弁護士 秋山亘のコラム

2016.11.07更新

定期借家制度をご存じですか?-立退料の請求を受けないために

 

(質問)

(1) 私は、都内にマンションを一室所有しているのですが、そのマンションを貸し出したいと考えています。しかし、建物を一旦貸すと借家人の権利が強くて、なかなか返してもらえないと聞いています。3年後には、息子も大学を卒業し、卒業後は独立してコンピューター関連の商売を始めたいと希望しておりますので、3年後にはこのマンションを息子の事務所として使わせようかと考えております。その為、貸し出して良いものか迷っています。何かよい方法はないでしょうか?

(2) 私は、定期借家契約で事業用店舗を借りる予定なのですが、注意するべき点は、何かありますか?

(回答)

1 (1)の回答

 平成11年12月、借地借家法が一部改正され(平成12年3月1日施行)、新たに「定期借家権」という制度が創設されました。

 従来は、建物を期限を定めて賃貸しても、家主は、借地借家法上の「正当事由」(建物の自己利用の必要性等)がないと更新拒絶ができないとされ、また、その「正当事由」も裁判上は簡単には認められず、仮に認められても多くのケースでは立退料の支払が必要であるなど、賃借人が使用継続を希望する場合に家主が建物の返還を求めるには、大変な苦労を要する場合が多くありました。

 今回の改正法では、約定の期間の経過とともに、無条件で建物の返還を求めることができる「定期借家権」という制度が創設されました。本件でも、賃貸期間3年の定期借家契約によって、建物を賃貸すればよいでしょう。

 但し、法は、借家人保護の為、家主に対し、下記の手続きをきちんと踏むことを要請しています(これを一部でも怠ると更新可能な通常の借家契約になりますので注意が必要です)。

 <法定手続き>

書面によって契約をかわすこと。

この契約書には、「期間の満了とともに契約が終了し、更新をしないこと」を明記する必要があります。

②定期借家権の内容について書面を交付して説明すること
定期借家契約の終了時に通知をすること

貸主は、期間満了の6ヶ月前から1年前の間に、改めて「契約終了の通知」を借家人に対して出しておかなければなりません。万一、この通知を忘れた場合は、通知を出したときから6ヶ月経過後が契約終了時になります。

2 (2)の回答

  借家人は、期間の経過によって、無条件で建物を出なればなりません。

 この他に、定期借家契約では、途中解約権の制限にも注意しなければなりません。

 すなわち、定期借家契約では、「家主からも」「借主からも」中途解約権を原則として認めていません。従って、中途解約ができない以上、残存期間の賃料については、建物を使用しても使用しなくても支払わなければなりません。

 もっとも、法は借主保護の観点から、「床面積が200平方メートル未満の居住用建物の借家契約」において、「転勤・療養・親族の介護そのたやむを得ない理由があって、借主が生活の本拠として使用することが困難となった場合」には、借主からの中途解約権を認めています。

 ただ、本件のような事業用の借家契約の場合にはこのような例外規定もありません。中途解約権を留保しておきたい場合には、契約書にその旨明記しておかなければなりません。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.10.31更新

老朽化した建物の明け渡しと立退料-その2

 

<質問>

 建物の老朽化による立退請求の事案では、どのような事案であっても立退料の提供は必要なのでしょうか。

<回答>

裁判例としては、建物の老朽化による立退請求の事案では、ある程度の額の立退料の提供を必要とする事案が多いといえます。

しかし、東京地判昭61・2・28(判時1215・69)は、賃貸人Xが建物をXの弟である賃借人Y及びその子に賃貸しており、Yらは同建物で不動産業を営んでいたという事例で、当該建物の老朽化が進んでいること、Xの老後の生活安定のため本件建物を取り壊して建て替える必要があることから、立退料の提供なしに申し入れた解約について、正当事由を認めています。

この事例では、賃貸人と賃借人が兄弟であり、賃借人が建替計画を知って入居していること、賃借人が不動産業を営んでおり、移転が容易であることが特に考慮されて、立退料の提供を不要とされております。

 また、東京地判平3・11・26(判時1443・128)は、築後60年以上経過し老朽化が著しく、地盤崩壊等の危険性があること及び本件建物を取り壊して今後の生活の基盤となるビルを建築する必要があることなどを理由として薬局として使用している建物の賃貸借の解約の申し入れに、立退料の提供なく、正当事由を認めております。

この事例では、老朽化が激しく、地盤崩壊等の危険性など建物の安全性に鑑みて、公共の安全の見地からも建て替えの必要性が極めて高いことを重視して、立退料の提供なくして正当事由を認めたものと考えられます。

建物の地震に倒壊は、建物に面した道路を歩行する人の生命にも影響を及ぼします。その意味で建物は、公共的な存在であると言えます。

このような観点からすると、老朽化が激しく地震等による倒壊の恐れが現実的な事案については、立退料の提供なくして、立ち退き請求が認められるとする事案も今後は、少しずつ増えてくるのではないかと思われます。

 以上のように、建物の立退請求の事件は、事案によって高額の立退料の提供を要するものから、立退料の提供なくして立退が認められるもの或いはかなり低額の立退料で立退が認められるものまで様々ですので、立退請求の事案では一度専門家の弁護士に相談されることをお勧めします。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.10.24更新

老朽化した建物の明け渡しと立退料

 

<質問>

 建物の老朽が進み、建物の安全性が懸念される為、建て替えの必要性が大きいことを借地借家法28条の正当事由として、賃借人に建物の明け渡しを求めました。

 しかし、賃借人は、建物の貸主には民法606条により修繕義務があるのだから、建物に修繕を施すべきであり、建替を理由とした正当事由は認められないと言って、明け渡しに応じてもらえません。

 賃貸人に修繕義務がある以上、修繕が物理的に不能なほど老朽化しないと明け渡しを求めることは出来ないのでしょうか。

 

<回答>

 民法606条は、賃貸人の修繕義務を規定しておりますので、基本的には、建物が老朽化しても修繕を施すことで建物の使用を継続することが可能な限り、賃貸人としては修繕義務を尽くすべきでありますので、そのような事由のみをもって正当事由があると認めるのは困難です。

 もっとも、老朽化の程度と大修繕に要する費用如何によっては、修繕による建物としての効用期間の延長とその間の賃料収入による投下資本の回収可能性の見地からして、採算に見合わない場合にまで賃貸人に修繕義務を認め、建物への大修繕を実施させることは、賃貸人に酷であり、社会経済的な観点からの建物の有効利用の見地からも妥当ではありません。

 そこで、修繕による建物の効用期間の延長という修繕効果に照らし、修繕に過大な費用を要する場合には、社会経済的には修繕不能な状態にあるとして、賃貸人が修繕義務を果たさない場合においても、建て替えを理由とする明け渡しに正当事由を認めることも可能と考えられます。

 もっとも、このような場合においても、立ち退きという重大な不利益を被る賃借人においては、相当の補償がなされるべきですので、賃借人の被る不利益を考慮した相当額の立退料の提供が必要になります。

この点、①東京高判平3・7・16(判タ779・272)は、明治37、38年ごろに建築された建物で老朽化が著しく、修繕をするには新築以上の費用を要することを理由に家主側の正当事由として認め、電器店を経営し、かつ、居住する賃借人に対し、賃借人の4年間分の営業所得に相当する1500万円(現行家賃の34.9年分)の立退料を支払うことによって正当事由が具備すると判示しております。

また、②大阪地判昭59・7・20(判タ537・169)は、4戸建ての長屋のうち中央の2戸はすでに空き家となっており、建物全体としては相当老朽化が進んでいる事案において、修理には多額の費用を要するうえ、修理後の耐用年数も7、8年程度であるので、本件長屋を取り壊して建て替える方が経済的であるとして、立退料150万円(現行家賃の約24.0年分)を提供することにより正当事由が具備すると判示しております。

なお、前記の2つの事案では、立ち退料の金額に大きな違いが見られますが、その理由としては、①の事案と②の事案の基本賃料や土地価格の相違のほか、①の事案は、賃借人が電気店を営んでいたことからその営業補償を考慮しなければならないのに対し、②の事案は、単に個人としての住居であるため、移転費用(引越費用、新規借入費用と一定期間の差額家賃)を賄えれば十分と判断された為と考えられます。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.10.18更新

賃貸アパートにおけるペット飼育の法律問題

 

(質問)

1 賃借人が賃貸人に無断で犬を3匹も飼っています。しつけも悪く、アパートの内外で糞尿の汚れもひどく、夜鳴きもうるさいなど同じアパートの人たちからも苦情が来ています。

賃貸借契約書には「賃借人は、猛獣、爬虫類、犬、猫等の動物を飼育し

てはならない」との条項があります。

このような場合賃貸借契約を解除することができるでしょうか。

2 また、上記のような条項がない場合にも賃貸借契約を解除することができるでしょうか。

 

(回答)

1 質問1について

  (1) ペット飼育禁止特約の有効性

裁判例はこのようなペット飼育禁止特約の有効性を認めております。

 確かに、個人の空間で他人に迷惑をかけずにぺットの飼育をするならば問題はないようにも思えますが、たとえその飼育マナーが良い場合でも、共同住宅においてはペットの飼育そのものに嫌悪感を抱く方もいること、ペットの飼育それ自体により建物の傷み具合が進行すること、飼主にとっては気にならない鳴き声・抜け毛など有形無形の迷惑が生じている場合も往々にして認められることなどから、一律に犬・猫等のペット飼育の禁止をうたう特約も有効とされています。

(2) 契約解除の可否

 次に、ペット飼育特約が有効であり、それに違反してペットの飼育が

為された場合に直ちに契約解除までできるかというと、必ずしもそうではありません。

裁判例は、賃貸借契約を解除するには、客観的に見て、賃貸人と賃借

人との間の信頼関係が破壊されたと言えるような場合でなければならないとしております。

たとえば、ペットの飼育により本件のような迷惑行為が現に行われて

いる場合、賃貸人がペットの飼育をやめるよう再々に渡り催告したにもかかわらずこれをやめない場合には、信頼関係が客観的に見て破壊されたと言えるでしょう。

逆に、ペットを飼育していることが判明したが、近隣への目立った迷

惑行為もみられず、建物のペットによる損耗も預け入れ敷金による補修費の控除で十分に賄える程度の軽度の損耗しか認められない場合においては、賃貸人の催告によって賃借人が速やかにペットの飼育をやめれば、契約解除まで認めるのは難しいでしょう。

 

2  質問2

 (1) ペット飼育の可否

ペット飼育禁止特約がない場合には、猛獣や毒蛇等の危険動物の飼育

は別として、犬猫等の動物の飼育それ自体は原則として禁止されるものではありません。

契約後に賃貸人が一方的に犬猫の飼育を禁止することはできません。

(2) 用法遵守義務

しかしながら、賃借人は、特約がなくとも、「契約又はその目的物の

性質に因りて定まりたる用法に従いその物の使用及び収益を為す」という義務(民法594条、616条)、すなわち「用法遵守義務」があります。

したがって、この用法遵守義務がから、賃借人であるペット飼育者に

も、ペットの飼育をするにしても守らなければならない一般的な社会的ルールの履行が求められます。

具体的には、飼主には、糞尿の始末をきちんとする、ペットが夜鳴き

などをしないようしつけをきちんと施す、場合によっては動物病院で治療やその他の夜鳴き防止の処置をするなど、ペットの飼育により近隣に迷惑を及ぼさない義務、建物に通常の使用を超えるような損耗をさせない義務があります。

 そして、この義務に違反し、その義務違反の程度も、本設例のように著しい場合には、賃借人の用法遵守義務違反が認められるでしょうし、また、その義務違反により賃貸人との信頼関係も破壊されたとして、契約解除が認められるでしょう。

 なお、裁判例(東京地判昭和62年3月2日・判時1262号117頁)においても、ペット飼育により著しい迷惑行為があった事案では、ペット飼育禁止特約が設定されていない場合でも、上記の用法遵守義務違反と信頼関係の破壊を認定し、契約解除を認めたものがあります。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.10.11更新

退職届の無効・取り消し

 

<質問>

1 (1) 私は、仕事上のあるミスのことで会社の社長に呼び出され「このままでは懲戒解雇になる。懲戒解雇になれば次の仕事のために就職活動をしても採用されないだろう。今退職届けを出せば懲戒解雇にはしない」といわれ、本当に懲戒解雇になると思い込み、退職届を出してしまいました。その日自宅に帰り冷静になって考えてみると、あの程度のミスで懲戒解雇になるとはどうしても思えません。

 そのため、翌日、会社に退職届の撤回の申し出をしたのですが、一度出した退職届の撤回には応じられないの一点張りでかけあってもらえません。どうしたらよいのでしょうか。

(2) 私は、仕事上のあるミスのため、上司の部屋に呼び出され、3人の上司から長時間にわたり、仕事のミスのことで叱責された上、「この退職届に署名しない限り今日は家に帰さない。」とか「今後会社に残っても一生窓際族として扱うからな。覚悟するように。」などと言われて心理的圧力を加えて退職を迫られ、退職届に署名捺印してしまいました。

 翌日、会社に退職届の撤回の申し出をしたのですが、一度出した退職届の撤回には応じられないの一点張りでかけあってもらえません。どうしたらよいのでしょうか。

2 次に、会社側の対応として、退職届を出した従業員から、退職の意思表示の撤回(無効・取り消し)の主張があった場合には、どのような対応を取るべきでしょうか。

<回答>

1 1(1)の回答

本件のような場合には、まず、退職の意思表示が錯誤に陥ったものであることを理由に錯誤無効(民法95条)の主張をすることが考えられます。

 錯誤とは「思い違い」のことですが、些細な点について思い違いがあっただけでは、錯誤無効の主張は認められません。

本件について言えば、懲戒解雇事由など本当は存在しないのに、社長から「懲戒解雇にあたる」と言われて、本当に懲戒解雇事由にあたると思い込んで、退職届を出したという場合です。上記の事実の立証責任は、錯誤無効を主張する従業員側にありますので、退職届を提出してしまった場合には、解雇無効を争う事案よりも立証のハードルは高くなるといえます。

また、同じく、懲戒解雇事由が存在しないのに今回のミスは懲戒解雇にあたると嘘をつかれて、退職届けを出した場合には、詐欺取り消し(民法96条)の主張が可能です。

錯誤無効にせよ、詐欺取り消しにせよ、退職届を提出してから時間が経てば経つほどそのような主張は認められにくくなりますので、できるだけ早く書面によって上記の主張をしておく必要があります。

2 2(2)の回答 

 本件のような場合には、強迫による退職の意思表示の取り消し(民法96条)の主張が考えられます。

 退職に際して強迫的な言葉を言われた事実は、退職届を出した従業員側で立証する必要がありますので、退職届を出した時の状況をできるだけ証拠化しておくことが考えられます。

例えば、退職届の撤回を申し出て会社側と退職について協議をする際に、その際の会社側との遣り取りを録音テープで取っておくことなどが考えられます。

3 3の回答

 従業員側が主張する退職届の撤回(無効・取り消し)の具体的な理由について、従業員側に書面での回答を求めた上で、そのような事由の存否について会社側として具体的に回答することになります。

その上で、何らかの解雇理由に基き会社側が退職勧奨をしたという事実があるのであれば、予備的に解雇理由を示した上の解雇通知をしておくべきです。 

といいますのも、仮に錯誤や詐欺取り消しによって退職届が無効・取り消しとなると、少なくとも会社と従業員との間の雇用契約は解雇通知を出した時までは有効ということになります。

したがって、仮に退職届の無効・取り消しが認められた場合には、たとえ解雇が有効であると認められるような場合でも、解雇通知を出した時までの雇用契約は有効ということになり、解雇通知を出した時までの賃金支払い義務は生じてしまうことから、退職届の無効・取り消しが仮に認められた場合の予備的な通知であることを明示した上で解雇通知を出しておくべきでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.10.03更新

家賃の時効は何年ですか? 

 

最近、法律相談で「家賃の滞納が続いているのだけど支払ってもらえないのでそのままにしている」、「不況なので取立てを待ってあげている」ということをしばしばお聞きします。しかし、どうしても弁済を猶予してあげたいという場合でも、時効には注意しなければなりません。時効が完成してしまうと、法律上は債権(お金を回収する権利)が消滅してしまうからです。そこで、今回はこの時効という制度についてご説明したいと思います。

1なぜ時効という制度があるのか

 時効とは、①一定期間の時の経過と②時効の援用(時効の利益を利用するという債務者の意思表示)によって債権が消滅する制度です(民法166条以下)。 

 なぜこのような一見不合理な制度があるのかと言いますと、①法律上の権利関係が長年決着つかない状態であると社会生活が安定しないこと、②昔の出来事なので証拠がなくなってしまっているのが通常であること、③権利の行使を長年怠っていた債権者は保護されなくても仕方ないことが理由となっています。

2時効の要件;一定期間の時の経過

 では、一定期間の時の経過とはどのくらいの期間のことを言うのでしょうか。これはその取引の種類によって異なります。

 まず、民法上の一般原則は、10年です。個人間の金の貸し借り上の債権は、これに該当します。

 次に、商取引上の債権の時効は、5年です。企業がする取引上の債権は一般にこれに該当します。また、一方が個人でも、会社を相手とするお金の貸し借りもこれに該当します。

 以上2つが基本ですが、この他に短期消滅時効と言って特別に短い期間で時効が成立するものがあります。

①時効期間5年のもの…個人がする賃貸借契約上の賃料債権

②時効期間3年のもの…請負工事の代金、医療行為の治療代、不法行為による損害賠償請求権(加害者を具体的に知ったときから数えて3年)

③時効期間2年のもの…生産者・卸売商人・小売商人が売る物品の代金、学習塾の月謝、弁護士の弁護料、労働者の賃金(但し退職金は5年)等

④時効期間1年のもの…飲み屋のツケ、運送代金等

3時効完成を妨げるには

 このように、①時の経過と②時効の利益の援用で時効は完成しまが、時効の完成は「中断」によって妨げることができます。「中断」に該当すると、時効期間の経過は振出に戻り、一から再び始まるのです。

 中断事由としては、①請求、②債務の承認、③仮差押、仮処分、差押があります。

 ①請求とは、訴え提起するほか請求書や催告状を出すことも該当しますが、請求書等を出した場合はその後6ヶ月以内に訴え(裁判)を提起しないと、時効中断の効果はなくなってしまいますので注意が必要です。

 ②債務の承認とは、債務者が債務の存在を認めることですが、債務の一部を弁済をする、利息を支払う、債務者が支払の猶予を申し出るなども債務の承認に該当します。

 以上が中断事由ですが、これらを行う場合は、後に証拠となるように文書で残る形にするよう注意しなくてはなりません。例えば、請求書なら配達証明付内容証明郵便で出す、一部弁済なら銀行振込み形式にしてもらう、支払の猶予ならその旨の文書を債務者に一筆書いて頂く等です。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.09.20更新

素行不良な子に相続させない方法

 

(質問) 私は小さな洋品店を経営をしていますが、私の長男は高校を中退した後家業を継ぐことを拒み家出をし暴力団員となって10年余りになります。その間、長男は、ふらっと店に戻って来ては店のお金や商品を持ち逃げしたりするので、私がこれを諌めると私や妻に殴る蹴るの暴力をしたり、客や近所の人の前で私を罵ったりして侮辱をすることを繰り返してます。

 私には、長男の他に妻と次男の家族がいるのですが、私の唯一財産であるこのお店と土地は、現在店を手伝ってもらっている次男に相続させたいのです。暴力を繰り返してきた長男には、一銭たりとも相続をさせたくはありません、その余裕もあり線。何かよい方法はありますか。

(答え) 子に財産を相続させない方法としては、①遺言と②相続人廃除の申立てという方法が考えられます。

1 遺言の場合

 遺言による場合には「一切の相続財産を甲野次郎(次男)に相続させる」いう内容の遺言をすることによって、すべての相続財産は次男が引き継ぐことができます。

 しかし、このような遺言によっても、長男は遺留分減殺請求権を行使することができます。遺留分の制度とは、たとえ遺言で全ての遺産を特定の相続人に相続させたとしても、他の相続人は相続財産の一部について権利を主張することができるという制度です。各相続人は総遺産の1/2に各法定相続分を乗じた財産を遺留分として請求できます(なお、実際には店舗などの財産そのものを分配するのは困難ですから金銭での賠償になることが多いです)。

 本件では相続人が妻、長男、次男ですので、法定相続分は妻が相続財産の1/2、長男・次男がそれぞれ1/4となり、長男が遺留分減殺請求権を行使すれば、長男は遺産価格の1/8(=1/2×1/4)に相当する金銭の支払いを次男に請求できます。

 なお、遺留分の放棄という制度もあります。遺留分の放棄をするにはその本人が家庭裁判所に申し立てる必要があります。本件では長男がこの申立てをするとは思えません。

2 相続廃除の申立ての場合

 では、遺留分でさえ相続させたくない場合はどうすればよいのでしょうか。

 このような場合、相続人廃除の申立をすることが考えられます。

 これは、相続人が被相続人に対し虐待・侮辱を加えた場合やその他著しい非行があった場合に、家庭裁判所に申し立をし相続人廃除の調停又は審判を受けることによって、相続人の地位そのものを奪ってしまうという制度です(なお、廃除された相続人に子がいれば、その子に代襲相続させることはできます)。

 廃除を受けた相続人は相続人ではなくなるのですから、前記のような遺留分の権利もなく、全く相続を受けられなくなります。

 本件では繰り返し暴力を振るっていたり侮辱をしていたりしていますので、相続人の廃除は認められるでしょう。但し、相続人の地位を奪ってしまうものですから、申立人だけの一方的な申立だけで廃除が認められるわけではありません。裁判所は相手方を呼び出して相手方の意見もきちんと聞いた上で、公平な立場で判断します。

 なお、相続人廃除の申し出は遺言でもできますが、この場合には相続開始後、家庭裁判所に相続人廃除の申立をすることが必要です。そのために証拠になるような資料は残しておくべきでしょう。

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.09.12更新

大規模震災による建物倒壊と借地人保護-その2

 

<質問>

 平成元年3月に地主から期間30年で借りた土地上の木造建物が地震により倒壊してしまいました。借地上に建物を再築する場合、私の借地権はどうなるのでしょうか。

<回答>

1 本問のように、建物の再築という場面では法律的にいかなる問題が生じるのでしょうか。

(1) 本件では、借地権設定から約22年が経過しているので、借地権の残存期間は約8年となっています。

しかし、前号でご説明しました臨時処理法が適用される場合には、残存期間が10年未満の借地権については、残存期間を10年とするものと定められており、借地人の救済規定が設けられていますので(同法11条)、同法を適用される場合には、残存期間は10年となります。

この点、借地法では、借地契約の期間満了時に建物が存在しない場合には、地主は、借地人の土地使用継続に対し、法定更新を妨げるための「異議申立」に際して「正当事由」を不要としております(借地法6条2項)。

そのため、残存期間があと僅かで建築資金を確保して建物を再築するまで時間的な余裕がないという場合に、残存期間が10年延長されることは借地人のための大切な救済規定と言えます。

(2) 次に、残存期間がどれだけ短かろうと、借地権は建物が滅失しても消滅しません。

そして、建物所有を目的とする借地権が借地人にある以上、借地人には、建物所有のために土地を使用する権利があるので、災害によって滅失した建物を再築すること自体には問題はありません。

 しかし、本件のような場合、残存期間が8年(又は10年)にもかかわらず、何十年も利用できるような建物を再築すると、借地権の存続期間が満了した時点における借地権の更新拒絶や建物買取請求権(借地契約が期間満了により終了した場合に借地人が地主に借地上の建物を時価で買い取るよう請求できる権利)を行使した場合の時価算定など、複雑な問題が生じることになります。

そこで、借地法7条(本問は平成4年4月1日より前に設定された借地権なので借地法が適用されます)は、借地人が、このような借地権の残存期間を超えて存続するような建物を再築しようとしている場合につき、地主が遅滞なく異議を述べない限りは、借地権は建物滅失の日から起算して、堅固の建物(石造、土造、レンガ造又はこれに類するもの)の場合には30年間、非堅固の建物の場合には20年間、借地権が存続するものと規定しています。

他方、地主から遅滞なく異議が述べられた場合にも、再築そのものを止める必要はありません。この場合には、当初の契約における残存期間を超えて借地権を存続させることにはならないだけで、再築自体は可能です(この場合、異議を述べたことは、借地権の期間満了時に借地権の更新を地主が拒否した場合に、当該更新拒否の正当事由において地主側に有利に働くことがあります)。

 したがって、②の回答としては、再築をすること自体には問題はなく、再築につき地主が遅滞なく異議を述べてこなかった場合には、当該建物が堅固・非堅固どちらに当たるかにより、それぞれ建物滅失の日から30年間・20年間借地権が存続することになり、異議を述べてきた場合には、借地権の存続期間は8年(又は10年)のままになる、ということになります。

 なお、同様に平成4年8月1日以降に設定された借地権については、借地借家法が適用され、同法7条は、地主の承諾がある場合(1項)又は借地人からの再築する旨の通知に対し2カ月以内に異議を述べなかった場合(2項)に存続期間が20年延長する旨規定しています。                         

                       

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.09.05更新

大規模震災による建物倒壊と借地人保護-その1

 

<質問>

 平成元年3月に地主から期間30年で借りた土地上の木造建物が地震により倒壊してしまいました。借地が土地所有者によって第三者に売却された場合、私の借地権はどうなるのでしょうか。

<回答>

1 本問は、借地上の建物が滅失している間に、地主が底地を第三者に譲渡してしまった場合、借地人は、当該第三者に借地権を対抗できるかという問題です。

この点、借地権の対抗力については、「建物保護ニ関スル法律」1条が規定しています。同条によると、借地権が対抗力を有するためには、土地上に登記してある建物があることが必要です。

すると、土地上の建物が滅失してしまった場合には、対抗力は失われるので、借地が第三者に売却されてしまうと、その買主に借地権を対抗することは出来なくなってしまいます。

ただ、それでは、震災で建物を失くしたうえに借地も失ってしまうという具合に、借地人にあまりに酷です。

そこで、政令により「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下、「臨時処理法」)を適用すべき震災とされた場合で、同法の適用地域とされた場合には、同法10条により、5年間は借地上に登記された建物がなくとも第三者に借地権を対抗することができます(同法25条の2)。

したがって、5年以内に建物を再築し、登記をすれば、第三者への対抗という点では問題は生じないといえます。

ただし、現時点では、臨時処理法の政令指定は行われていないようです。なお、臨時処理法はかなり古い時期に制定された法律で、様々な問題を含んでいると指摘されている法律ですので、今後改正される可能性はありますので、その動向に注意する必要があります。

3 以上により、本問の回答としては、臨時処理法の適用がある場合には、5年以内に建物を再築し登記をすれば第三者への対抗という点で問題は生じません。

しかし、同法の適用がない場合には、可及的速やかに建物を再築して登記をする必要がある、ということになります。

4 次に、臨時処理法の適用のない場合でも、借地借家法10条2項は、借地上の建物滅失後の場合の対抗要件に関して、「借地上の建物が滅失した後2年間は、借地権者が、建物を特定するために必要な事項、滅失の日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示することを条件に、借地権はなお対抗力を有する」旨を定めております。

 なお、借地借家法は、平成4年4月1日以降に設定された借地権に適用のある法律ですが、上記の条項は、それ以前に設定された借地権にも準用されますので、本問の場合にも適用があります。

したがって、建物滅失後2年間は借地に立て札を立てることで地主が底地を第三者に譲渡しても対抗できます。

ただし、前記のとおり、2年経過後は、2年が経過する前に建物を再築し登記をしていなければ、登記をする前に当該土地を買い受けた第三者に借地権を対抗することはできませんので注意が必要です。

5 最後に、地主が土地を第三者に譲渡し、仮に借地人が借地権を第三者に対抗できない場合にも、地主に対する損害賠償請求は可能です。

地主としては、底地を第三者に譲渡し、借地権を消滅させた場合には、借地人に対し、損害賠償責任を負うことになります。                     

                       

投稿者: 弁護士 秋山亘

2016.08.29更新

大規模震災による建物倒壊と借家人保護

 

<質問>

 私は借家に住んでいたのですが、大地震により借家が倒壊してしまいました。借家契約上の賃貸人である土地建物の所有者に聞いてみたところ、現在のところ再築の目途はたっていないとのことでした。このまま住処のない状態が続いてしまうのでしょうか。

<回答>

1 借家の法律関係は、家を目的物とする賃貸借契約が締結されているということなります。本件では、借家が倒壊してしまったということですから、建物が「滅失」した場合に当たると考えられます。すると、契約の目的物が滅失してしまったことになるわけですから、契約は終了することになります。しかし、それでは借家人は生活の本拠を失ってしまうことになります。大規模な地震が起きた場合、そのような人が続出することを考えると、借家人保護の要請が極めて高い場面であるといえます。

 そこで、「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下、「臨時処理法」)25条の2では、「政令」により同法を適用する旨と適用地域を定めた場合には、当該地域に同法が適用されることとしています。阪神・淡路大震災でも、平成7年2月6日に公布・施行された政令によって、同法が適用されることとなりました。

2 同法においては、生活の本拠を失うこととなった借家人に次の3つの権利を認め、借家人を保護しています。

(1) 第1は、敷地の優先借地権です(同法2条)。震災により滅失した建物の借家人は、借地人がいない場合、土地所有者に対して、2年以内に建物所有での土地賃借を申し出ることによって、他者に優先して土地を賃借することができます。この優先借地権の存続期間は10年ですが(同法5条1項)、期間満了後も借地人が土地を使用している場合には、契約は更新されたものとみなされます(最判昭和47年2月22日)。なお、更新後の存続期間は20年となります(借地借家法5条、4条)。

(2) 第2は、借地権の優先譲受権です(臨時処理法3条)。震災により滅失した建物の借家人は、借地人がいる場合、借地人に対して、2年以内に借地権の譲受を申し出ることによって、他者に優先して借地権を譲り受けることができます。

 第1・第2の申し出があった場合、土地所有者・借地人は、土地を建物所有目的で自己使用するなどの正当事由がない限り、申出を拒絶することはできないとされています(同法2条3項、3条)。また、申出を受けてから3週間以内に拒絶の意思表示をしない場合には、3週間の期間満了後に申出を承諾したものとみなされます(同法2条2項、3条)。

(3) 第3は、再築後の建物の優先借家権です(同法14条)。震災により滅失した建物の借家人は、その建物の敷地に借家人以外の者(土地所有者・借地人など)が建物を建築した場合、完成前に申し出ることによって、他者に優先して当該建物を借り受けることができます。

第1、第2の申し出は、①土地所有者・借地人が建物を再築し始めているなど、当該土地を権原により現に建物所有目的で使用する者があるとき(同法2条1項但書、3条)、②法令で建物を建築するのに許可が必要な旨定められているのに、許可がないとき(同条項但書、3条)にはできないとされているので、これらの場合には第3の方法により保護される余地があることになります。

3 本件では、賃貸人である土地所有者に再築の目途が立っていないということですので、臨時処理法を適用する旨の政令が制定された場合には、前記の第1の保護を受けられる可能性があります。このように、臨時処理法の適用がある場合には、建物建築の資金さえ用意できれば、借地権という非常に財産的価値の高い権利を優先的に取得できるとされており、借家人を強力に保護しているといえます。

 

                            

                       

投稿者: 弁護士 秋山亘

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