弁護士 秋山亘のコラム

2019.12.23更新

不法投棄と土地の明け渡しの法律相談

 

 

<事例>

  当社は、ある解体業者A社に資材置場として土地を賃貸していたのですが、 地代を長期間滞納されていたため、契約を解除しました。

ところが、その解体業者は、その土地一杯に、わけのわからない家電製品や建築廃材・土砂などを3メートル以上堆く積み上げており、土地の明け渡しには一向に応じてくれません。

当社は、やむを得ず、土地の明け渡しの裁判を起こすことになり、弁護士にゴミの撤去を含めた明け渡し費用について相談しましたが、土地が広いだけにまともに明け渡しの強制執行をやるとなると土地明け渡しの執行費用だけで600万円以上かかると言われました。

解体業者による地代の滞納は、契約解除後の遅延損害金も含めると300万円以上になります。しかし、解体業者は、他に借金も抱えているようで回収可能な資産は何もなさそうです。

明け渡しの強制執行には、ある程度の費用がかかるのは分かるのですが、できるだけ早く、費用を押さえて、明け渡してもらえる方法は何かないのでしょうか。

<回答>

 土地や建物の明け渡しの強制執行は執行費用がかかります。建物の明け渡しの場合でも、荷物が多い一軒家などの場合には、執行官が一日のうちに荷物を全て持ち出して明け渡しを完了させるため、人夫の手配や差押え禁止動産類の保管料などで100万円以上の執行費用がかかる場合もあります。

 本件のようなゴミが堆積されている土地の明け渡しの場合には、まともに強制執行をすると、数百万円レベルの費用を覚悟しなければなりません。

 しかし、強制執行以外の方法が取れれば、その費用がだいぶ押さえられる場合もあります。

1 廃棄物処理法違反による刑事告発の警告による任意撤去・任意明け渡しの 申し入れ

 廃棄物処理法第16条では、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定されており、同法第25条8号では、第16条違反の罪に対し「5年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処する」と定めるなど厳しい罰則が設けられております。

 近時は、同法違反の罪によって逮捕され厳しく処罰されていることは広く報道されているところです。

 そこで、このような悪質な業者には、土地への前記のような不法投棄(長期間の放置行為)が廃棄物処理法違反の犯罪行為にあたることと刑事告発の用意があることを告げて、任意の撤去・明け渡しを促すのが効果的と言えます。

 差し押さえるものが何もない債務者にとって、単にお金の問題だけであれば、強制執行をすると警告してもあまり効果がない場合も多く、明け渡しの強制執行を実施されるまでは解体業を続けようと居直る者もいるでしょうが、懲役刑も含む刑事問題となれば話はまた別だと考えるでしょう。

 なお、廃棄物処理法第16条は、たとえ、ゴミを捨てたのが自分の土地であっても、廃棄物の放置期間、廃棄物の質・量、廃棄の態様、周辺への居住環境への悪影響などを総合考慮して「廃棄物」を「みだりに捨てた」と言える場合には適用されます。

 本件でも、ゴミとしか言えない建築廃材や土砂を長期間他人の借地上に堆く放置しており、A社においては、これを適法に処理する意思も能力もないと思われますので、廃棄物処理法第16条違反に該当する可能性は極めて高いと言えます。

2 破産申立をし破産管財人の協力による任意撤去・任意処分

次に、このような警告にも関わらず、相手方が、任意の撤去・任意の明け渡しに応じない場合には、債権者として破産申立をする方法が考えられます。

破産申立は、債務の支払能力又は意思がない債務者に対しその制裁として、債権者側からも申立ができます。

破産開始決定がおりると破産管財人が選任されA社の資産の管理・処分権限は全て破産管財人に移ります。

破産管財人は、A社の預貯金など資産価値のあるものを集めて破産財団を形成します。破産管財人は、この破産財団から費用を出してでも可能な限り会社の所有物を全て廃棄処分しなかればなりません。したがって、ゴミの任意の撤去・土地の明け渡しにも応じてくれます。

債権者側から破産申立をするには、債権額にもよりますが、70万円~300万円程度の破産予納金を納める必要があります。しかし、この破産予納金を考慮しても、土地の明け渡しの強制執行によって、短期間のうちに大がかりな撤去作業をしなければならないよりは、だいぶ費用面では抑えられるはずです。

なお、破産管財人による調査の結果、A社には預金がほとんどなく破産財団としては何もお金がない場合もよくあるところです。

この場合、破産管財人としては、任意の土地明け渡しはできても、ゴミの撤去費用までは破産財団から拠出することはできません。

しかし、それでも任意に土地を明け渡してもらえる分、強制執行によって撤去するよりは安くすむものと思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.16更新

売買契約の成立時期

 

 

(質問)

① 不動産売買に際して、話がまとまり買付証明書と売渡承諾書を交わしました。しかし、突然買主から「契約書調印はできなくなった。契約は白紙撤回する。」と言われてしましました。このような場合、当時者間の基本的合意はできているわけですから、契約成立を主張して買主に代金の請求ができないのでしょうか。

② ①の場合、逆に売主から、突然、他に売りたいので契約調印はできなくなったといわれ売買契約の締結を拒否されてしましました。私は、契約調印日を直前に控え売買代金も調達し、また、購入物件で歯科医開業をしようとしていたので開業準備のための機材を購入したりしておりました。このことは、売主にもだいぶ前から話しております。この場合、何とか損害賠償を請求できないでしょうか。

 

(回答)

① 契約の履行請求の可否について

(1) 日本の民法では、契約書を交わすことを契約成立の要件とはしていません。従って、裁判での立証の話は措くとして、単なる口約束でも契約は成立しているのが原則です。売買の場合、売り主の「○○円で○○を売ります」という意思表示と、「買います」という意思表示が為されていれば売買契約は成立したことになります。

 この原則に従えば、①のような場合にも、契約は成立しているように思えます。   

(2) しかし、不動産のような高額の物件を売買する場合には、裁判例は契約の成立を認定するには厳格な態度を示しており、買付証明書と売渡承諾書を取り交わした段階では、契約の成立を認めておりません。

 不動産取引の慣行を重視して、契約書を締結する時までは契約成立に向けた「確定的な意思は有していなかった」ことを理由としたものです。

(3) このような裁判例に照らせば、①の事例でも、「契約の成立」は認められていないわけですから、契約の履行請求、すなわち、代金の請求まではできないことになります。

②損害賠償請求の可否

   では、契約の履行請求はできないとして、②のような場合、不誠実な相手 方に対して損害賠償請求をできないのでしょうか。

このような場合、損害賠償の請求はできるものと思われます。

裁判例は、契約締結に至らなくとも、契約交渉に入った段階や交渉が進んで基本的な合意に至った段階には、その契約交渉の成熟度に応じて、契約の相手方には、信義則上の配慮義務、説明義務、誠実交渉義務などが生ずるとしています。

配慮義務とは、相手方の人格・財産に損害が生じないよう配慮する義務、説明義務とは、契約締結に関して相手方に不都合な事由がある場合にはこれを積極的に開示し説明する義務、誠実交渉義務とは、従前の交渉経緯を踏まえて契約の成立に努めるべき義務のことです。

これらの義務に反した場合、不法行為による損害賠償の請求ができます。

本件では、売り主が資金調達や開業準備を進めていることを知っていながら、突然、売主に対し売却を拒絶したわけですから、誠実交渉義務や配慮義務に反しているといえます。

従って、買主は、売主に対し、調達資金の利息分や開業準備費の一部について損害賠償の請求ができます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.09更新

農地転用許可申請協力請求権の消滅時効

 

 

<事例>

(1)A氏は、知人B氏から畑地を買い、代金全額を支払い、土地の引き渡しも受けました。購入後は、畑地に家を建てる予定で、必要書類が整い次第、転用許可申請を行う予定でしたが、知人B氏が許可申請に協力してくれないため、申請を行えないまま、9年が経とうとしています。

 このまま、知人B氏が申請に協力してくれない場合は、どのようになってしまうのでしょうか。

 (2) 知人B氏が申請に協力してくれないまま、10年が経過してしまった場合には、どうなるのでしょうか。

<回答>

1 (1)について

 農地を売買して宅地に転用するには、農地法第5条により、売主・買主の双方が農業委員会に対し申請をし、転用目的で売買することの許可を得なければならない。

 転用の許可を得ずになされた売買は、たとえ代金の授受が為されていても法的には所有権移転の効果は生じないとされている。また、刑事罰の対象にもなるので注意が必要である。

 もっとも、売買契約が締結され、代金の完済が為されている以上、売主は、法的にも許可申請に協力する義務を負っている。

 この許可申請協力義務が消滅時効にかかるかどうかについて、かつては、争いがあったが、最高裁昭和50年4月11日(判時778号61頁)は、肯定説に立つことを明らかにしている。

 従って、このままB氏との連絡が付かないまま、10年が経過すると、将来、B氏から許可申請協力請求権は10年の民事消滅時効にかかっているとの主張をされる可能性がある(なお、当事者の一方が会社である場合には商事時効として時効期間は5年となる)。

 従って、A氏としては、10年が経過する前に、B氏に対し、許可申請への協力を求めて訴訟を提起する必要がある。この訴訟で請求認容の勝訴判決が確定すれば、単独でも許可申請を行うことができる。

2 (2)について

 (2)の場合には、10年が経過しているため、許可申請協力請求を求めて、B氏に対する訴訟を提起しても、B氏からは消滅時効の主張をされる可能性が出てくる。

 もっとも、下級審の裁判例の中には、このような売主側の主張を認めるのは不合理だとして、信義則違反や権利の濫用を理由に売主側の時効の主張を排斥するものもある(東京高判昭和60年3月19日・判タ556号139頁、東京高判平成3年7月11日判時1401号61頁等)。

 裁判例は、その理由として、代金が全額支払われていること、買主側に特に権利の行使を怠ったような事情がないことなどを挙げているが、裁判所が権利濫用や信義則違反の主張を認めるのは、結論が著しく不当な場合などに例外的に認める救済措置に過ぎないことから、時効期間が経過する前に是非とも訴訟を提起しておくべきであろう。

 なお、売主側の時効主張が認められた場合には、その時点で、法定条件の不成就が確定する為、売買契約は無効となる。したがって、買主は、売主に対し、売買代金の返還請求をすることになる(なお、この売買代金の返還請求権は、売主が許可申請協力請求に対し消滅時効の援用をしたときから10年で時効消滅する)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2019.12.02更新

任意売却のメリット・被相続人が死亡した場合の任意売却の方法

 

 

(質問)

 ある不動産を所有している債務者が死亡したのですが、その相続人は全員相続放棄をしたため、相続人が誰もいなくなってしまいました。

 その不動産には多額の抵当権が設定されていて、亡くなられた債務者の方とは任意売却の交渉をしていたところでした。

 1 このような場合、死亡された債務者の不動産については、どのように処  分したらよいのでしょうか。

 2 また、任意売却は競売とどのように違うのでしょうか。任意売却のメリ  ットを教えてください。

(回答)

1 質問1に対して

  近年多額の債務を負ったまま亡くなられる方のケースが増えています。  そして、このようなケースでは、相続財産よりも負債の方が大きい為、相続人も相続放棄をしてしまうケースが多くなっております。

(1) このようなケースでは、まず確認のため相続人から家庭裁判所の相続放棄申述の受理証明書の交付を求めて下さい。相続人が相続放棄をしたといっても、被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしないと、相続人は被相続人の財産を相続したものとみなされます。

  相続人が上記期間内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をしていなかった場合は、相続財産や負債は上記申述をしていない相続人が相続しものとみなされますので、この相続人と任意売却の交渉をすることになります。

(2) 相続人全員が相続放棄の申述をしていた場合、任意売却を進める手だてとしては、被相続人の住所地の家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申立し、家庭裁判所から選任された相続財産管理人と任意売却の交渉をすることになります。

 なお、相続財産管理人の選任を申立てることができるのは、「利害関係人」に限られますが、被相続人の債権者(抵当権者)はこれに該当します。

(3) 以上が任意売却をする場合ですが、債務者(被相続人)が死亡した後に当該不動産を競売する場合も同様です。相続財産管理人を相手に競売を申し立てます。

  

2 質問2に対して

(1)抵当権者が不動産を売却して債権を回収する手段としては、競売と任意売却の2種類があります。

任意売却は、債務者(不動産の所有者)、抵当権者(後順位抵当権者を含む)の同意を得て不動産を売却し、売却代金を債権の弁済にあてるというものです。

  後順位抵当権者には、通常判子代といって登記抹消同意料を支払って抵当権設定登記を抹消してもらいます。判子代は通常10万から100万で、この判子代をめぐって後順位担保権者と交渉をします。 

 この他に、債務者が税金の滞納をしており差押え登記がされている場合は、税務署や市役所の納税課等との間で差押えを取り下げてもらう代わりにいくら弁済するのかをめぐって交渉が必要になります。

(2)任意売却のメリット

(ア)任意売却は、債権者(抵当権者)にとっては以下のメリットがあります。

① 競売より高く売れること

競売の場合、時価の7割程度の金額が最低売却価格となります。

そして、競売の場合、競落人(買主)は建物の中を見れないので、一般に時価よりも低い価格(最低売却価格+α)でしか競落されません。

② 短期間で売却し債権回収ができること

任意売却の場合、関係者の合意が得られれば、その時点で売却で債権の回収ができます。

しかし、競売の場合には、手続き終了まで早くて1年から2年もかかってしまいます。

(イ)他方、不動産購入者にとっても以下のメリットがあります。

① 希望物件を確実に取得できること

競売の場合、第三者に落札される危険もあります。また、建物の中を見れないので、建物の傷み具合などは分からないまま落札しなければなりません。

② ローンが組みやすいこと

競売の場合、金融機関によってはローンが組めない場合があります。

任意売却の場合は、この点でも安心です。

③ 建物から債務者が任意に退去することを期待できること

競売の場合、債務者が建物から任意に退去しない場合があります。

このような場合、手続きが長期化することはもちろん、競落後、購入者は、決して安くない費用をかけて債務者を強制的に退去させる手続きをしなくてはなりません。

任意売却の場合、債務者(所有者)も不動産の売却に納得済みですから、任意に退去することが期待できます。また。これを条件に売買契約を結ぶことも可能です。

(3)任意売却のデメリット

以上のようにメリットは大きい任意売却ですが、債務者や後順位抵当権者、差押えをした租税機関等の同意が得られることが必要条件ですので、後順位抵当権者や国税等が頑強に任意売却に同意しない場合には、競売に移らざるを得ません。競売になれば一銭も得られないはずの後順位抵当権者や国税等ですが、この点を強調しても、任意売却にそう簡単には応じてくれません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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