弁護士 秋山亘のコラム

2017.01.25更新

マンション管理費の時効問題

 

<質問>

  私は、ある中古マンションを裁判所の競売手続きで落札しました。そうしたところ、私も競売の物件明細書をよく確認しなかったのがいけないのですが、このマンションの前所有者は10年分も管理費等を滞納しており、マンションの管理組合からは、10年分の管理費・修繕積立金とその遅延損害金を請求されました。予想外の大きな金額なので戸惑っています。何とかならないでしょうか。

 

(回答)

1 中古マンションを競売により落札する場合も、任意売却により購入する場合も、購入者は、区分所有法第8条の「特定承継人」として、前所有者が滞納していた滞納管理費の支払い義務を負います。

このマンションの滞納管理費は、購入者が滞納管理費に関する物件明細書の記載を知っていたか否かに関わらず(もっと言えば、たとえ物件明細書に管理費等の記載がなくても)支払い義務がありますので、競売物件を購入する際には十分に注意する必要があります。

2 もっとも、マンションの管理費に関する時効期間は、かつては5年説と10年説に分かれておりましたが、現在は5年とするのが確定した判例(最高裁判決平成16年4月23日)です。

 したがって、本件についても、5年を超える管理費については、①管理組合が前所有者から管理費に関する債務承認の書面を取っている、或いは、②前所有者に対し訴訟を提起し勝訴判決を得ているなどの「時効中断」の事由がなければ、時効消滅の主張が可能です。

3 次に、遅延損害金についてですが、遅延損害金の支払い義務についても法的には管理費等の元本と共に購入者に承継されます。

ただし、購入者が任意に支払うことを条件として、遅延損害金の全額免除、一部免除若しくは6%等の低率の遅延損害金への引き直しを求め、管理組合と交渉をするということは実務上よく行われております。

 管理組合としても、訴訟費用をかけてまで遅延損害金を回収するよりは、低金利の経済情勢を背景にして、遅延損害金の支払いについては減免に応ずるケースが多くありますので、遅延損害金の減免については管理組合と協議してみる余地は十分にあると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.01.16更新

遺産分割調停とは

 

<質問>

 父がなくなり、遺産相続をしなければならないのですが、3兄弟間で話し合いがまとまりそうもありません。

そのため、遺産分割調停の申し立てを考えていますが、遺産分割調停とはどのような手続きなのでしょうか。

また、申し立てにはどのような書類が必要なのでしょうか。

<回答>

1 相続財産を分配するには相続人全員の合意が必要になります。

しかし、一般的に遺産には、現金だけでなく不動産、株式、債券などの様々なものがあります。そのため、これらの遺産を相続人全員が、満足できるように分割するのは、大変難しいものです。

これらの遺産の分配方法を相続人全員の協議によって決めるのが遺産分割協議ですが、当事者間で協議がまとまらないときは、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをすることになります。

遺産分割調停というのは、家庭裁判所の調停委員が、相続人同士の意見や主張を聞きながら、うまく合意できるように進める制度です。

この調停委員は、弁護士など相続事件の専門の方が裁判所から選任されて就任するものなので、当事者の意向を聞き取り、亡くなった人への貢献度、職業や年令などを総合的に判断して、相続人各人が納得できるよう、話し合いを進めます。

また、調停の場合、申立人と相手方が片方ずつ調停室に入り、調停委員に事情を話すという方法で、話し合いが進められていくため、原則として、直接相手方と面と向かって口論するようなことはありません。

このようにして、相続人全員が遺産の分配方法に合意すれば、遺産分割調停が成立し、調停調書が作成されます。この調停調書は、判決と同じ効力を有します。

しかし、この調停でも話し合いの合意ができないときは、「遺産分割審判申立書」を提出して、家庭裁判所の審判で結論を出すことになります。

審判では調停のときのように、相続人同士の話し合いが行われることはなく、通常の裁判と同じように、当事者が主張や証拠を提出し、家庭裁判所が公平に判断して、審判を下すことになります。

この家庭裁判所の審判には、強制力があり合意できない場合も、これに従わなければなりません。

なお、遺産分割では、まず最初に相続人同士で協議を行なうのが前提で、協議もせずにいきなり家庭裁判所の審判に持ち込むことはできません。
2 次に、遺産分割調停の申し立てには、以下のような書類が必要になります。

・遺産分割調停(審判)申立書
・相続人全員の住民票の写しと戸籍謄本
・被相続人の戸籍(除籍)謄本
・遺産目録
・不動産登記簿謄本
・固定資産税評価証明書
・預貯金の残高証明書
・印鑑

このほかに調停の申立費用としては、収入印紙代1200円、通信切手代などが必要になります。

このなかで重要なのが遺産目録で、遺産の取りこぼしがないように作成しなければなりません。相手方が遺産の情報を握っているという場合には、相手方から遺産の情報を開示させて遺産目録を作成する必要があります。

また、戸籍謄本は被相続時の出生時からのものを取り寄せる必要があります。被相続人に認知した婚外子などがいないかを確認する必要があるためです。

3 遺産分割調停の大まかな手続きは以上のとおりですが、実際の相続事件においては、単純に遺産を分ける方法を協議するというだけではなく、寄与分があるか、特別受益(生前贈与など)はあるかによって、各相続人の相続分が異なってきます。

また、遺産の分け方についても、例えば、不動産の価値を何時の時点でどのように評価するかによっても、各人の取り分は大きく異なってきます。

また、どのような遺産が残っているかについても、相手方にしか遺産の情報がない場合には、例えば預金取引履歴の開示手続が必要な場合などもあり、遺産の調査には専門家の協力が必要な場合が多いです。

しかし、調停委員は、あくまでも中立の立場の方であるため、一方の当事者の立場にたって有利な主張や証拠を助言してくれる立場にありません。

そのため、遺産分割調停を申し立てるという場合には、できれば早い段階から弁護士に相談しながら、遺産分割調停を進めていくことをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2017.01.11更新

死亡保険金と相続の法律問題

 

<質問>

(1)父が生命保険の被保険者として加入し、その後死亡したのですが、保険契約上、死亡保険金の受取人は長男である私に指定されておりました。弟は、死亡保険金も父の相続財産だと言って、遺産分割をするよう求めております。死亡保険金も遺産分割の対象になるのでしょうか。

(2)(1)の事例で、父には生前に相続財産を上回る多額の借金があったため、相続放棄をしようと考えております。相続放棄をすると死亡保険金を受け取る権利も失うのでしょうか。 

(3)(1)の事例で、弟と遺産分割をする際に、弟は、私が父の死亡保険金を受け取っていることを理由に、父の遺産分割では私の相続分を減らすよう求めております。弟の求めに応じなければならないのでしょうか。

<回答>

1(1)の回答

最高裁昭和40年2月2日判決は、保険契約において受取人として相続人のうちの特定の個人が指定されている場合には、保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に当該相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱していることを理由に、死亡保険金は相続財産にはならないと判示しております。

したがって、本件のような場合には死亡保険金は遺産分割の対象にはなりませんので、弟の求めに応じる必要はありません。

なお、仮に死亡保険金の受取人が単に「相続人」されており、個人として特定されていない場合の扱いですが、このような場合についても最高裁昭和40年2月2日判決は、保険契約によって特定の相続人に相続されるものと解して、相続財産にはならないと判示しております。この場合の相続人間の分配方法ですが、保険約款に定めがあればそれに従い(約款の多くは「均等に分ける」旨の定めがあるようです)、保険約款にも定めがない場合には法定相続分に従い分配されることになります。

これに対して、保険契約上の受取人が亡くなられた被保険者本人となっている場合には、被保険者本人がいったん取得した保険金を相続することになりますので、相続財産として扱われることになります。

2(2)の回答

 前記1のとおり、生命保険金は、保険契約において特定の受取人が指定されている場合には相続財産にはなりませんので、相続放棄をしたとしても問題なく死亡保険金を受け取ることができます。

3(3)の回答

 この問題は、保険契約において死亡保険金が特定の相続人に与えられた場合、死亡保険金の授与を民法903条1項の特別受益と考えて、当該相続人の相続分を減じることができるかという問題です。

 この点に関して、最高裁平成16年10月29日判決は、原則としては特別受益には該当しないと判断しましたが(したがって当該相続人の相続分を減じる必要はないことになります)、「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には,民法903条1項の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる(すなわち、当該相続人の相続分を減じる必要がある)と判断しました。

 したがって、原則的には、死亡保険金を受け取っているという事情は、死亡保険金以外の遺産に対する遺産分割において考慮されることはありません。

しかし、死亡保険金の金額が高額であり、他方で、その以外の相続財産の金額がわずかであるなど兄弟間において死亡保険金も含めた相続による取得額に著しい差が生じ、また、そのような差を設けることが著しく不公平であると認められるような事情が特に認められるのであれば、死亡保険金を取得しているという事情は、遺産分割において当該相続人の相続分の減額事由として考慮されることになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.12.26更新

地主から多額の更新料を請求されたのですが

 

<質問>
 私は、土地を約70坪借りていて来年が更新時期に当たります。 
 この度、地主から更新料として500万円(土地の路線価の5%)を請求するとの通知がきました。
 なお、不動産賃貸借契約書には、更新料に関する取り決めはありません。
<回答>
 賃借人に更新料の支払義務が認められるのは、賃貸借契約書に更新料の支払い義務が明記されている場合など、更新料の合意がある場合に限られます。更新料の合意がない場合でも、その地方に更新料支払いの慣習ないし慣習法がある場合には、更新料の支払い義務が認められる場合もありますが、判例は殆どの事例で慣習の存在を否定しております。
 従って、現在では、更新料の支払い合意が為されていないと、更新料の支払い義務はないと考えてよいでしょう。
 これに対し、地主は、更新料の支払の支払いに応じないと、更新契約を結ばないと言ってくるかもしれません。
 しかし、借地借家法では、地主には、更新を拒否するだけの「正当事由」がないと更新の拒否はできません。この正当事由は、かなり厳格な要件を満たさないと認められない上、通常は多額の立ち退き料の支払を伴いますので、通常は、賃借人は、これまで通り、土地を使用することができます。
 このように借地借家法上当然に更新される更新のことを「法定更新」と言います。
 
「法定更新」とは、借地期間は堅固な建物で三〇年で、それ以外の建物で二〇年となる。この期間内に建物が朽廃すればその時点で契約が終了する。「合意更新」の場合は、右期間より長い借地期間を定めることができ、その期間内に建物が朽廃しても借地権は消滅せず、期間満了まで借地権は存続する
④借地期間が満了しても特別のことがない限り土地の使用権はそのまま認められ、借地人が永遠に土地を使い続けることができるに等しい
とのことでした。
 Aさんは安心しましたが、Bさんとまずい関係になるのも嫌でしたので、自分で妥当と思う金額を更新料として支払うと申し出ましたが、結局折り合いがつかず支払いませんでした。
 以上は借主の立場からの対処ですが、では地主の側に立ち更新料を取得できるようにするにはどの様にしたらよいのでしょうか。とりあえず借地契約に更新料の条項を入れておくことでしょう。注意すべきは、法律上はこのような条項も借地人に不利な条項として、認められない可能性が高いということです。しかし、更新料を契約の条項に入れておきますと、借地人も地主から要求されればスムーズに支払う可能性が高いと思われます。なお、平成八年四月一日以降に設定された借地契約には改正された「借地借家法」が適用されますが、基本的な考え方は従前の「借地法」と同じです。
   

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.12.19更新

放置自動車の対処法

(質問)
私は、あるマンションの管理組合の理事長をしているものです。マンションの敷地の一部を駐車場として区分所有者に貸し出しているのですが、ある駐車場の賃借人が車を放置したままマンションを売却し、遠くの住所に引っ越してしまいました。
放置された車は、型式も10年以上前の車で、事故にあったのか破損状況も激しく、とても使えそうにない車でした。
そこで、私は、賃借人の住民票を区役所で取り寄せて引越先の住所を調べた上、何度も車を処分するよう手紙を出しているのですが、もう半年以上もの間、何も返事がこなくて困っています。
廃車引き取り専門の業者に相談しましたが、車の所有者の同意書がないと後々トラブルになることがあるので、引き取りはできないと言われました。
このまま駐車場を放置しておくわけにもいかないので、明け渡し裁判を提起しなければならないのかと考えていますが、弁護士費用や執行費用を考えると出来るだけ相手方に任意に引き取ってもらいたいところです。
何とか相手方の方で任意に車を引き取ってもらうよい方法はないでしょうか。


(回答)
 このようなマンション駐車場での放置自動車問題に関する相談がよくよせられてきます。
 しかし、このようなケースでも、賃貸人側で無断で廃車処分をすることは器物損壊罪や自力執行の禁止など法に抵触する可能性があります。
 そこで、合法的に処分するには、車の所有者の同意書があるか、若しくは、駐車場明け渡しの裁判をする必要があります。
 駐車場明け渡しの裁判には、それなりに費用(弁護士費用だけでなく15万円~20万円程度の強制執行費用)がかかります。
そこで、車の所有名義人に任意に放置自動車の撤去を促す方法としては、廃棄物処理法第16条違反の罪にあたることを警告する方法が考えられます。廃棄物処理法第16条では、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定されており、同法第25条8号では、第16条違反の罪に対し「5年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処する」と定めるなど厳しい罰則が設けられております。 近時は、環境汚染をもたらす悪質な不法投棄に対し、同法違反の罪により逮捕され、厳しく処罰される事案もあります。
 新しいきれいな自動車を単に放置していたと言うだけでは、「廃棄物」を「みだりに捨てた」と言うことはできませんが、本件のように、ボコボコの自動車を長期間放置し、しかも、所有者が遠隔地に引っ越したという場合には「廃棄物」を「みだりに捨てた」と言えますので、廃棄物処理法第16条違反の罪に該当するものと思われます。
 無責任な駐車場使用者も、逮捕される可能性があるとなると話は別だと思われますので、任意に車を処分する可能性は高いでしょう。

(以上)
            
  

       
           
 
          

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.12.12更新

私道と税金の法律相談

 

<質問>

私の家の前の道路は私が所有する私道になっています。

駅への近道にもなっているようで、朝晩たくさんの人がここを通りますので、誰でも通れる公道と変わりないように思えます。

それにもかかわらず、私道部分に対する固定資産税納付通知書が毎年きます。

これは何とかならないものでしょうか。

 

<回答>

1 私道に対する公租公課

 私道とは、私人が築造し維持管理している道路であって、通例私人の所有に属します。これに対し、公道とは、国または地方公共団体が築造し維持管理している道路です。

 公租公課の面からみると、私道は、取得する場合は不動産取得税、所有権移転等の登記をする場合は登録免許税がかかります。

また、私道は、固定資産にほかならないので、原則固定資産税が賦課されます。

同様に、都市計画区域内に存在すれば、都市計画税も賦課されます。

 しかし、私道といっても、一般通行の用に供せられていて、公道と同様に交通の役割を担っている道路があります。

また、建築基準法上、道路と認定されると、そこに建築物等を築造することは許されません。

 このように、私道の所有者は一般の土地所有者と比べ、大きな制約を受けます。

2 固定資産税の非課税措置

 固定資産税は、市町村税の普通税であって、土地に関する公租公課の中でも、それを所有しているかぎり、毎年賦課される税金です。

 この点、地方税法348条2項5号によれば、「公共の用に供する道路」の場合は固定資産税を課すことはできないものと規定しています。

そこで、「公共の用に供する道路」とは何かということですが、昭和26年の行政通達によると「所有者において、何らの制約を設けず、広く不特定多数人の利用に供するもの」としています。

 したがって、たとえば、私道の所有者が通行者の条件を設けたり、夜間になると道路を閉鎖したりすると、「何ら制約を設けず」とはいえず、非課税にはなりません。

また、行き止まりの私道のような場合は、その長さにもよりますが、それを囲む建物への来訪者が通行するだけのような場合には「広く不特定多数人の利用」に供しているとはいえず、非課税にならない場合があるでしょう。

 本件の私道は、駅への近道となっていて多数人の往来があるようですから、公共の用に供する道路といえます。

 このような場合、多くの市町村においては「固定資産税の非課税適用届出書」などの用紙を備え置いていますので、この様式にしたがった届出をして非課税措置としてもらうとよいでしょう。

3 その他の公租公課の非課税措置

 都市計画税は、固定資産税と同じく市町村(特別区を含む)が課すことのできる地方税で、非課税の範囲についても、固定資産税と同様な取扱いがなされているので(地方税法702条の2)、上記に述べたことがそのままあてはまります。

 私道を取得する際に賦課される不動産取得税についても、固定資産税および都市計画税の場合と同一の考え方にしたがっており、それが公共の用に供する道路であるときは非課税とされます(地方税法73条の4第2項)。

 以上に対し、私道の登記をする際に必要になる登録免許税は、非課税とはしていませんが、「不動産登記の登録免許税課税標準価格の認定基準」という通達によれば、現況が公衆用道路である場合は「近傍宅地価格の2分の1相当額」をもって、その課税標準価格とするものとされています。

4 私道の公道への編入

 税金をなくすもう一つの方法として、公道への編入という手段が考えられます。要するに、当該道路を公道にしてもらうために、市区町村に対し寄附してしまう方法です。

 もっとも、公道となると道路を維持管理していくために、相応の費用がかかるわけですから、市区町村側でも当然に寄附を受理してくれるわけではありません。

 この点、多くの市区町村では、道路に沿って建物築造が可能となる幅員4メートル以上で、原則行き止まりとなっていない両端が公道に接している道路であることを寄附の受理の要件としているようです。

 公道になれば、その後の道路の舗装費用等についても、私人で負担する必要はなくなるわけですから、この際、市区町村への寄附を検討してみるのもよいでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.12.05更新

被害回復型詐欺にご用心     

   
<質問>
 私は、10年ほど前にA社が中心となって会員から投資資金を集めた詐欺事件にあい1000万円を失いました。この事件ではお金を預けた投資会社が行方不明になり、結局、お金は戻ってきておりません。
 その後、B投資顧問会社が中心にとなって設立したという「C匿名組合」の担当者から、「A社による投資詐欺事件の被害を回復するために、当社の顧問弁護士が中心となって、C匿名組合を組織している。出資金200万円を預けてくれれば、当組合の弁護士が責任をもって被害金を回収します。被害金額の全額とまではいかないか、7~8割は戻ってきます。」という電話がありました。
 私としては、どうにかして被害にあった1000万円を取り戻したいと考えていますので、出資金の200万円を預けようかと思っています。
<回答>
近時、上記のような誘い文句で、出資金を募る詐欺事件が多発しております。
これは、過去にあった大規模な詐欺事件の被害者名簿が何らかの理由で流出しており、その名簿に基づいて、かつて被害者であった者から新たに金銭を騙し取ろうという手法です。
この種の詐欺事件の特徴は、①こちらが被害の相談をしていないのに、先方から電話で勧誘してくる、②電話に出る相手は弁護士ではなく、常に会社又は何らかの組織の担当者である、③弁護士が関与している旨を言うが、具体的な弁護士の所属や名前を明らかにしない、④弁護士との面会を経ずに金銭の支払いだけを先に行わせる等です。
確かに、大規模な詐欺事件が発生した場合には、弁護士会、或いは、消費者被害専門の弁護士が弁護団を結成し、その弁護団を通じて被害回復に当たるというのが、弁護士費用の節減又被害回復の実効性の面でも有益です。
しかし、そのよう弁護団は、10年も昔の事件を扱ったりしませんし、前記①~④のような勧誘方法は決して行いません。そもそも被害回復のために出資金を募った「匿名組合」などを組織したりしません。
弁護士法72条では「対価を得て法律事務を行うこと」は弁護士に限られており(訴額140万円以下の簡易な事件については司法書士も受任可能です。)、弁護士以外の者がこうした活動を行った場合には、弁護士法77条により「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」とされ、刑事罰を持って厳しく罰せられます。
したがって、弁護士(又は司法書士)以外の者から、「被害回復のための金銭の支払い」について勧誘された場合には、詐欺の可能性が極めて高いと考えて用心した方がよいでしょう。

(以上)

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.11.30更新

 

賃貸住宅におけるペット飼育の法律相談


(質問)
1 賃借人が賃貸人に無断で犬を3匹も飼っています。しつけも悪く、アパートの内外で糞尿の汚れもひどく、夜鳴きもうるさいなど同じアパートの人たちからも苦情が来ています。
賃貸借契約書には「賃借人は、猛獣、爬虫類、犬、猫等の動物を飼育してはならない」との条項があります。
このような場合賃貸借契約を解除することができるでしょうか。
2 また、上記のような条項がない場合にも賃貸借契約を解除することができるでしょうか。


(回答)
1 質問1について
(1) ペット飼育禁止特約の有効性
裁判例はこのようなペット飼育禁止特約の有効性を認めております。 
確かに、個人の空間で他人に迷惑をかけずにぺットの飼育をするならば問題はないようにも思えますが、たとえその飼育マナーが良い場合でも、共同住宅においてはペットの飼育そのものに嫌悪感を抱く方もいること、ペットの飼育それ自体により建物の傷み具合が進行すること、飼主にとっては気にならない鳴き声・抜け毛など有形無形の迷惑が生じている場合も往々にして認められることなどから、一律に犬・猫等のペット飼育の禁止をうたう特約も有効とされています。
(2) 契約解除の可否
次に、ペット飼育特約が有効であり、それに違反してペットの飼育が為された場合に直ちに契約解除までできるかというと、必ずしもそうではありません。
裁判例は、賃貸借契約を解除するには、客観的に見て、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたと言えるような場合でなければならないとしております。
たとえば、ペットの飼育により本件のような著しい迷惑行為が現に行われている場合、賃貸人がペットの飼育をやめるよう再々に渡り催告したにもかかわらずこれをやめない場合には、信頼関係が客観的に見て破壊されたと言えるでしょう。
逆に、ペットを飼育していることが判明したが、近隣への目立った迷惑行為もみられず、建物のペットによる損耗も預け入れ敷金による補修費の控除で十分に賄える程度の軽度の損耗しか認められない場合においては、賃貸人の催告によって賃借人が速やかにペットの飼育をやめれば、契約解除まで認めるのは難しいでしょう。
2 質問2
 (1) ペット飼育の可否
ペット飼育禁止特約がない場合には、猛獣や毒蛇等の危険動物の飼育は別として、犬猫等の動物の飼育それ自体は原則として禁止されるものではありません。
契約後に賃貸人が一方的に犬猫の飼育を禁止することはできません。
(2) 用法遵守義務
しかしながら、賃借人は、特約がなくとも、「契約又はその目的物の性質に因りて定まりたる用法に従いその物の使用及び収益を為す」という義務(民法594条、616条)、すなわち「用法遵守義務」があります。
したがって、この用法遵守義務から、賃借人であるペット飼育者にも、ペットの飼育をするにしても守らなければならない一般的な社会的ルールの履行が求められます。
具体的には、飼主には、糞尿の始末をきちんとする、ペットが夜鳴きなどをしないようしつけをきちんと施す、場合によっては動物病院で治療やその他の夜鳴き防止の処置をするなど、ペットの飼育により近隣に迷惑を及ぼさない義務、建物に通常の使用を超えるような損耗をさせない義務があります。
 そして、この義務に違反し、その義務違反の程度も、本設例のように著しい場合には、賃借人の用法遵守義務違反が認められるでしょうし、また、その義務違反により賃貸人との信頼関係も破壊されたとして、契約解除が認められるでしょう。

(以上)          

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.11.21更新

預金債権と相続

(質問)
1 夫Aが亡くなり遺産相続をしなければなりません。私達には子がおらず、夫の両親も亡くなっています。このような場合、遺産分割協議は、誰と行ったらよいのでしょうか。
 また、私の法定相続分はどのようになるのでしょうか。
2 1の事例で、夫の遺産として残っているものは、銀行の普通預金だけなのですが、相続人が多いため遺産分割協議をするにも長引きそうです。銀行に対し、直接、法定相続人に従った預金の払い戻し請求はできないでしょうか。

(回答)
1 質問1について
 夫婦に子がおらず、亡くなられた夫Aにご両親がいる場合には、妻とご両親が相続人になり、この場合の法定相続分は、3分の2が妻、3分の1がご両親(これをご両親が二人で等分に分けます)となります(民法900条1項2号)。
夫Aのご両親も亡くなられている場合には、夫Aの兄弟姉妹全員が相続人になり、この場合の法定相続分は、4分の3が妻、4分の1が兄弟姉妹(これを兄弟姉妹が等分に分けます)となります(民法900条1項3号)。
なお、兄弟姉妹の中に亡くなられている方がいる場合には、その子全員も相続人になります(ただし、その子が亡くなっている場合にはその孫の相続権まではありません)。
例えば、3人の兄弟の中に亡くなられている方が一人おり、亡くなられた方の子が二人の場合には、その子の法定相続分は1/24=1/4×1/3×1/2となります。
2 質問2について
 最判昭和29年4月8日は、銀行の預金債権について、「金銭債権は分割債権であり、相続開始と共に法律上当然に分割され、各相続人はその相続分に応じる権利を承継する」という立場をとっております。
したがって、上記最高裁判例の立場からすれば、各相続人は、遺産分割協議をせずに、つまり他の相続人の同意がなくても、銀行に対し、自己の法定相続分に関する預金の払い戻し請求が可能です(東京地裁平成18年7月14日金融法務事情1787号54頁)。
しかし、銀行によっては、他の相続人からのクレームを避けたい、紛争に巻き込まれたくないとの考えから、他の相続人全員の同意がないと、法定相続分に関する払い戻しでも応じないという運用をしているところが多くあります。
このような場合には、銀行に対し、法定相続分の払い戻しに関する訴訟を提起し、判決を得た上で、払い戻しを受けることになります。
この訴訟については、前記のように判例もあるところですので、銀行側もほとんど争わずに、早期に勝訴判決を得ることができる場合が多いようです。銀行側としても、訴訟で判決を受けて払い戻しを実施したとすれば、他の相続人からのクレームに対し対処がし易いという考えがあるのでしょう。
そのため、あまりにも相続人が多くいたり、音信不通者がいる、或いは、感情的になってどうしても判子を押したくないという相続人がいるなどの理由で、遺産分割協議が進みそうもないという場合には、弁護士に依頼して銀行に対する訴訟を提起し、判決を得た上で、払い戻しを受けた方が解決が早いと思われます。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.11.14更新

バブル崩壊後も高すぎる賃料を減額してもらう方法はありますか

 

(質問)

私は、平成5年に、現在の店舗を月額33万円で借りるという賃貸借契約を結びました。

しかし、その後この辺の地価もだいぶ下落しましたし、近隣の同じような店舗の賃料が20万円程度であるのに比べて、だいぶ高すぎると思います。

そこで、私は、大家さんに近隣の賃料と同程度にして欲しいと頼みましたが、大家さんから「契約書で決めたことだから減額交渉には一切応じられない」と言われてしまいました。

契約書で決めた以上家賃の減額交渉は認められないのでしょうか。

また、大家さんが賃料の減額に応じない場合、私は現在の賃料を払い続けなければ賃貸借契約を解除されてしまうのでしょうか。

(回答)

 借地借家法32条1項では、土地・建物に対して課される税金の増減、土地・建物の価格の増減、当該建物の家賃が近隣の類似家賃に比較して不相当となった場合など、経済事情の変動があった場合には、契約の条件に関わらず、当事者は将来に向かって家賃の増減額の請求をすることができると規定されております。

 したがって、契約書で家賃の金額を決めた場合でも、景気の大きな変動などにより、近隣の家賃相場が低くなっている場合には、借地借家法により家賃の減額が認められる可能性が十分あります。

 借地借家法により、借家人が家賃の減額請求をしても家主が家賃の減額に応じない場合、借家人は、大家に対し、家賃減額に関する調停を申し立てることができます(「調停」=「ちょうてい」と言い、裁判所や不動産の専門家が間に入り、話し合いによる解決を勧める手続きです)

なお、賃料減額の効力は「賃料減額の請求をした時」から生じます。 従って、当事者間で協議があわず裁判で新賃料を決めることになった場合などには、賃料減額の請求をした時期がいつだったかが後々問題となる場合がありますので、賃料減額請求をする場合は、きちんと内容証明郵便等で行うなどして証拠を残しておくべきです。

また、裁判所で新賃料額が決められるまでの間は、賃借人は、自分が相当と思う賃料を払うのではなく、これまでの契約書通りの賃料を支払い、裁判所の決定が出た時に、多く支払ってきた賃料分と将来の賃料と相殺することになります。そうでないと、裁判所が賃料の減額を認めなかった場合に、大家から賃料の支払を怠ったとして契約を解除される恐れがあるからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

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