弁護士 秋山亘のコラム

2017.08.28更新

賃借物件の所有者が変更した場合の賃借人の権利


(質問)私が借りている賃借物件が売却され所有者が変わってしまいました。私は、このままこの物件に住めるのでしょうか。また、敷金は誰に請求したらいいのでしょうか。

(答え)
1 売買による所有者の変更の場合
 売買により所有者が変更する場合にも、賃借権を新所有者へ対抗できる場合には、賃借人はその建物にそのまま住み続けることができます。
 賃借権を新所有者へ対抗できる場合とは、賃借権の登記をしている場合だけでなく、建物の賃貸借契約の場合には、現に建物に居住していることも含みますので、通常の場合は新所有者に対抗できます。建物所有目的で土地を借りている場合にも、判例上、借地上の建物を自分名義で登記していれば、新所有者に対抗できるとしています。
 このような場合、敷金返還義務も当然に新所有者に引き継がれるので、新所有者にも請求できます。
 但し、旧所有者のもとで家賃を滞納していた場合には、滞納家賃が敷金と精算(相殺)されてしまうので、敷金から滞納家賃分を差し引いた残額のみ新所有者に引き継がれます。また、敷金額が家賃と比して著しく高額な場合は、その名目如何にかかわらず賃貸借契約時に差入れた金銭は「敷金」ではなく「保証金」と見なされるので、この場合も新所有者には引き継がれません。
2 競売による所有者の変更の場合 競売により所有者が変更した場合には、たとえ建物を借りて居住していたり、借地上の建物の登記をしていても、賃貸借契約の締結前に、抵当権の設定登記がなされており、その抵当権の実行によって競売された場合には、賃借人は、新しい所有者に賃借権を対抗することはできません。したがって、敷金の引き継ぎもありません。
 競売による所有権の変更が為された場合、賃料を新しい所有者に支払うことで、6ヶ月間は当該建物に住み続けることができますが、新しい所有者と新たに賃貸借契約を結ばない限り、6ヶ月後に退去しなければなりません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.08.21更新

表現の自由の憲法上の意義

 

<質問>
 新聞やテレビなどで「報道の自由」「表現の自由」「知る権利」の重要性についてしばしば論じられています。
なぜこれらの権利は重要とされているのでしょうか。


<回答>
今回は、憲法における「表現の自由」について少し考えてみたいと思います。
 憲法21条1項は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と規定し、同条2項は「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と規定しております。
 そして、憲法上、上記の表現の自由は、他の人権に比べて特に重要な「優越的価値」があるとされています。
 それはなぜかと言いますと、表現の自由は、国民主権、つまり、民主主義の政治を実現する上で不可欠な権利だからです。民主主義とは、国民の間での自由な闊達な議論や自由な情報の流通なくしては実現されません。
例えば、時の政府や権力が自分に都合の悪い情報の流通を阻止するために有形無形の形を取って表現の自由を脅かしたとします。その結果として政府に都合のよい情報しか流通せず、都合の悪い情報が隠された状態では、選挙の時にどの政治家が良い政治家なのかの正しい判断をすることはできません。選挙の時だけでなく、政府の政治的判断に影響を与える「世論」の形成にも、表現の自由の保障は不可欠です。
 そのため、表現の自由は、憲法のどの人権や統治機構上の要請よりも重要な「優越的な価値」が認められているのです。
 そして、この表現の自由から導かれるもう一つの重要な人権として「知る権利」があります。
憲法上は「知る権利」についての明文の規定はありません。しかし、いくら表現の自由、つまり、情報発信の自由が保障されていても、政府にとって都合の悪い情報が隠されていては、健全な選挙は実現できませんし、国民の間での自由闊達な議論も行われません。そのため、表現の自由の保障の前提となる権利として、「知る権利」も憲法21条1項によって保障されていると解釈されています。
このように「知る権利」も「表現の自由」と並んで健全な民主主義を実現するために不可欠な前提となる重要な権利とされております。
近時、原発再稼働問題や消費税増税問題等において国民を割った議論が行われようとしております。
日本の未来を左右するこれらの重要な問題において「国民の正しい判断」がなされるためには「表現の自由」と「知る権利」という二つの権利は、いま十分に保障される必要があると言えます。
一部の者だけに隠された情報がなく、また、市民の声の発信が妨げられることがないよう、上記二つの重要な人権の意義について、今一度考えていただければと思います。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.08.14更新

宅建業者の報酬請求権

 

1 質問

(1)不動産の仲介を依頼した依頼者が、宅建業者が紹介した者と直接契約をした場合に、宅建業者は依頼者に対して報酬請求できるのでしょうか。できるとしていかなる根拠に基づいてできるのでしょうか。

(2)また、依頼者が自ら若しくは他の宅建業者を通じて契約を結んでしまった場合に、依頼を受けた宅建業者が自己の仲介行為に対して報酬を請求できる場合はあるのでしょうか。

2 (1)宅建業者が紹介した者と依頼者が直接取引した場合

 不動産業者と依頼者が行う媒介契約は、

 ①不動産業者の仲介に因り、

 ②その紹介した者と依頼者が契約を締結したこと、

 を条件に報酬請求権が発生するもので、民法上の停止条件付きの報酬支払契約に該当します。

 従って、依頼者が手数料の支払いを免れるために不動産業者との媒介契約を解約し、その後直接取引をした場合には、故意に条件成就を妨げたことになりますので、民法130条により、条件が成就したとみなして報酬請求ができます。

 但し、業者の交渉が全くの失敗に終わっていたが、その後依頼者が直接交渉をしたことに因って直接契約がうまくいったという場合には、不動産業者の仲介と契約締結との間に因果関係が欠けるとして、報酬請求権が発生しない場合もあるでしょう。上記因果関係が欠けるか否かは、不動産業者が行っていた交渉の内容と依頼者が直接取引をした契約内容を比較して、両者に契約の本質的内容に大差がないかどうかを中心に、その他不動産業者が行った契約交渉の期間、依頼者が当該不動産業者を廃除した経緯、理由等を加味して判断することになります。

なお、不動産業者が依頼者と媒介契約を締結したが(宅建業法34条の2で書面化が必要)、不動産業者の報酬請求権について、明確な取り決めが為されない場合があります。

 このような場合にも、商法512条を根拠に報酬請求権は発生しますが、この場合に報酬を訴訟で請求する場合には、必ずしも宅建業者の報酬の上限金額(400万円超が3%等)がそのまま認められるわけではありません。これを上限として不動産業者の貢献度に応じた客観的相当額を裁判所が認定することになりますから、宅建業者の貢献度によっては思った以上に低い金額になる場合もあります。

3 (2)依頼者が自ら若しくは他の宅建業者を通じて契約締結をした場合

不動産媒介契約には、①依頼者が他の業者にも媒介を重ねて依頼できる一般媒介契約、②他の業者には媒介依頼を禁ずる専任媒介契約、③専任媒介契約には、更に依頼者が自分で取引相手を見つけて取引することを許さない特約を設けた専属専任媒介契約の3種類の契約があります。このうち②③の形態は、依頼者に対して厳格な説明義務があり、これを怠ると契約自体が無効になる可能性があります。

  さて、質問の件ですが、②の専任媒介契約を締結した場合には、依頼者は他の業者へ依頼することはできず、他の業者が紹介した者と契約締結をしても、依頼者は専任媒介契約をした不動産業者に対して媒介契約上の報酬を別途支払わなければなりません。ただし、不動産業者が行っていた媒介行為の程度によっては報酬金額は減額される場合もあります。

  また、③の専属専任媒介契約をした場合にも、自らが見つけた者とも契約締結できず、その者と契約締結しても媒介契約上の報酬を別途支払わなければなりません。

  これらに対して①の一般媒介の場合は、依頼者が買主を自ら見つけて契約締結をすることは禁止されません。

もっとも、不動産業者の努力によって売買契約成立の一歩手前まで来ていたのに、売り主が第三者と直接取引してしまったという場合に、売主の行為は信義則に反するとして、前記の民法130条ないし民法648条3項に基づき報酬請求権の一部を支払うべきとした裁判例もあります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.08.07更新

増改築許可の裁判

 

(質問)

 現在借地上に木造住宅を建てて住んでおりますが、近時の耐震問題等で不安なので既存建物と同じ木造住宅として全面改築をしたいと思います。

 賃貸借契約書では、増改築は地主の承諾を要すると記載されておりますが、地主は、建物の改築に承諾してくれません。

 この場合、どのような手続きを取ったらよいのでしょうか。

(回答)

1 借地借家法の増改築許可の裁判

  建物の増改築については、契約書上、建物の増改築禁止特約を結んでいる場合が通常です。

 従って、まずは地主の承諾を取り付ける努力をしてみるべきでしょう。それでも、承諾に応じない場合には、裁判所へ増改築の許可の裁判を求めることになります(借地借家法17条2項)。

  増改築許可の裁判の要件ですが、「土の通常の利用上相当であること」が要件となっています。

例えば、増改築によって建築基準法違反になる場合、近隣の日照権侵害が生ずる場合、土地を地中深く掘り下げる工事をする等土地の造成そのものに大規模な変化を加えてしまう場合には、「土の通常の利用上相当である」とは言えませんので、許可の裁判はおりません。また、近々借地権の存続期間が満了し(2年が一つの目安です)かつ更新拒絶の正当事由が認められる蓋然性が高い場合も許可の裁判は原則でません。

  しかし、以上のような事情がなければ増改築の許可は下ります。

  もっとも、建物増改築が為されると地主としても、将来の期間満了の際に更新拒絶の正当事由を具備することが難しくなる、期間満了の際に借地人から建物買取請求権(借地借家法上借地人は期間満了の際に地主に建物を時価で買い取るよう請求する権利があります)を行使されるという不利益を被ります。

そこで、増改築許可の裁判の際には、裁判所は、借地人に対し一定額の承諾料を地主に支払うよう命じ、その支払いを条件に増改築を許可するとの裁判を出す場合が殆どです。

この承諾料の相場ですが、全面改築の場合でも、更地価格の3パーセントが原則となっております。 事案によっては5パーセントまで増額することになっています。増額される場合としては、これまで住居用の建物であったのがアパート仕様の建物に変更する場合、建坪が大幅に増加する場合などです。

本件のように個人の自宅用の建物をこれまで通り自宅用の建物に改築する場合には更地価格の3%と考えてよいでしょう。

したがって、地主と増改築許可について裁判外で交渉する場合にも更地価格の3%というのが承諾料の目安になります。

なお、裁判所は、この他に、これまでの地代が近隣の地代相場に比べて特に低い場合には、承諾料の支払いのほかに、地代の改定も付随処分として行うこともあります。

本件でもこれまでの地代が相場より特に低い場合には地代が相場レベルまで上げられる可能性はあるでしょう。

2 借地条件変更の裁判との違い

  上記の増改築許可の裁判ですが、これと似て異なる裁判に借地借家法17条1項の「借地条件変更の裁判」というものがあります。

  これは、賃貸借契約書において借地上の建物は「非堅固建物に限る」「木造家屋に限る」という建物の構造・規模等に関する制限(これを「借地条件」といいます)がある場合に、これを変更して「堅固建物」(例えば、鉄筋コンクリート造りの建物)に全面改築する場合に行う手続きです。

  本件でも借地条件について契約書で「木造住宅に限る」とある場合に、鉄筋コンクリート造りの建物に全面改築したいという場合には、増改築許可の裁判ではなく、借地条件変更の裁判の手続きを取ることになります。

  ただし、この借地条件変更の裁判は、増改築許可の裁判と異なり要件がだいぶ厳しくなり、また、承諾料も更地価格の10%と高くなります。

  借地条件変更の裁判については、次回以降にご説明致したいと思います。

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.31更新

普通借家から定期借家への切り替えの可否

 

<質問> 

 私は、賃貸用マンションのオーナーをしておりますが、この度、将来の立ち退き請求がスムーズに進むように、現在借家人と結んでいる普通借家契約を「定期借家契約」に切り替えることを検討しております。

このような事は可能なのでしょうか。

 

<回答>

 (1) 平成12年3月1日以前に締結された居住用建物の普通借家を定期借家へ切り替えることは現在のところ不可

 居住用の建物について、平成12年3月1日以前から賃貸借契約を締結している場合、「当分の間」は定期借家契約に切り替えることはできません(改正法附則3条)。

 この「当分の間」の解除時期については、附則では明記されておりませんが、居住用建物の定期借家への切り替えの可否については改正法施行後4年の平成18年を目処に見直すことにされておりました。しかし、現在のところ見直しはされておりません。

 この点に関しては、全国宅地建物取引業協議会は、定期借家法の見直しの年として予定されていた平成18年6月に居住用建物の定期借家への切り替えの解除に向けた要望書を国に提出しておりますが未だ実現に至っておりません。

 したがって、現在のところ、平成12年3月1日以前に締結された居住用建物の普通借家を定期借家へ切り替えることは出来ません。

 なお、平成12年3月1日以降に締結された普通借家を定期借家に切り替えることは可能です。

(2) 居住用を除く事業用建物の定期借家に関しては普通借家から定期借家への 切り替えは可能

 居住用以外の建物(事業用)に関しては、従来の借家契約を一旦合意解除して、新たに定期借家契約を締結することは可能です。

なお、この再度の契約もやはり定期借家契約ですので、新規の定期借家契約を締結する際の手続きと同じ手続きが必要となります。具体的には、公正証書等の書面による契約の締結と更新がなく期間満了により契約が終了する旨の口頭及び書面による説明が必要となります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.24更新

民法が定める短期消滅時効

<質問>

 民法には、1年~3年というごく短い期間で時効になってしまう債権があると聞きますが、どのような債権がこれにあたるのでしょうか。


<回答>


1 民法上の債権の時効期間は原則10年です。商人(会社)との取引上の債権については5年が原則となっています。
 しかし、民法170条~174条では、これよりも特に1年から3年という短い期間で時効になる債権を挙げています。うっかりこの期間を経過するまで、取り立てもせず、訴訟も起こさないと時効によって債権が消滅してしまいますので、注意が必要です。
 以下、日常生活でよく問題になりそうなものについて、具体例をあげていきたいと思います(ただし、下記の例に限定されるものではありませんので、詳しく知りたい方は専門家にご相談ください)。
2 1年の短期消滅時効とされている債権(民法174条)
 飲食店やホテルの宿泊代金、運送料、レンタルビデオ・レンタルCD・貸本・貸ふとんなどの貸出料(レンタル料)、個人が短期間に借りるレンタカー料金などです。
 なお、同条1号では、労働者の賃金が挙げられているが、これについては労働基準法において時効期間が2年とされているため、1年の短期消滅時効の適用はありません。
また、同条5号では「動産の損料」、すなわち動産の賃料(レンタル料)が挙げられていますが、最高裁昭和46年11月19日判決(最高裁判判例解説民事編昭和46年度530頁)は、「民法一七四条五号にいう「動産ノ損料」とは、貸寝具、貸衣裳、貸本、貸葬具、あるいは貸ボート等のような極めて短期の動産賃貸借に基づく賃料をいうものと解するのが相当である。けだし、このような賃料は、極めて短期に決済され、その弁済につき領収書を授受しないのを通常とするため、特に短期の時効に服せしめてその権利関係を短期に決着させることにより、将来の紛争を防止する要があるのであつて、同条同号の法意はこのように解すべきものと考えられるからである。」と判示して、営業のために、数カ月にわたり借り入れられたショベルドーザーの賃料債権には民法174条5号は適用されず、通常の商事事項(5年)が適用されるとしております。したがって、業務用機器に関するある程度長期にわたるレンタル取引のレンタル料金などには、1年の短期消滅時効は適用ありません。
3 2年の短期消滅時効とされている債権(民法172条、同法173条)
 生産者、卸売商人及び小売商人から購入した物品の売買代金、理髪代、クリーニング代、学習塾などの月謝、弁護士報酬などです。
 とくに、物品の売買代金については、2年の短期時効なのに5年の商事時効が適用されるとの誤解により、時効が完成してしまっているケースが比較的多いため要注意です。
4 3年の短期消滅時効とされる債権(民法170条)
 医療費や工事に関する債権などです。
5 5年の消滅時効とされている債権(民法169条)
 以上のほかにも、賃貸借契約上の賃料、マンションの管理費・修繕積立金等については「定期給付債権」(一か月間につき○○円などの方法で支払う旨が定められている債権)といって、民法169条に基づき5年の時効期間とされています。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.18更新

借家人が死亡した場合の法律関係

 

<質問>

1 私は、マンションの一室をAさんに賃貸しておりましたが、Aさんが亡くなり、5ヶ月が経過しますが、Aさんが亡くなってからずっと賃料の滞納が続いております。賃料滞納を理由とする契約解除の通知を出そうと思っておりますが、解除通知は、Aさんと同居していた息子さんで、Aさんが亡くなった後にも本件建物に住んでいるBさんに通知すればよいでしょうか。Aさんには、Bさん以外にも息子が2人いると聞いており、まだ、Aさんの遺産分割協議も行われていないと聞いております。

2(1) 私は、マンションの一室に内縁の夫と共に10年近く住んでおりますが、内縁の夫がこの度なくなりました。賃貸人からは私には借家権はないとして立ち退きを求められているのですが、立ち退きに応じなければならないのでしょうか。なお、内縁の夫には他に相続人がいません。

(2) (1)の事例で、夫には養子がいて、その養子Bから夫の借家権に基く立ち退きを求められている場合は、どうでしょうか。

夫と養子Bは、もう10年くらい不仲で、交流がなく、養子Bとの離縁調停の最中に夫がなくなりました。養子Bは私には経済力がなく、単身で新たに住むところを探すとなると大変な出費になります。

<回答>

1 質問1の回答

 借家権も相続財産の一つと考えられておりますが、相続が始まると遺産分割協議によって相続財産の帰属者が決まるまでは、相続人全員で相続財産を共有しているものとみなされます(民法898条)。

 したがって、このような場合、賃貸借契約の解除の前提となる賃料支払の催告通知・解除通知は、相続人全員に対して行わなければならず、一部の相続人に対して催告通知・解除通知を出しても解除は認められません(民法544条、東京高判昭和36年6月26日・東京高判決時12-6-135)。

 したがって、本件ではAさんの戸籍謄本を取り寄せるなどしてAさんの相続人を調査した上で、その相続人全員に催告通知・解除通知を出さなければなりません。

 なお、Aさんの遺産分割協議によって、本件の借家権の相続人が確定した場合には、その者に対してのみ通知を出せば足りますが、その場合には遺産分割協議の提出を求めるなどして本件の借家権の相続人が確定していることを確認する必要があります。

2 質問2(1)の回答

 内縁の妻には、相続権がないのが原則です。したがって、内縁の妻というだけでは、内縁の夫が所有する不動産や預貯金の相続権はありません。

 しかし、借地借家法36条は、借家に従前から同居している内縁の妻又は養子について、死亡した元賃借人に他の相続人がいない場合には、借家権を相続する旨が定められております。

 したがって、本問の事例では借地借家法36条に基き、借家権の相続を主張できます。

3 質問2(2)の回答

 本問の場合には、他に相続人となる養子Bがおりますので、借地借家法36条では保護されず、借家権を相続した養子Bからの請求に対抗できないように思えます。

 しかし、最判昭和39年10月13日(判時393-20)は、設問と類似の事例で、養子Bからの請求は、権利の濫用に当たり許されないと判断しました。

 裁判所は、①相続人Bと被相続人の生前の関係、②相続人Bの借家の使用を必要とする事情、③借家から追い出される内縁の妻の生活状況などを考慮して、養子Bからの明け渡し請求を権利の濫用(民法1条3項)として許さなかったものです。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.10更新

店舗賃貸借契約の中途解約と権利金の返還

 

<質問>

契約期間4年の店舗賃貸借契約を結ぶ際、かなり高額の権利金を支払いました。しかし、事業が思うようにいかなくなったため、賃貸借契約書における中途解約の条項に従い2年間の使用後に契約を解約しました(契約書では解約予告期間が半年前となっておりましたので、半年前に解約予告の通知をしました)。

このような場合、借家人は賃貸人に対し権利金の一部を返還請求することはできるのでしょうか。

 

<回答>

1 権利金の法的性質 

この問題を検討する前提として、権利金の法的性質について検討しておきたいと思います。

権利金の法的性質については、①営業上の利益の対価とする見解、②賃料の一部の一括前払いとする見解、③賃借権そのものの対価とする見解、④場所的利益に対する対価と見解、⑤上記①から④のいずれの性質も有するとする見解、などに分かれております。

いずれの見解も一長一短ですので、当該物件の場所的環境や契約締結の経緯など具体的事情に照らして、①から⑤のいずれの性質かを判断する必要があると思います。

2 賃貸借契約の途中解約と権利金の返還請求

(1) 契約期間満了による終了の場合

権利金は、通常は、契約期間の満了により賃貸借契約が終了した場合には返還されない(すなわち貸主が権利金の全額を取得する)ことを予想して交付される金銭です。

したがって、特別の合意が存在しない限り、賃貸借契約が「期間満了」により終了した場合には、借家人が権利金の返還を求めることはできません。

(2) 契約期間の定めがある場合に中途解約がなされた場合

契約期間の定めのある場合には、その契約期間内は賃借物件を使用・収益することを前提として権利金の額が定められているのが通常であり、契約当事者の合理的意思だと考えられます。このことは、前記の権利金の性質に関する①ないし⑤のどの考え方に従っても同様の事だと思われます。

したがって、そのような契約期間の途中に賃貸借契約が終了した場合には、借家人は、権利金を支払った分をいまだ十分に利用することができなかったものであり、他方、賃貸人側は権利金の全額を受領するに足る十分な期間借家人に対し賃借物件を利用させていないのですから、未経過の契約期間に相当する権利金については、返金を認められても、損失はなく、むしろ返金を認めるのが公平と言えます。また、中途解約による貸主の損失についても、相当な解約予告期間を設けるなどして損失を回避することも可能です。

したがって、下級審の裁判例(東京地判昭42・5・29判時497・49等)の多くは、権利金の性質が、営業ないし営業上の利益の対価であれ、場所的利益に対する対価であれ、賃料の一部の一括払いの性質であれ、その他であれ、賃借期間と残存期間とを按分比して、不当利得として残存期間分に相応する金銭の返還請求を認めております。これは、借家人の都合による合意解約の場合や中途解約条項に基づく中途解約の場合にも認められます。

また、借家人の債務不履行による契約解除の場合など賃借人が自ら招いた契約解除でも、権利金の返金が認められるかについて争われた事案でも、裁判例(東京高判昭29・12・6東高民時報5・13・298)は、契約解除の原因はともあれ、賃借期間を十分利用することができなかったことには代わりはないとして、やはり、残存期間に相応する分の権利金の返還を認めております。もっとも、借家人の債務不履行による契約解除によって賃貸人が受けた損害とは差引きされますので、この点には留意が必要です。

以上のように、契約期間が満了する前に契約が中途解約された場合には、未経過の契約期間に按分して権利金の一部の返金が認められるというのが裁判例ですので、本件でも権利金のうち2分の1相当額の返金を求めることが出来ると考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.07.03更新

借地権の相続の法律問題

 

<質問>

 父は、10年前から土地を借りて、借地上に店舗を建設し、洋品店を経営しておりました。しかし、昨年急逝したため、父の店は、相続人である私が引き継いで、経営を引き継ぐことになりました。そこで、地主に挨拶に行ったところ、借地契約の名義書換をしてくれなければ困ると言われ、名義書換料として地代の1年分を請求されました。

    地主が言うように名義書換料の支払いに応じなければならないのでしょうか?
 (1)の事例で、借地契約には「当該借地契約は借地人一代一限りで失効する」という特約が付されていました。

     この場合、借地契約は上記特約により終了するのでしょうか?

<回答>

(1) 賃借権の相続と名義書換料支払いの必要性

借地人が死亡した場合、相続が開始し、借地権はその時から当然に相続人に移転します(民法882条・896条)。

この場合、賃借権だけでなく、これに付随する一切の賃貸借上の権利義務関係ないし地位が相続人に移りますから、地主と借地人との契約関係も法律上当然に相続人に承継されます。

 そして、借地権の相続によって、その権利の持ち主の名義に変更が生じますが、この名義の変更は、賃借権の第三者への譲渡等とは異なり、地主の承諾を得る必要がなく、法律上当然に生ずるものです。

したがって、賃借権の名義変更による承諾料としての名義書換料を支払う必要はありません。

実際上、本問のように地主から賃貸借契約の名義書換や更新の申出を受けることもあります。

名義書換をしておいた方が権利関係を明確にするという意味では望ましいことですが、従前の借地契約が法律上当然に承継されますので、多額の名義書換料を支払ってまでして名義書換をする必要性は余りないのではないかと思われます。

(2) 契約期間を「一代限り」とする特約の効力

 「賃借人が死亡したときには契約が終了し土地を明け渡す」旨のいわゆる賃借人一代限りの特約を結ぶ例もまれに見受けられます。この特約の法的性質は、不確定期限を付した合意解除契約といえます。

しかし、借地借家法(旧借地法)では、法の定める借地権の存続期間(借地借家法では30年)に反する特約は、無効とされています(借地借家法3条、9条)。賃借人一代限りとする特約は、借地契約後30年未満に賃借人が亡くなった場合にはその時点で賃貸借契約の期間が満了するという特約ですので、借地権の存続期間を最低でも30年とする借地借家法の規定に反することになります。

この点、裁判例(東京高判昭48・11・28/判時726・44)においても、賃借人一代限りとする特約は、借地法の定める存続期間に反する結果となり、借地人に不利なものとして無効である判示しています。

したがって、本件でもこのような特約は原則として無効と理解してよいと考えられます。

そして、この場合の存続期間は、期限の定めのない借地契約ということになるため、借地借家法3条の定める存続期間である30年と見なされることになります(最判昭44年11月26日/民集23・11・2221)。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.06.26更新

建築協定の拘束力

 

<質問>

  私は、ある不動産業者から宅地を購入し、木造3階建ての建物を建設中です。ところが、近隣の方からこの地区は、建築協定によって建物は2階建てまでの建物に限定されており、3階建て以上の建物を建設できないと言われました。しかし、私は、宅地を購入する際にこのような建築協定のことについては一切説明も受けておりませんし、建築協定に署名捺印などもしていません。建築協定に拘束力などあるのでしょうか?

<回答>

  建築基準法69条以下では、建築協定に関する制度を規定しております。

建築基準法は、建物の安全性や良好な住環境を確保するため、最低限の建築基準を設けて建物の建築について規制している法律ですが、良好な住環境の確保の観点からは、それぞれの地域の特性を生かした決め細やかな規制を行いたいという場合もあるでしょう。

そこで、建築基準法69条以下では、市区町村が条例で定めた一定の地区に関しては、当該地域の所有者および借地権者(以下「地権者等」という)の全員の合意のもと、建築協定書を作成し、市区町村の長に提出して、市区町村長の認可、公告の手続きを経ることで、地権者に対し効力を発生する建築協定の制度を設けております。

建築協定は、上記の市区町村長による認可と公告の手続きを経ていれば、その後に当該地区の所有権や借地権を取得した者がいたとしても、その者に対しても当然に効力を生じます。土地の取得者が建築協定の存在について知っていたかどうかは問われません。

したがって、本件については、当該建築協定が上記の認可、公告の手続きを経ているかどうかを確認し、もし上記の手続きを経ている場合には、3階建ての建築計画を2階建てに変更する必要があります。建築協定を無視して、3階建ての建物を建築した場合には後に3階部分に関しては、建築協定違反として撤去を求められることになるでしょう。

そして、このような建築協定の存在は、重要事項説明事項として当然に調べておくべき事項ですので、建築協定の存在を説明しなかった不動産業者に対して、あなたは説明義務違反による損害賠償の請求ができます。

もっとも、建築協定は、地権者等の過半数の合意によって、市区町村の長に廃止の申請をすることができ、市区町村の認可を受ければ廃止することもできます(建築協定の変更の場合には全員の同意が必要です)。そこで、建築協定が古く、その地区の実情にふさわしくなくなってきた場合には、3階建て以上の建物の建設を禁止する本件の建築協定について当該地区の地権者の過半数の同意を経た上で廃止の申請をすることも検討されてよいかもしれません。

上記の廃止の見込みもなく、また、3階以上の建物を建設できないのでは、土地を購入した意味もないというのであれば、不動産業者に対して、土地の売買契約の取り消しを請求できる場合もあります。

消費者契約法では、消費者は、事業者に対して、①事業者の不実告知または②不利益事実の不告知を理由に、契約の取り消しを請求できます。

①の不実告知とは、本件では2階建ての建物しか建設できないのにもかかわらず、3階立の建物が建設可能だと称して、3階建ての建物の建設請負プランを設定して、土地の売却の広告をしている場合などです。

②の不利益事実の告知は、事業者が重大な不利益事実を知っていながら、告知しなかった場合に取り消しができるものです。本件の建築協定は、土地の利用に関する重大な制限ですので、重大な不利益事実に該当することは明らかです。しかし、仮に事業者も建築協定の存在を知らなかった場合には、不利益事実の不告知による取り消しはできませんので、建築協定の存在を売買契約時までに不動産業者が知っていたか否かが争点になることが予想されます。

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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