弁護士 秋山亘のコラム

2016.08.23更新

身元保証人の相続人の責任

 


(問い)父は証券会社で働く友人のAさんの身元保証人でしたが、最近父Bは死亡し、唯一の相続人である私が単独相続しました。その後、Aさんが会社のお金を横領して行方不明になってしまったのですが、証券会社から私に対して、Aさんが会社に与えた損害を償うよう請求がきました。私は責任を負わなければならないのでしょうか。
(答え)この問題を考える前提として、保証債務と相続の関係についてご説明致します。「保証債務」とは、本来の債務者がその債務を弁済しない場合に、債務者に代わって弁済する義務ですので、本来の債務者が弁済しない場合には保証人が代わりに弁済をしなければなりません。
 また、「相続」は、「被相続人に属した一切の権利義務を承継する」ものです(ただし、相続放棄や限定承認の手続きをした場合は別です)。保証債務も財産上の義務ですから、相続人は被相続人の負担していた保証債務も相続することになり、相続人が「保証人」となります。したがいまして、被相続人が、金銭消費貸借の保証人であった場合は相続人が保証債務を負わなければなりません。つまり、債務者本人が、倒産したり行方不明になるなどして、弁済しない場合には、もともとの保証人だけでなく、もともとの保証人の相続人である妻や子が保証債務を相続することにより「保証人」となります。
 ただ、ご質問のケースにつきましては、裁判所は、借金の保証人の様な普通のケースとは異なる判断をしています。身元保証人のケースでも、もともとの身元保証人であったBさんは自身は、Aさんが会社に与えた損害をAさんに代わって弁償しなければならない義務は負担していました。しかし、身元保証人の債務は、普通の保証債務とは異なり、一定額の債務の保証ではなく、本人(A)に将来発生するかも知れない広範な債務を保証するもので、この点が、債務の額が一定している借金の保証人等普通の保証とは異なります。
 そこで、裁判所では、特別の事情がない限り、身元保証債務は、もともとの身元保証人だけにとどまる債務であって相続人には承継されないと考えられています。したがいまして、
ご質問のケースは、特別の事情がない限り、Bさんの相続人である子は、Bさんの身元保証債務を相続することはなく、会社に対し責任を負うことはないのです。
 しかし、Aさんが会社に損害を与えた後に、Bさんが死亡した場合には、すでにBさんの保証債務の金額が決まっていますので、借金の場合と同じように、Bさんの相続人はBさんの保証債務を相続しますので注意してください。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.08.15更新

有責配偶者による婚姻費用請求


<質問> 
 妻が浮気をした挙句、浮気相手の男性と一緒に住むと言って別居してしまいました。
その後、妻は、私との離婚を求めて調停を申し立ててきましたが、それと同時に離婚が成立するまでの婚姻費用として生活費の支払いを求める調停も起こしました。
 私としては、浮気をした上に一方的に別居した妻に対する婚姻費用を支払うことにどうしても納得がいきません。法的にはどうなのでしょうか。
<回答>
1 夫婦関係において、夫は、妻に対して自分と同程度の生活を保持する義務がありますので(民法760条)、夫は妻との別居後においても夫の収入に応じた一定額の生活費を支払わなければならないのが原則です。この生活費は、夫と同程度の生活レベルを保持するためのものですので、夫の収入によって変わってきます。
 これは、離婚原因について仮に一方当事者である妻側に何らかの責任がある場合においても同様です。
2 しかし、札幌高判昭和50年6月30日(判タ328号282頁)は、「婚姻関係の破綻につき専ら、若しくは主として責任を負う者が、その義務をつくさずして、相手方に対し、相手方と同一程度の生活を保持できることを内容とする婚姻費用の分担の履行を求めることは権利の濫用として許されない。」と判示しております。上記裁判例は下級審判例ではありますが、その後の多くの裁判例でも同種の判断がなされております。
したがって、本件のように妻側に一方的に破綻の原因があることが明らかなような場合には、前記1の原則の例外として、「夫の生活レベルと同程度の生活を保持するための生活費」の支払については拒否することができます。
3 もっとも、上記裁判例も「夫と同程度の生活レベルを保持するための生活費の支払義務」はないものの、夫婦である以上、夫には妻に対し「最低限の生活を維持させるという限度での婚姻費用の支払い義務」はあるとも判示しております。
 これはどういうことかと言うと、破たん原因について妻側に一方的な落ち度があるような場合には、夫と同程度の暮らしをさせる金額での婚姻費用の支払い義務はないものの、妻が生活するための最低限度の生活費については夫にはその支払い義務があるとしたものです。
 本件のようなケースでは、まず、妻側が自らのパート収入や同居している相手の収入などで生活していけるかどうかを検討し、生活していけるのであればそれ以上の生活費の支払い義務はないということになります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.08.08更新

お金の貸し借りと利息の法律相談

(質問)
1 私はある友人に1年間30万円お金を貸すことになりました。この場合、借用書では、どのような点に気をつければいいでしょうか。
2 私は会社を経営している者ですが、私の会社が友人の会社から1000万円をお借りすることになりました。この場合、借用書では、どのような点に気をつければいいでしょうか。
(回答)
1 質問1の回答
 民法では利息の合意がない場合には無利息となるのが原則です。
 個人間のお金の貸し借りの場合にはこの民法の原則が適用されますので、借用書に利息を支払う旨の合意がない場合には無利息の消費貸借契約とみなされます。
 したがって、利息についてもきちんと支払って欲しい場合には、借用書において「本件の利息は年利○%とする」という条項を設けておく必要があります。利息を支払う旨の合意はできていたが、利率の合意まではしていなかったという場合には民事法定利率である年5%とみなされます(民法404条)。
 また、借用書では、返済期限と返済期限を経過しても返済がされない場合の遅延損害金についてもきちんと明記しておいた方がよいでしょう。というのも、遅延損害金の定めがない場合には民法では遅延損害金は年5%とみなされますが、相手方の返済を促す意味でも遅延損害金は10%とか14%など高めに合意するのが通常だからです。
 最後に、借用書において返済期限が書かれていない場合どのように考えるのかですが、民法では返済期限の定めのない消費貸借契約の場合には、貸主は、何時でも借主に返済するよう催告することができ、貸主の催告時から「相当の期間」が経過した時に借主の支払義務が到来するとされております(民法591条1項)。
この「相当の期間」ですが、通常は1週間から1カ月程度と解されております。したがって、借りる側においては返済期限をきちんと明記しておかないと思ったよりも早く返済を迫られることになりますので、注意が必要です。
2 質問2の回答
 商法においては利息の合意がなくとも年6%の利息でお金を貸したものとみなされます(商法513条、514条)。
 本件のように会社間でのお金の貸し借りについてはこの商法の原則が適用されますので、借用書に別段の定めがない場合には、年6%の商事法定利息による消費貸借契約とみなされます。
なお、遅延損害金の利率の定めがない場合には、年6%の商事法定利率が遅延損害金の利率とみなされます。
また、返済期限の定めがない時には貸主は何時でも返済を催告することできることについては民法の場合と同じです。
 近時の金融市場の利率は、比較的低い利率で推移しておりますので、友人の会社間でのお金の貸し借りだからと言って、利息の合意をきちんとしていないと、年6%という予想外の利息を請求されることにもなりかねませんので、借りる方としても利息の利率の合意はきちんとしておいて方がよいでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.08.01更新

マンション管理費の長期間滞納者への対処法

 

(質問)

私は、あるマンションの管理組合の理事長をしております。私のマンションには3年以上もの長期間に渡りマンションの管理費・修繕積立金を滞納し続けている区分所有者がいます。

管理組合では、既に内容証明郵便で支払いを催告してきましたが一向に支払いがなく、その為、弁護士に依頼して管理費の支払いを求め提訴をし、勝訴判決まで得たのですが、その滞納者はそれでも全く支払いに応じません。

裁判を依頼した弁護士の話によると、その滞納者の所有するマンションには既にマンションの時価を大きく上回る抵当権が設定されているため当該マンションの競売をすることもできず、また、滞納者の勤務先も不明であるため、給与の差押えもできないとのことでした。

管理組合としては、このまま滞納が続くことを容認するわけにはいきません。何とかならないでしょうか。

(回答)

 確かに、管理費の支払いを求め判決を得たとしても、滞納者に資産がなければ、差押えをすることができません。

 前記のように、滞納者のマンションに時価相当額以上の抵当権が設定されている場合、管理組合が、管理費の支払いを命ずる通常の判決に基づいてマンションの強制競売の申立をしても、「競売代金は全て抵当権者に配当され管理組合には配当されないのだから、管理組合には、抵当権者が競売する意思がないのに、これを請求する権限がない」という理由で、管理組合の競売申立は裁判所によって却下されてしまいます(これを民事執行法63条の「無剰余却下」といいます)。また、滞納者が年金暮らしをしている、勤務先が全く不明である、行方不明で連絡がつかないなど場合には勤務先の給与を差し押さえることもできません。滞納者の預金の差押えについても、どこの銀行のどこの支店に預金があるかを管理組合の方で特定しなければ差押えができませんし、仮に、預金口座が分かったとしても、このような滞納者にはお金がなく殆ど預金が残っていないのが通常です。

 では、このような場合、管理組合としては、管理費の滞納が日々膨らんでいくのを黙って待つしかないのでしょうか。

このような場合、区分所有法59条に基づく競売請求の裁判を提起することをお勧めします。

この59条の競売請求の裁判とは、ある区分所有者が当該マンションの共同の利益に著しく害する行為をした場合、管理組合は、その区分所有者に対してその者が所有する区分所有建物の競売を請求することができるという規定です。

本件のように長期間に亘り、管理費の滞納をしており、判決を得ても、支払いに応じないと言うケースでは、管理費等の長期滞納が共同の利益に著しく害する行為をした場合に当たりますので、59条に基づく競売請求が可能です。

そして、この59条に基づく競売請求裁判のメリットは、たとえ当該マンションの時価を超える抵当権が設定されている場合にも、前記の無剰余却下の適用がなく、競売を実施できると言う点です。

以前の東京地裁民事執行部の扱いは59条に基づく競売請求の場合にも民事執行法63条を適用して無剰余却下をしていたようですが、当法律事務所では、上記東京地裁の取り扱いを不当であるとし、東京高裁に控訴をしました。その結果、東京高決平成16年5月20日は、59条に基づく競売請求の場合には無剰余却下の適用がないことを明らかにする新しい判例を形成しました。現在の東京地裁では、上記判例に基づく運用に変更されているようです。

ただし、この59条の裁判をするには、管理組合は総会を開き、全区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成を得なければなりません。

59条により競売が実施された場合、その競売代金は、第1に、手続き費用としての管理組合が収めた予納金の返還に、第2に、抵当権者に配当され、当該競売代金からは管理費等の支払いは受けられません。

しかし、新所有者に代われば、その新所有者が旧所有者の管理費等の支払い義務を承継します。新所有者は、通常は、新たにマンションを購入するなど資力に問題がない正常な入居者がなりますので、請求をすればこれを支払ってくるのが通常です。

このようにして、59条の競売請求を利用すれば、不良入居者を追い出すことができ、新所有者のもと以後の管理費滞納で頭を悩ますことがなくなり、これと共に、以前の旧所有者の滞納管理費についても回収できることになります。

もっとも、前記のように管理組合から競売を請求するというのではなく、抵当権者が滞納者のマンションを競売に出すのを待つという方法もあります。確かに、これにより新所有者に代われば、費用をかけることなく、新所有者から区分所有法8条により滞納管理費の回収を図ることができるでしょう。しかし、抵当権者は、いつ競売を申立てくれるか分かりません。また、抵当権者は、通常、滞納者に対し競売を盾にしてローンの支払いを求めていますので、滞納者が抵当権者に対しローンの支払いを続けている限りにおいては、抵当権者は競売申立をしないでしょう。この間、抵当権者が競売を申し立てるか否か、申し立てるとして何年かかるか分からないのに、そのような不真面目な滞納者を居住させ続けていたのでは、真面目に毎月管理費を納めている他の区分所有者は納得しないでしょうから、その意味でも、前記59条の競売請求の裁判は意義があると思われます。

  

 

       

           

 

          

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.07.25更新

賃貸アパートにおけるペット飼育と賃貸借契約の解除

 

                                       

(質問)

1 賃借人が賃貸人に無断で犬を3匹も飼っています。しつけも悪く、アパートの内外で糞尿の汚れもひどく、夜鳴きもうるさいなど同じアパートの人たちからも苦情が来ています。

賃貸借契約書には「賃借人は、猛獣、爬虫類、犬、猫等の動物を飼育し

てはならない」との条項があります。

このような場合賃貸借契約を解除することができるでしょうか。

2 また、上記のような条項がない場合にも賃貸借契約を解除することができるでしょうか。

 

(回答)

1 質問1について

  (1) ペット飼育禁止特約の有効性

裁判例はこのようなペット飼育禁止特約の有効性を認めております。

 確かに、個人の空間で他人に迷惑をかけずにぺットの飼育をするならば問題はないようにも思えますが、たとえその飼育マナーが良い場合でも、共同住宅においてはペットの飼育そのものに嫌悪感を抱く方もいること、ペットの飼育それ自体により建物の傷み具合が進行すること、飼主にとっては気にならない鳴き声・抜け毛など有形無形の迷惑が生じている場合も往々にして認められることなどから、一律に犬・猫等のペット飼育の禁止をうたう特約も有効とされています。

(2) 契約解除の可否

 次に、ペット飼育特約が有効であり、それに違反してペットの飼育が

為された場合に直ちに契約解除までできるかというと、必ずしもそうではありません。

裁判例は、賃貸借契約を解除するには、客観的に見て、賃貸人と賃借

人との間の信頼関係が破壊されたと言えるような場合でなければならないとしております。

たとえば、ペットの飼育により本件のような迷惑行為が現に行われて

いる場合、賃貸人がペットの飼育をやめるよう再々に渡り催告したにもかかわらずこれをやめない場合には、信頼関係が客観的に見て破壊されたと言えるでしょう。

逆に、ペットを飼育していることが判明したが、近隣への目立った迷

惑行為もみられず、建物のペットによる損耗も預け入れ敷金による補修費の控除で十分に賄える程度の軽度の損耗しか認められない場合においては、賃貸人の催告によって賃借人が速やかにペットの飼育をやめれば、契約解除まで認めるのは難しいでしょう。

 

2  質問2

 (1) ペット飼育の可否

ペット飼育禁止特約がない場合には、猛獣や毒蛇等の危険動物の飼育

は別として、犬猫等の動物の飼育それ自体は原則として禁止されるものではありません。

契約後に賃貸人が一方的に犬猫の飼育を禁止することはできません。

(2) 用法遵守義務

しかしながら、賃借人は、特約がなくとも、「契約又はその目的物の

性質に因りて定まりたる用法に従いその物の使用及び収益を為す」という義務(民法594条、616条)、すなわち「用法遵守義務」があります。

したがって、この用法遵守義務がから、賃借人であるペット飼育者に

も、ペットの飼育をするにしても守らなければならない一般的な社会的ルールの履行が求められます。

具体的には、飼主には、糞尿の始末をきちんとする、ペットが夜鳴き

などをしないようしつけをきちんと施す、場合によっては動物病院で治療やその他の夜鳴き防止の処置をするなど、ペットの飼育により近隣に迷惑を及ぼさない義務、建物に通常の使用を超えるような損耗をさせない義務があります。

 そして、この義務に違反し、その義務違反の程度も、本設例のように著しい場合には、賃借人の用法遵守義務違反が認められるでしょうし、また、その義務違反により賃貸人との信頼関係も破壊されたとして、契約解除が認められるでしょう。

 なお、裁判例(東京地判昭和62年3月2日・判時1262号117頁)においても、ペット飼育により著しい迷惑行為があった事案では、ペット飼育禁止特約が設定されていない場合でも、上記の用法遵守義務違反と信頼関係の破壊を認定し、契約解除を認めたものがあります。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.07.19更新

債権回収は時効になる前に


 最近、法律相談で「家賃の滞納が続いているのだけど支払ってもらえないのでそのままにしている」、「不況なので取立てを待ってあげている」ということをしばしばお聞きします。しかし、どうしても弁済を猶予してあげたいという場合でも、時効には注意しなければなりません。時効が完成してしまうと、法律上は債権(お金を回収する権利)が消滅してしまうからです。そこで、今回はこの時効という制度についてご説明したいと思います。
1なぜ時効という制度があるのか
 時効とは、①一定期間の時の経過と②時効の援用(時効の利益を利用するという債務者の意思表示)によって債権が消滅する制度です(民法166条以下)。 
 なぜこのような一見不合理な制度があるのかと言いますと、①法律上の権利関係が長年決着つかない状態であると社会生活が安定しないこと、②昔の出来事なので証拠がなくなってしまっているのが通常であること、③権利の行使を長年怠っていた債権者は保護されなくても仕方ないことが理由となっています。
2時効の要件;一定期間の時の経過
 では、一定期間の時の経過とはどのくらいの期間のことを言うのでしょうか。これはその取引の種類によって異なります。
 まず、民法上の一般原則は、10年です。個人間の金の貸し借り上の債権は、これに該当します。
 次に、商取引上の債権の時効は、5年です。企業がする取引上の債権は一般にこれに該当します。また、一方が個人でも、会社を相手とするお金の貸し借りもこれに該当します。
 以上2つが基本ですが、この他に短期消滅時効と言って特別に短い期間で時効が成立するものがあります。
①時効期間5年のもの…個人がする賃貸借契約上の賃料債権
②時効期間3年のもの…請負工事の代金、医療行為の治療代、不法行為による損害賠償請求権(加害者を具体的に知ったときから数えて3年)
③時効期間2年のもの…生産者・卸売商人・小売商人が売る物品の代金、学習塾の月謝、弁護士の弁護料、労働者の賃金(但し退職金は5年)等
④時効期間1年のもの…飲み屋のツケ、運送代金等
3時効完成を妨げるには
 このように、①時の経過と②時効の利益の援用で時効は完成しまが、時効の完成は「中断」によって妨げることができます。「中断」に該当すると、時効期間の経過は振出に戻り、一から再び始まるのです。
 中断事由としては、①請求、②債務の承認、③仮差押、仮処分、差押があります。
 ①請求とは、訴え提起するほか請求書や催告状を出すことも該当しますが、請求書等を出した場合はその後6ヶ月以内に訴え(裁判)を提起しないと、時効中断の効果はなくなってしまいますので注意が必要です。
 ②債務の承認とは、債務者が債務の存在を認めることですが、債務の一部を弁済をする、利息を支払う、債務者が支払の猶予を申し出るなども債務の承認に該当します。
 以上が中断事由ですが、これらを行う場合は、後に証拠となるように文書で残る形にするよう注意しなくてはなりません。例えば、請求書なら配達証明付内容証明郵便で出す、一部弁済なら銀行振込み形式にしてもらう、支払の猶予ならその旨の文書を債務者に一筆書いて頂く等です。

 

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.07.11更新

迷惑行為による借家契約の解除

    

<質問>

 私は、現在アパートを借りて住んでいるのですが、私の部屋の隣人が、たびたび夜中まで大人数で酒を飲んでは大騒ぎすることを繰り返しており、困っております。私からいくら注意しても何ともなりません。

どうにかならないでしょうか。

<回答>

1 このような迷惑行為に対しては、家主からその相手に対する賃貸借契約の解除が認められる可能性がありますので、まずは、家主に相談してみるべきでしょう。

 すなわち、賃借人は、契約または目的物の性質によって定める用法に従い使用収益をなすべき義務(民法616条、同594条1、用法遵守義務)があります。

 アパートのような共同住宅では、当該建物において隣人との共同生活を行うことが予定されている以上、隣人の日常生活に著しい迷惑を及ぼさないことは、当然に前記の用法遵守義務から導かれる賃借人の義務と言えます。

本件のように深夜に大人数で大騒ぎをすることを繰り返すことによって隣人の安眠を妨げることは、隣人の日常生活に著しい迷惑を及ぼす行為に該当しますので、仮に、これらの行為を繰り返し、家主の注意に対しても、迷惑行為を辞めない場合には、用法遵守義務違反を理由にして契約解除が認められる可能性は高いと言えます。

この点、アパートで深夜のマージャンを繰り返したことにより隣人の安眠を妨げたことを理由に契約解除が認めた裁判例として、東京北簡判昭和43年8月26日(判時538号72頁)があります。

もっとも、賃貸借契約を解除するには「家主と賃借人の信頼関係が破壊された」という事情が必要ですので、1回の迷惑行為によって契約解除が認められるものではなく、複数回の著しい迷惑行為が行われ、家主の注意によっても迷惑行為を辞めないという事情が必要でしょう。

2 賃貸借契約の解除は、基本的には家主しか認められませんので、アパートの賃借人であるあなたとしては、まずは、家主に対し、隣人に対する注意や場合によっては契約解除を求めることになるでしょう。

 では、仮に、家主が隣人に対する注意や解除などの対応も何もしなかったり、或いは、家主が注意をしても隣人が迷惑行為を辞めず、家主としてもそれ以上の契約解除まではしないといった場合は、どうなるでしょうか。

このような場合には、家主としては、賃借人であるあなたに対して、建物の通常の用法に従って建物を利用させる賃貸借契約上の積極的な義務がありますので、隣人の迷惑行為によってあなたの安眠が妨げられるなどの被害を受けている場合には、家主の上記の義務違反を理由に、あなたとしては、家主に対し、賃料の減額請求をすることができると思われます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.07.05更新

定額郵便貯金・現金と相続             

 

(質問)

1 遺産の中に定額郵便貯金があるのですが、遺産分割協議が成立するのに相当時間がかかりそうです。

そのため、私の法定相続分についてだけ、ゆうちょ銀行に対し定額郵便貯金の払い戻しを請求しようと思っているのですが、このような請求は認められるのでしょうか。

なお、この定額郵便貯金は平成15年に預け入れたもので、預け入れ日からまだ10年を経過していません。

2 相続財産の中に現金があり、それを一人の相続人が持っております。

この相続人に対し、遺産分割協議を経ることなく、直接、私の法定相続分に従った現金の支払いを請求できるでしょうか。

(回答)

1 質問1について

 前回の寄稿でのご相談事例では、最高裁昭和29年4月8日を引用して、「金銭債権は分割債権であり、相続開始と共に法律上当然に分割される」という理由から、預金債権については、各相続人は、遺産分割協議をせずに、つまり他の相続人の同意がなくても、銀行に対し、自己の法定相続分に関する預金の払い戻し請求が可能であることをお話ししました。

 しかし、ゆうちょ銀行の定額郵便貯金の場合には、上記のような判例はあてはまりません。すなわち、定額郵便貯金については、郵便貯金法7条1項3号において、「一定の据置期間を定め、分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するもの」と規定されております。

つまり、もともと一定期間は分割払戻が出来ない、という約束をした上で預け入れている以上、この据置期間内に相続が生じたからと言って、当然に分割払戻しが出来ることにはならないということになります。最高裁平成22年10月8日も上記と同様の立場をとっております。

したがって、定額郵便貯金については、普通預金債権と異なり、預け入れの日から起算して10年が経過するまでは、相続人は自己の法定相続分だけを払い戻しするよう、ゆうちょ銀行に対し請求することはできないということになります。

ただし、平成19年の郵政民営化により、現在は郵便貯金法は廃止になっております。したがって、上記最高裁判例の射程は、郵政民営化以前に預け入れられた定額郵便貯金に限られるという点に留意する必要があります。

2 質問2

預金債権が相続開始と同時に当然に分割されることから、現金も同様だと誤解されがちです。

しかし、最高裁平成4年4月10日(月報44-8-16)は、現金については動産と同様に扱うとしているため、相続人全員との遺産分割協議を経る必要があります。

したがって、遺産分割協議が成立しない間は、現金を持っている相続人に対し、現金の支払いの請求はできません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.06.27更新

少年事件と付添人

 

<質問>
 私の息子が高校の不良グループと一緒に同級生を恐喝したとして逮捕されました。今後の息子の処遇はどのようになってしまうのでしょうか。
また、私の息子の弁護はどのようにして行われるのでしょうか。


<回答>
1 警察に逮捕され場合、少年は、48時間以内に検察官に身柄送致され、検察官は24時間以内に10日間の勾留請求を裁判所に請求するかどうかを決めます。
検察官から勾留請求を受けた裁判所は、少年と面接した上で、速やかに勾留決定を出します。勾留請求が却下されることは稀で多くの場合10日間の勾留が決まります。
この勾留期間中に検察官は、捜査をして少年の犯罪行為に関する証拠を収集します。この勾留期間はもう10日間延長されることがあります。
ここまでの手続きは、少年と成年とは異なることはありません。
この段階(被疑者段階)で弁護士を付けたい場合には、私選弁護人を立てることになりますが、現在は、一定の資力要件を満たせば国費でもって弁護人を付けることができる被疑者国選弁護人制度が設けられております。
恐喝罪などの被害者がいる事件の場合には、次で述べる鑑別所送致決定や最終的な少年の処遇が決められる際に、被害者への被害賠償を済ませ、示談を成立させているかどうかが重要なポイントとなりますので、出来るだけ早期に弁護士をつけて示談交渉を始めるのがよいと思われます。
また、もともと少年と保護者のコミュニケーション不足が背景として少年事件を引き起こしていることが多いため、少年の保護者が面会に来るだけでは不十分な場合が多いといえます。そのため、少年のよき相談相手となり、少年の反省を促す者として、弁護士の少年との面会活動が重要になります。
2 次に、勾留期間が終ると、検察官は、家庭裁判所に少年の身柄を送致します。少年の身柄を送致された家庭裁判所では、今後の少年の処遇(少年院送致、保護観察、不処分など)を決めるにあたり、少年の生活状況を観察する必要があると認めた場合には、少年を少年鑑別所に送致する決定を出します。
比較的軽微な事件で少年の反省も十分な事件は鑑別所に送致されることなく、不処分決定が出されそこで手続が一応終わりますが、多くは少年鑑別所送致の決定が出されます。
鑑別所に送致されると、少年は、約3週間から4週間にわたり鑑別所で生活します。家庭裁判所は、少年鑑別所での少年の生活状況に関する記録、家庭裁判所調査官が行う少年・保護者との面会記録、事件に関する捜査記録などを基に、最終的な少年の処遇を審判で決めます。
この審判手続きが刑事事件でいう裁判手続きになりますが、成人に対して適用される刑事訴訟法の下では、起訴されて裁判になった場合には原則として国選弁護人が必ずつくのに対し(必要的弁護事件)、20歳未満の犯罪行為について適用される少年法の下では、審判手続きに検察官が関与する重大事件(殺人事件・強盗致死傷事件など)を除いて、必ず弁護士が付くものではありません。
国費をもって弁護士を「付添人」(つきそいにん)として付けることが出来る事件も、①故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪、②死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪と一定の重大事件に限定されています。
そのため、付添人として弁護士を付けたい場合には、保護者が自費で弁護士に私選付添人の依頼をしなければなりません。
前記のように、被害者がいる事件では被害者との示談成立の有無が少年の処遇を決める上で重要なポイントになりますし、また、少年の反省を促し、家庭環境を整える上でも付添人が重要な役割を果たします。
付添人は、少年と保護者だけでは不十分であった家庭環境を調整する役割も期待されていますので、付添人がいるということは、裁判所が少年の処遇を決める上でプラスの事情として考慮されることになりますので、可能であれば付添人として弁護士に依頼するのがよいでしょう。

 

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.06.20更新

大家が確認すべき賃借人の信用情報

 

<質問>

 私は、ワンルームマンションを購入し、しばらくの間、賃貸に出そうと考えてます。

入居の際に確認しておくべき賃借人の信用情報を教えて下さい。

 

<回答>

1 将来、家賃の滞納があった場合、訴訟をすれば民事の勝訴判決は比較的容易に得られます。

しかし、判決を得ただけでは、なかなか回収に結びつかないことが多いのが滞納家賃等の事件の特徴です。

 というのも、民事の場合、判決を得て債務者の財産を差し押さえようと思っても、債務者に実際に財産がない場合、或いは、財産の所在が分からない場合には、財産の差し押さえが出来ないからです。民事の勝訴判決を得ても、債務者に強制労働をさせて債権を回収することや債務者の資産を裁判所が職権で調査して差し押さえてくれるというのではないのが、債権回収の難しいところです。

 中には、滞納家賃が回収出来ないだけならまだよいほうで、家賃を長期間にわたり不払にされたまま、契約を解除してもアパートに居座わられたために、裁判をして強制執行により立ち退かせたため、多額の強制執行費用(ワンルームマンションで40~50万円かかる場合もあります)がかかったという事例もしばしばあります。

そのため、大家としては、万一の家賃滞納に備えて、入居予定者やその連帯保証人の資産状況をしっかり把握しておくことが大切です。

2 入居者の資産情報として、とくに重要なのは、入居者本人と連帯保証人の勤務先の把握です。

勤務先がしっかりしていれば(とくに長年勤めている会社員などあれば)、勤務先の給与を差し押さえることにより、判決後の家賃回収はスムーズにいきます。

 逆に、勤務先がはっきりしない場合、勤務先と言っても転々としたアルバイト勤務である場合には、勤務先のしっかりした方の連帯保証人を立てることが大切です。

 また、勤務先が変更になった場合には、随時、変更後の勤務先を賃貸人に連絡することを賃貸借契約書で明記しておくことも重要です。

なお、勤務先と言っても「自営業」の場合には、給与の差し押さえのようにスムーズに家賃の回収出来ないことが多いため(会社の役員報酬を差し押さえても、滞納者が支配している自分の会社の場合には任意に支払って来ない可能性があります)、入居者本人と自営業が会社であればその会社の取引先金融機関の銀行名・支店名などを把握することによって、万一に備えることになります。

ただし、銀行口座の差し押さえの場合には、銀行名と支店名を特定すれば、口座番号まで分からなくても差し押さえが可能ですが、差押えをした時点において預金が残っていなければ回収できないため、差し押さえに際してはなかなか難しい問題が生じることもあります。

3 この他に把握しておいた方がよい信用情報としては、入居者の負債情報があります。これは本人の申告内容を信用するしかありませんが、負債が多いと、当然のことですが、将来的に家賃の支払いが遅れがちになったり、破産申立をされて回収不能になったりするリスクが高まりますので、当然のことながらチェックすべき項目になります。

4 また、入居者の構成などもチェックすべき項目となります。子供と一緒に家族で入居する場合には、単身で入居する人よりも、家賃を踏み倒して出ていく事例は、比較的少ないように思います。

逆に、広いマンションを単身で入居する方の場合には、実際には複数で入居している場合があり、その場合に入居者間同士で家賃負担をめぐりトラブルになるケースなどもあります。

また、外国人の場合には、しっかりとした在留資格があるか否かを確認することも大切です。

5 このようにして、入居者や連帯保証人の情報をしっかりと確認してから、賃貸借契約の締結の有無を決めることが将来的に滞納家賃や契約解除による建物明渡などの事件に巻き込まれないための対策になります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

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