしたいと思っています。表示規約上何か問題はあるでしょうか。なお、建物の建築確認は受けていません。

新築6,000万円(税込)

●交通/○○線○○駅歩10分

●敷地/○○㎡(正味)

●建物/110㎡・4LDK

●所在/○○市○○○丁目

A 規約違反になる。

この広告は、建物の建築工事完了前の建物(土地付き)について、当該建物の建築に際し必要とされる建築確認を受ける前に、その売買に関して広告表示をしたものと認められます。したがって、表示規約第5条(広告表示の開始時期の制限)に違反するものです。純粋な土地だけに関する表示事項(「売地○○円」など)を明示した上で、建設予定の建物価格の目安(「1㎡あたり○○円で建築請け負います」など)を示すことは可能です。

<ケース2>

Q ①建売住宅を、平成20年6月1日に、6000万円で売り出しましたが、買い手がつかず平成20年8月1日に5,500万円に値下げしました。

 この場合、広告に際し、次のように表示してもよいでしょうか。

「価格6,000万円(旧価格公表時期/平成20年6月1日)→5,500万円(平成20年8月1日値下げ)」

②建売住宅を、平成20年6月1日に、6000万円で売り出しましたが、買い手がつかず平成21年1月1日に5,500万円に値下げしました。

 この場合、広告に際し、次のように表示してもよいでしょうか。

「価格6,000万円(旧価格公表時期/平成20年6月1日)→5,500万円(平成21年1月1日値下げ)」

A ①規約違反になる

 二重価格表示は規約第20条により原則禁止されていますが、規則第14条の要件を満たす場合に限り許されています。

規則第14条は、値下げの場合に二重価格をしてもよい「旧価格」について「値下げの3ヶ月以上前に公表された価格であって、かつ、値下げ前3ヶ月以上にわたり実際に販売していた価格」(規則第14条本文)であることを要件としています。

A ②規約違反になる

 規則第14条は「(2)値下げの時期から6ヶ月以内に表示するものであること」を要件としています。

<ケース3>

Q  取引しようとする土地に法的規制(例えば、市街化調整区域に該当する)がかかっている場合には、どのように記載しなければならないのでしょうか?

A 取引物件に関する不利益条件に関しては、表示規約第13条において「見やすい場所に、見やすい大きさ、見やすい色彩の文字により、分かりやすい表現で明りょうに表示」するよう義務付けられております。

市街化調整区域に所在する土地については、都市計画法第29条、第43条によって開発行為や建物の建築が原則として禁止されておりますので、このような土地については「市街化調整区域。宅地の造成及び建物の建築はできません。」と16ポイント(5.6mm四方の大きさ)以上の文字で明示しなければなりません。「市街化調整区域」との表示だけでは、宅地建物取引の知識がない消費者が具体的にどのような不利益を受けるのかが明示したことにはならないため、「宅地の造成及び建物の建築はできません。」まで明示する必要があります。

4 そして、表示規約違反の広告について、不動産業者が不動産公正取引協議会の是正勧告を無視し是正しないでいると、最高で500万円の違約金が課される可能性がありますので、注意が必要です。

  具体的には、以下の順に不利益処分を受けることになります。

事業者が規約違反のための不動産公正取引協議会の調査に協力しない場合にはおいて、警告を発しても調査に協力しない場合→50万円以下の違約金
表示規約第5条、第8条~第23条に規定に違反した場合→違反行為を排除するために必要な措置(EX:看板・チラシの撤去・回収、訂正広告など)、再び行ってはならないことの警告又は50万円以下の違約金
事業者が不動産公正取引協議会による上記②排除措置を履行しない場合(看板の撤去等に応じない、再度表示規約違反に該当する表示行為をした場合)→500万円以下の違約金

また、不動産公正取引協議会による上記のような是正措置を無視して、違法な広告を続けていると、今度は、公正取引委員会による「排除命令」などの摘発の対象にもなります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2018.03.05更新

高齢者の財産管理をする方法~成年後見制度

<質問>
私は父と長年同居をして介護をしてきたのですが、最近父の痴呆が激しくなってきまして、同居して介護するのにも限界を感じてきました。そこで、父が持っている不動産を売却し、その代金で介護設備や療養設備が充実した老人ホームに入居してもらおうと考えておりますが、父は身のまわりの状況が全く判断できない状態です。なお、兄は、父の不動産の売却と数百万かかるという老人ホームへの入居に反対しております。
 私だけで父の不動産を処分したり、そのお金で老人ホームの入居契約を締結することは問題ないのでしょうか。


<回答>
1 民法上、法律行為(不動産の売買契約を締結したり、介護契約を締結すること)をするには「意思能力」が必要とされています。「意思能力」とは、自己の意思に基づいて判断し、行動する能力のことです。そして、「意思能力」が欠ける法律行為は、無効になります。
 本件では、お父様ご自身には意思能力がない状況と思われますので、お父様ご自身では法律上も不動産の売買契約はできないものと思われます。また、意思能力がない場合には、委任契約もできませんので、他人が本人から依頼されて法律行為を代理することもできません。
そうすると、後日、将来相続が生じた際に反対されていたお兄様との関係で、上記不動産の売買契約等の有効性について紛争になるおそれがあります。
2 後見制度とは
従いまして、本件では、家庭裁判所にお父様の後見人開始の審判の申立をし、後見人が選任された後、後見人を通じて、上記のような不動産売買契約等を行うべきだと思われます。
「後見開始」の審判は、「精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者」に対してできます。また、本人の判断能力の低下の程度に応じて、後見に至らなくても、「事理を弁識する能力が著しく低下している者」に対しては「保佐」の制度、「事理を弁識する能力が不十分な者」に対しては「補助」の制度が適用されます。
なお、後見開始の審判をするには、本人の判断能力の低下を調査する為に医師の鑑定を経なければなりませんが、その鑑定料も、従来は30万円程度かかりましたが、近時は書式を定型化するなど工夫をすることで10万円程度に抑えられております。
また、申立をしてから後見人選任までの期間ですが、事案によって異なるものの、約3ヶ月程度かかるケースが多いです。
このようにして、後見開始がなされ後見人が選任されると、後見人は、裁判所及び後見監督人の監督の下、本人の利益の為に財産管理行為と身上看護行為をします。 
財産管理行為とは、例えば、高額の預金を引き出して本人の生活費に使う、不動産を売却して本人の生活費に充てる、不動産を賃貸に出して利益を挙げるなどして、本人所有の財産を管理することです。
身上看護行為とは、後見人自らは実際に本人を介護する義務を負うものではないので(後見人が実際に介護をしてもかまわないのですが)、通常は、介護サービス契約の締結や病院・老人ホームへの入院契約の締結をして、介護士や医師といったその道の専門家を通じて本人の身上看護をすることです。
後見人には、通常は信頼のできる親族や弁護士、司法書士、税理士などが選任されます。今回の法改正で複数の後見人の選任も認められるようになりましたので、不動産取引等の財産管理は弁護士等に、身上看護はご子息等に、それぞれ後見人の任務を振り分けて後見人を選任してもらうことも可能になりました。
また、申立人の方で後見人に適した人物を見つけることができない場合には、家庭裁判所の方で信頼のできる弁護士等の専門家を紹介してもらえる場合もあります。
なお、後見が開始されると、本人が一人で行った法律行為は、原則として当然に取り消せますので、万一、本人が、判断能力の低下から騙されて本人に不利な契約をしてしまっても、後見人によってその契約を取り消すことができます。
3 新しい成年後見制度について
 なお、近時新設された成年後見制度は、従来の禁治産制度を下記の点で改正し、より利用しやすい制度に改善されております。
① 名称が「禁治産」から「成年後見」へ変更した。
② 成年後見の開始の審判は、戸籍には表示されず、成年後見登記簿へ表示されるようになった。
③ 成年後見人は1人ではなく、複数人を選任できるようになった。また、配偶者でなくても後見人に選任できるようになった。
④ 本人が行う日常品の購入などについては、本人の自己決定権の尊重の見地から、当然の取り消し権の対象にはしないことにした。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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